LINEのビデオ通話機能で
日本の児童との交流プログラムを実施

小野口仁美さん(エチオピア・小学校教育・2017年度1次隊)の事例

首都の小学校に配属され、実技教科の支援に取り組んだ小野口さん。LINEのビデオ通話機能を使い、エチオピアと日本の児童たちが交流するプログラムの開催にも挑戦した。

小野口さん基礎情報





【PROFILE】
1984年生まれ、栃木県出身。同県の公立小学校教員を経て、2017年7月、協力隊員としてエチオピアに赴任(現職教員特別参加制度)。19年3月に帰国し、復職。

【活動概要】
首都のアジスアベバ市にあるリデタリマット小学校に配属され、主に以下の活動に従事。
●美術・音楽・体育の授業の支援
●音楽クラブの立ち上げと支援
●配属校と日本の小学校の間の交流プログラムの実施


 小野口さんが配属されたのは、首都にある児童数約500人の小学校。美術・音楽・体育の実技3教科の授業を支援することが、求められていた役割だ。
 同国の小学校は8年制で、体育の授業は全学年にあったが、他の2教科は6年生まで。5〜6年生では3教科のそれぞれに独立の授業枠が与えられていたが、1〜4年生の間は「エステティック」という1つの授業枠のなかで3教科の授業が行われていた。小野口さんの配属先では、エステティックを担当する教員が各学年に1人ずつ配置され、5〜6年生の実技教科はエステティック担当の教員、もしくはほかの教科を担当する教員が兼務することとなっていた。
 小野口さんのカウンターパートとなったのは、体育を専門とするエステティック担当の男性教員(以下、CP)。任期を通して、彼が担当する授業でチームティーチングを行った。任期の1年目に入った授業は、1年生のエステティックと6年生の美術。2年目は、4年生のエステティックと6年生の美術の授業に入った。クラス数は、いずれの学年も2クラスずつだ。
 小野口さんが特に力を入れたのは、CPの専門外である美術と音楽の授業。彼にはこの2教科の授業で行うアクティビティの引き出しが少なかったことから、そのアイデアをなるべく多く知ってもらえるよう努めた。美術の授業で実際に行ったのは、スクラッチやスタンプ、ブラシアートなど。音楽の授業では、リズム遊びや英語の歌、鍵盤ハーモニカなどの指導を行った。

日本の所属先校から寄贈された鍵盤ハーモニカを使い、その指導をする小野口さん

美術の授業でスクラッチ(色を塗り重ね、上から引っかいて絵を描く技法)に取り組む児童

児童が制作したスクラッチの作品

「音楽」を通じた交流に

日本の小学校との交流プログラムの様子。日本から送られてくる映像は、右端のテレビ画面に映し出している。手前のスピーカー(筒状のもの)は、ダンスを披露する際にパソコンに保存した音楽を流すのに使った

交流プログラムで、通信用のスマホを手に児童たちからの質問を拾うカウンターパートと小野口さん

 現職参加の立場を生かし、配属校と日本の所属先校の間で児童が交流するプログラムを実現させたいという思いは、赴任前から持っていた。その後押しとなったのは、任期の半ばに配属校がインターネット接続サービスの利用を始めたことだ。通信量を気にせずに校内でインターネットが利用できるようになり、そこから小野口さんは、SNSのビデオ通話機能を使って両校の児童が交流するというプログラムを練り始めた。
 日本側のパートナーとして声をかけたのは、日本の所属先校で当時、6年生の主任を務めていた女性教員(以下、Aさん)だ。小野口さんとは、派遣前に同じ学年の担任を務めたことのある仲であり、小野口さんの赴任後、道徳の研究授業で小野口さんを題材に取り上げてくれてもいた。Aさんとの間で固めたプランは、以下のような内容だ。
■Aさんが受け持つ6年生のクラスの児童と、小野口さんが美術の授業を担当する6年生のクラスの児童の間の交流とする。
■ビデオ通話での交流であるメリットが生かせるよう、「音楽」のパフォーマンスを互いに披露し合う。具体的には、日本側は地域の民謡をリコーダーや鍵盤ハーモニカなどで演奏し、エチオピア側は国内の各種民族の伝統ダンスを披露する。
■パフォーマンスを見せ合った後には、互いに自由に質問し合う時間を設ける。
■日本側はALT(外国語指導助手)が、エチオピア側はCPがやりとりの窓口となる。彼らどうしは英語で会話し、ALTが日本語と英語の間の通訳を、CPが英語とエチオピアの現地語の間の通訳をする。
■時間は、両校の授業1コマ分にあたる45分間とする。
 プログラムで使う機材やSNSは、事前にテストを重ねたうえで選んだ。パソコンでSkypeのビデオ通話を試してみたところ、頻繁に中断。結局、スマホでLINEのビデオ通話機能を使うこととなった。LINEは、小野口さんもAさんも使い慣れたものだった。
 スマホの画面は大勢の児童にいっせいに見ることができないため、エチオピア側はスマホをHDMI(*)のケーブルでテレビ画面につなぎ、映像を映し出すことにした。また、児童がダンスを披露する際にかける音楽は、スマホのマイクでも拾えるよう、Bluetoothスピーカーを使って大きな音で流した。
 当日は、開始から30分を過ぎたあたりで通信が途切れてしまったが、いくつかの質問を投げ合うところまでは無事に進めることができた。
 プログラムの後、CPはこんな感想を述べた。「やって良かった。異なる国の同じ年代の子どもたちが、映像を含むダイレクトな交流をすることは、とても大きな刺激になったと思う」。実際、参加した配属校の児童たちからは、「日本の子どもたちは、あんなにきれいに並ぶのかと驚いた」「1人が1台、楽器を持っていたのはすごい」といった感想が聞かれたのだった。

* HDMI…映像と音声を1本のケーブルでまとめて送ることができる通信規格。

ITコンサルタントからのOne Point Advice

adviser:原 秀一さん
●協力隊経験者(タンザニア・コンピュータ技術・2001年度3次隊)
●株式会社 ict4e 代表

 現在、無料でも利用可能なWeb会議用のツールにはさまざまなものがあります。ここでは、ツールを選択する際に着目すべき点をご紹介します。

[画質]
ZoomなどWeb会議に特化して設計されたサービスは、一般に画質が適度で接続も安定しており、パソコンでの参加や画面共有もできます。国により通信やサービスの事情は異なるので、事前にテストを行い、実際に使う回線に適しているかどうかを確認するのがお勧めです。

[準備の手間]
Zoomは主催者のみがアカウントを取得すれば実施できるのに対し、LINEやSkypeなどのビデオ通話機能は参加者全員が取得しなければなりません。その負担を減らすには、参加者がすでにアカウントを持っているサービスを選択する必要があります。

[多拠点通話]
現在、LINEなどWeb会議に特化して設計されたわけではないサービスのビデオ通話機能でも、3人以上のWeb会議が開けるようになっています。ただし、参加できる人数や機能はサービスごとに違いがあります。

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