活動Q&A集 〜協力隊技術顧問が回答〜

JICA海外協力隊への技術支援を目的に、分野ごとに配置されている技術顧問。派遣中隊員から寄せられた活動に関する相談と、それに対する技術顧問による回答の例をご紹介します。

【回答者】





坪山由美子さん
●JICA海外協力隊技術顧問(担当分野:日本語教育)
●専修大学文学部非常勤講師


Question 1:生徒たちの日本語学習に対するモチベーションの高め方について
〜中等教育機関で活動する日本語教育隊員より〜

 中等教育機関に配属され、選択科目である日本語の授業を担当しています。生徒たちが卒業後に日本語の能力を生かせる仕事に就ける可能性はほとんどないのが現状であり、生徒たちにとって日本は身近な国というわけでもありません。そのように、日本語を学ぶ意義が曖昧な生徒たちに、日本語を学ぶモチベーションを高めてもらう方法があれば教えていただきたいです。

Answer 1:

 学習意欲を高める方法を4つの領域〈1.注意(Attention) 2.関連性(Relevance) 3.自信(Confidence) 4.満足感(Satisfaction)〉で整理したARCSモデルでは、学習者の好奇心を刺激し、関心を持たせること(1)、学習を学習者の経験や知識と関連付けること(2)、学習が成功するように手助けすること(3)、学習者が学習の成果を実感できる機会を提供すること(4)が学習意欲を高めるのに効果的だとしています。これを日本語学習に当てはめてみると、以下の方法などが考えられます。
・「何だろう」と思わせる写真や映像を使う
・授業の始め方、進め方にバラエティを持たせ、パターン化することを避ける
・生徒が得意な分野や生徒の身近なことに配慮した、また、生徒が知っていることを利用した文例や会話例を提示して、学習負担を軽減する
・既習項目を取り入れて、過去の学習が次の学習を可能にしていることを生徒に実感させる
・やさしいものからむずかしいものへ生徒が着実に小さい成功を積み重ねられるようにする
・なぜできないかを生徒自身が確認できるようにする
・SNSなどのツールを利用して生徒が学校や自分の国について日本語で発信するなど、学習したことを使う場を作る
 もう一つは、「遠い日本を近づける」ことです。日本を身近に感じられるようにするために、百科事典的な日本ではなく、同じ年頃の日本人生徒がどんなことに興味を持ち、どんな生活をしているのかなどを、文例、会話例、読解文で取り上げます。例えば、中高校生のかばんの中身、勉強している科目、将来なりたい職業、興味があること、悩みなどを、学習する語彙や文型に応じて取り上げます。教師自身、または身近な人のライフストーリーをシリーズで紹介することもできます。さらに、学習者の自国にある日本や日本のもの(街で目や耳にすること、スーパーで売っているものなど)、日本について知りたいことを調べさせるなど、学習者自身が学習内容を選択できるようにするのも効果的です。


Question 2:実践的な日本語能力を高める方法について
〜大学の日本語学科で活動中の日本語教育隊員より〜

 大学で第二外国語として日本語を専攻する学生を対象にした授業を担当しています。生徒たちの多くは、卒業後、日本への留学や日系企業への就職を希望しており、高い学習意欲を持っています。しかし、彼らが授業以外で日本語を使うチャンスは少なく、会話の力を伸ばすのに苦労しているようです。ネイティブ話者が少ない環境で、実践的な日本語能力を高めるにはどのような方法があるでしょうか。

Answer 2:

 日本語を使う機会が少ない、ネイティブ話者が少ないという海外の状況で会話能力を上げるためにできることを二つ紹介します。

●身近に日本語会話の相手がいることを実感させる
 教室で、教師の指示、学習者からの許可求め、要望提示などを日本語で行えば、それは“real communication”(現実の場面でのやりとり)をしていることになります。学習が進むにつれて、遅刻の理由を述べたり、宿題を忘れた言い訳をしたり、また、教師が知りたいことを学習者に聞いたりすると、教師との間で“real communication”ができます。クラスメイトとも同様です。海外では学習者の母語が同じことが多く、日常的な会話をする上で日本語を使う必然性はありませんが、「今日のお昼、何食べる?」「ちょっとペン貸してくれる?」というようなやりとりを、母語でできるが日本語でもできるということを意識させていけば、学習者が自ら会話の機会を生み出すことができます。ネイティブ話者だけが会話の相手ではないということです。

●ネイティブ話者のやりとりを真似てみる
 “real communication”では、伝えたいことを表現するために場面に応じて必要な語彙や文型を話者自身が選択し、それを伝えた相手の反応を理解し、さらにそれに応えるということをしています。日本人がどのような場面でどういうやりとりをするのかを把握しておくことは、学習者が実際の場面に遭遇したとき、相手の発話を推測する助けになりますし、自分が表現を選択する際の参考にもなります。その意味で、日常設定の映画やTVドラマを視聴し、発話をディクテーションして整理したり、聞いたことをシャドーイングしたりすることも会話力を伸ばす助けになります。

 現在は、ネット上で学習の参考になるリソースを探すことができます。また、会話のパートナーを見つけて実際にやりとりすることも可能な時代になりました。教師は、そういう便利なツールを活用して日本語でやりとりする機会を作り出すのを手助けすることもできるでしょう。

ボランティア成果品 Pick Up 〜日本語教育分野〜







『日本語学科行事資料及びニュースレター』

【作者】タジキスタンの日本語教育隊員
【内容】日本語学科の学生の学習意欲向上を目的に作成した「学科の行事の記録集」(1)と「ニュースレター(4学年分)」(2)。
【形態】
(1)A4判・22ページ
(2)A4判・1学年分が約20ページ






『日本語初級会話テキスト(インドネシアの初学者向け)』

【作者】インドネシアの日本語教育隊員
【内容】インドネシアの日本語初学者向け教材。易しい会話表現をイラスト付きで紹介している。
【形態】カラー・約190ページ・日本語(ローマ字を併記)とインドネシア語
【構成】「挨拶」「数字」「生活」「趣味」「休みの日」ほか、全12パート






『パプアニューギニア大学 日本語ビデオコンテスト(2015年、2016年)』

【作者】パプアニューギニアの日本語教育隊員
【内容】ビデオで日本語の能力を競う「日本語ビデオコンテスト」の出場作品集。課題は「自分たちの文化の紹介」で、「ダンス」や「葬式」、「民話」などが取り上げられた。
【形態】1作品5分程度・日本語
【構成】画像や動画に日本語のナレーションやインタビューを入れたビデオ

知られざるストーリー