自作の教科書のダウンロードが可能な
ウェブサイトを創設

古川 愛さん(タンザニア・PCインストラクター・2016年度4次隊)の事例

地域開発に携わる人材の養成機関に配属され、ICT授業の支援に携わった古川さん。任期終盤、授業のために作成してきたレジュメをまとめた教科書をつくり、その共有手段としてダウンロードサイトを立ち上げた。

古川さん基礎情報





【PROFILE】
1989年生まれ、愛知県出身。大学の商学部を卒業後、金融機関の一般事務職を経て、2017年3月、協力隊員としてタンザニアに赴任。19年3月に帰国。

【活動概要】
地域開発に携わる人材の養成機関であるルンゲンバ地域開発訓練校(イリンガ州マフィンガ県ルンゲンバ)に配属され、主に以下の活動に従事。
●ICT授業の実施
●ICT授業の教科書の作成
●パソコンルームのパソコンの修理
●学生の実習レポートのデータベース作成


パソコンルームで古川さんが行ったICT授業の様子。教科書がなかったため、自作のレジュメをプロジェクターで壁に映写して授業を進めた

パソコンの「基礎の基礎」を何度でも振り返ることができるようにとの意図で古川さんが作成した、ポスター形式の教材

 古川さんが配属されたルンゲンバ地域開発訓練校は、地域開発に携わる人材を養成する教育機関。日本の中学校にあたる教育課程を修了している女性が通える3年制の学校で、学生数は1学年百数十人という規模だ。第1学年と第2学年にICT授業が設置されており、その支援をすることが古川さんに求められた活動だった。
 カウンターパートとなったのは、ICT授業を担当していた男性教員(以下、CP)。古川さんは、着任してしばらくは彼の授業を見学し、現地の授業のやり方や学生のレベルなどの把握に務めたが、やがて彼とチームティーチングで授業を行うようになった。学生の大半は、「スマホは持っているが、パソコンは持っておらず、使ったこともない」という状況。ICT授業にはカリキュラムが設けられていたが、到達目標とされていたのは、エクセルで簡単な関数を使った表をつくることができる程度の初歩的なレベルだった。
 ICT授業にあった問題は、カリキュラムの内容に沿った教材がないという点だ。CPは従来、インターネットなどで教材となりそうな資料を集め、プロジェクターで教室の壁に映写。授業中、複数の資料のなかから次に見せるものを探し出すのに時間を取られていた。用紙のコストを考え、「プリント教材は配らない」というのが教員間の暗黙の了解となっていた。CPとのチームティーチングでは、古川さんがカリキュラムの内容に沿ったレジュメを作成し、プロジェクターで学生に見せた。

CPへの技術伝達も視野に

自作の教科書をダウンロードしてもらうために古川さんが作成したウェブサイトのトップページ

 年度のカリキュラムをひととおりこなし終えた任期の終盤、古川さんは毎授業で作成してきたレジュメを再構成し、1冊の教科書を編纂した。分量は、A4判で50ページほど。時間の都合上、レジュメに盛り込んだものの、授業で解説しきることができなかった箇所を、学生たちに独学してもらおうというのが、教科書作成の主な狙いだ。
 教科書の共有方法として古川さんが着目したのが、学生たちの多くが「スマホ」を持っていた点。教科書をPDF化し、学生たちがスマホで閲覧できるようにしようと考えた。
 当時、配属校には学生や教員が電子データを容易にやりとりできるようなLAN(*1)はなかった。そこで古川さんが選択したのは、オリジナルのダウンロードサイトをレンタルサーバー(*2)に立ち上げ、インターネット経由で学生たちに教科書のデータをダウンロードしてもらうという方法だ。インターネット上のダウンロードサイトであれば、校内でなくてもアクセスが可能であり、卒業生や入学予定者など、より広範囲の人たちにデータを共有することも叶う。古川さんには、ウェブサイトの設計図にあたるものを作成したり、それをレンタルサーバーに置いてインターネットで公開したりするのに必要な知識があった。
 レンタルサーバーの貸し出しを行うホスティング事業者は、格納できるデータの容量など利用可能な機能の違いにより、料金の異なる複数の利用プランを設けている。古川さんは、自分の帰国後にCPがサイトを管理できるよう、彼が理解可能な英語のウェブサイトを設けているホスティング事業者のプランで、無料のものを選んだ。教科書のPDFは、圧縮すると5メガバイト程度の小さなサイズになった。月あたりに送受信できるデータの容量に上限が設定されたプランでスマホを利用している学生にとっても、ダウンロードの負担が軽いサイズだ。
 ダウンロードサイトを稼働し始めることができたのは、古川さんの帰国直前。配属校が長期休暇に入っていた時期だったため、古川さんはサイトの管理に必要な情報をCPに伝えたうえで、サイト開設に関する学生への告知を依頼。告知用のポスターも作成しておいた。
 CPが今後、サイトを維持し続けてくれれば、ICT授業に関して学生たちに共有したいデータや情報の共有手段になる一方、インターネットやウェブサイトに関するCP自身の知識・技術の向上にもつながる。古川さんはそんな期待をしながら、ときどき日本からサイトの様子をチェックしている。

*1 LAN…1つの施設の中など、限られたエリア内のコンピュータをつなぐネットワーク。
*2 レンタルサーバー…ウェブサイトの設置場所などとして使うために貸し出される、インターネット上のサーバー。

ITコンサルタントからのOne Point Advice

adviser:原 秀一さん
●協力隊経験者(タンザニア・コンピュータ技術・2001年度3次隊)
●株式会社 ict4e 代表

 ICT技術を指導する隊員が、レンタルサーバーにウェブサイトを立ち上げ、そこから教材などをダウンロードできるようにする作業を教え子や同僚とともに行えば、技術伝達の手段としてとても有意義だと思います。以下、レンタルサーバーの利用に関して留意すべき点を挙げます。

[セキュリティ]
レンタルサーバーに立ち上げたサイトへのアクセスを制限したい場合、「IDとパスワードを入力しなければサイトが閲覧できないようにする」という方法をとるのが一般的です。しかし、「共通のID・パスワード」は、「自分のメールアドレス」に比べると他人に漏らすことに抵抗が薄いものです。「自分のメールアドレスとパスワード」の入力をアクセスの条件にできるGoogle ドライブなどとの違いを教え子や同僚に伝えることが有益だと思います。

[継続性]
無料で利用できるレンタルサーバーは、一定期間で更新の手続きが必要なものや、一定期間後から有料になるものもあります。隊員の任期終了後は同僚に更新手続きをしてもらう、あるいはしばらくは隊員自身が日本にいながら更新手続きをフォローする、といったことが必要になります。

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