希少職種図鑑 [土壌肥料]

職種概要

派遣中:2人
累計:148人
分類:農林水産
活動例:大学での土壌分析学の指導支援、土壌改善法の指導 など
類似職種:病虫害対策、野菜栽培

※人数は、2019年7月31日現在。

話=原田浩司さん(ネパール・2016年度1次隊)

Q メインの活動は?

 国の研究室が実施する土壌分析を実施したが、作物別施肥基準値の曖昧さ、土壌分析実施時に出る廃液の不適切な処理問題に加え、生産現場では大きくバランスが崩れた土壌は少ないなどの理由から、土壌肥料の面のみではなく、「今栽培ができている作物(雨よけトマト〈*1〉)の収量向上を目指す」活動に重点を置いた。導入が始まりかけていたセルトレイ(*2)を普及させるため、農家と一緒に都市部まで赴き、一括購入で安く仕入れ、サンプルを配布することで、篤農家(*3)を中心にセルトレイ育苗の有用性が口コミで広がった。また、不適切な農薬使用方法が顕著だったため、現地業務費を利用して、病害虫別の農薬適用表を作成・配布した。

*1 雨よけトマト…ハウスなど雨の当たらない場所で栽培するトマト。
*2 セルトレイ…小さなポットが連結している苗を育てるためのパネル。
*3 篤農家…熱心な農家。

Q 活動の最大の困難は?

 トマト後作(*4)のカリフラワー栽培における根こぶ病(*5)及びトマトの萎れ症状の発生への対応。国の病害虫対策に関する体制が不十分(研究所と現場の乖離など)で、明確な対策を立てることができなかった。特にトマトの長期栽培化を目指し、斜め誘引(*6)を指導したが、萎れ症状が顕著に増加したことで、農家の信頼を失い、当技術の普及を断念。いずれも、配属先スタッフとのコミュニケーション不足による、「この病害対策が急務である」ことを共有できなかったのが最大の失敗だと考えている。

*4 後作(あとさく)…後から植え付ける作物。
*5 根こぶ病…根こぶ菌によって根にこぶができ、植物が枯れてしまう病気。
*6 斜め誘引…植物の茎が斜めにはうように支柱やロープに紐などで結ぶこと。

さまざまな方法で管理・栽培をしたカリフラワーの根を見せ、根こぶ病に効果のある農薬や石灰を用いた土壌改良について伝える原田さん。原田さんは、3地区、30人程度の農家を重点対象農家として、1〜2週間に一度、全戸を巡回し、野菜栽培の指導を実施した

土壌改良について試した方法とその結果の根の状態

Q どう乗り越えましたか?

 根こぶ病に関しては、効果のある農薬・土壌pH改善(石灰の施用)などを指導したが、当初、実施する農家はほぼ皆無。任期終盤に現地を支援するNGOと出会ったことで課題を共有化でき、当病害に対する「動き」が現れ始めた。それにより配属先スタッフのひとりが興味を持ち、効果のある農薬、石灰、微生物資材を用いた試験圃を設置できた。試験圃(*7)の設置が初めての状況で、問題点はたびたび浮上したが、石灰などによる効果を「目で見てわかる結果」として農家に提示はできた。

*7 試験圃(しけんほ)…農産物を試験的に育てる場所。

Q 同職種の後輩隊員にメッセージをお願いします。

 派遣当初は、言語の問題もあり「役に立たない」ので「仕事も与えられない」状況が続くことがあるかもしれません。私は、土壌肥料分野にのみ固執するのではなく、自分の得意技(トマト栽培技術)を「大げさなくらい」アピールしました(配属先で実施する講習会において、絵を多用したトマト栽培資料をゲリラ的に張り出すなど)。その結果、面白がって講習会の時間を割いてくれるようになり、農家に認知され、圃場に招いてくれるようになりました。その後は、徹底的に巡回をして農家の信頼を得たことで、新技術導入を図れるようになり、現地に役立つ活動ができるようになったと思います。

原田さん基礎情報





【PROFILE】
1980年生まれ、広島県出身。地方公務員の普及指導員(*8)として施設野菜指導、研究員として3.11に伴う放射能性物質に関する調査・研究、たい肥や緑肥を用いた水稲・野菜の減肥栽培方法の検討を行う。退職し、2016年6月、土壌肥料隊員として、ネパールに派遣。18年6月に帰国。現在は、広島県の実家の「ビジネス旅館はらだ」にスタッフとして勤務中。

【活動概要】
カトマンズ都市近郊の野菜栽培農家に対して以下の活動を行う。
●セル苗育苗を中心としたトマト栽培支援
●トマト後作もしくはトマトに代わる換金作物の提案 (リーフレタス、キュウリなど)
●病害虫防除指導(病害虫別農薬対応リーフレット作成、カリフラワー根こぶ病抑制対策試験圃の設置)

*8 普及指導員…農林水産省が実施する国家資格で、農業従事者に直接農業技術の指導をしたり、経営の支援をしたりなどする人。

知られざるストーリー