教え子のプレーをスマホで撮影し、
技術指導に活用

髙里 樹さん(スリランカ・体育・2017年度1次隊)の事例

幼稚園や小・中・高等学校を巡回し、運動部での技術指導などに取り組んだ髙里さん。効率的な指導方法として取り入れ、有効だったのは、教え子のプレーをスマホで撮影し、その映像をもとに改善すべき点を考えさせるというものだ。

髙里さん基礎情報





【PROFILE】
1980年生まれ、沖縄県出身。(社)日本ブラジル交流協会のプログラムによるブラジル留学研修、沖縄県内の青少年相談センターの巡回指導員などを経て、同県内の中学校の保健体育科教諭に着任。2017年7月、協力隊員としてスリランカに赴任(現職教員特別参加制度)。19年3月に帰国し、復職。

【活動概要】
トリンコマリー県教育事務所の体育・スポーツ課に配属され、県内の幼稚園や小・中・高等学校などを巡回して主に以下の活動に従事。
●運動部の競技力向上支援(陸上競技、バレーボール、サッカー、卓球)
●運動部がない中学校でのスポーツの普及
●幼稚園や小学校での運動習慣の定着支援


 髙里さんが配属されたのは、県の教育行政機関の体育・スポーツ課。活動の柱となったのは次の3つだ。
(1)既存の運動部の競技力向上支援 県内の中・高等学校に以前から存在した陸上競技、バレーボール、サッカー、卓球のクラブを回り、競技力向上に向けた指導を実施。回ったのは約10校。
(2)運動部がない学校でのスポーツの普及 指導者が足りず、運動部がなかった農村部の中学校を回り、体育授業の時間を借りてバレーボールやサッカーを指導。回ったのは約10校。
(3)運動習慣の定着支援 体育の授業が行われておらず、子どもたちに「運動する」という習慣がなかった幼稚園や小学校を回り、ケンケンパなどの「運動遊び」や、動物になりきって体を動かす「表現運動」などを紹介。回ったのは、幼稚園が2カ所と、小学校が3カ所。
 髙里さんは、以上の3タイプの活動を並行して実施。1日に2、3校を回るという、「超巡回型」の活動スタイルだった。配属先には、カウンターパートにあたる体育担当の指導主事が1人いたが、自身の業務で多忙だったため、巡回は基本的に髙里さんが単独で実施した。

運動するスペースが敷地内になかった幼稚園の園児たちが、敷地の脇の路地で「ケンケンパ」に初挑戦する様子

動物の真似をする「表現運動」に取り組む幼稚園児たち

髙里さんの指導により、中学校の体育授業に導入されたパレーボールに取り組む生徒たち


教え子が全国大会で入賞

スマホを活用した髙里さんの指導を受け、砲丸投の全国大会で入賞を果たした女子中学生

髙里さん(右端)がスマホで撮影した映像を見ながら、自分たちのプレーの課題を確認する中学校の陸上競技部の部員たち

 髙里さんが活動で直面した困難には、次の2つがあった。
■多くの幼稚園や学校を回って指導する「超巡回型」の活動だったため、いずれの巡回先でも、時間をかけて指導することが難しかった。そのため、教え子たちの競技力を短時間で効率良く向上させるために工夫を凝らす必要があった。
■巡回先の教え子たちが使う言語はタミル語。髙里さんが派遣前訓練で学んだのは英語で、タミル語は短期間の現地語学訓練で学んだだけだった。そのため、体の動きに関する細かなニュアンスなどを伝えることは、当初、難しかった。教え子に伝えたいことを巡回先の現地教員に英語で伝え、タミル語に訳して教え子たちに伝えてもらうといったやり方も試みたが、指導ははかどらない。髙里さん自身が手本を実演し、言葉による細かな説明を介さずに指導するという方法も試みたが、正確な手本を示すことは、かならずしも容易ではなかった。
 以上の2つの困難への対処として試み、有効だった方法は、スマホで教え子たちのプレーを撮影して、それを本人たちに見せ、技術の向上につなげてもらうというものだ。髙里さんは赴任前、日本の中学校で保健体育科の教員として働いていたが、日本の中学校の体育授業や運動部でも、近年はiPadで生徒のプレーを撮影して電子黒板などで見せ、改善すべき点を理解させるということが一般的になりつつあった。
「スマホで教え子のプレーを撮影し、見せる」という方法を実践したのは、主に前述の(1)の活動のなかでのことだ。バレーボールなど「団体競技」の指導では、練習ゲームの様子などを撮影。その映像を室内でパソコンを使って部員たちに見せ、さらにホワイトボードで細かな動きの解説を加えるなどして、技術の改善を促した。
 一方、「個人競技」の指導では、より有効にスマホを活用することができた。
 髙里さんが学生時代にプレーしていたのはバレーボール。体育教員となるための教育を受けるなかで、ほかの競技の素養は身につけていたものの、すべての競技について深い知識を身につけるのは難しい。(1)の活動でとりわけ難儀したのは、砲丸投や円盤投、槍投など、ほとんど体験していなかった陸上競技の投擲種目の指導だ。
 そんななか、スリランカには当時、陸上競技を専門とする隊員が離れた場所で活動していた。髙里さんは、スマホで撮影した教え子たちのプレーの映像や写真を、その隊員にLINEで送付。指導に関するアドバイスを求めたところ、LINEに備わるペン入れの機能を使って改善すべき点を写真に図示し、送り返してくれた。「槍投や円盤投の適切な投射角度」や「砲丸投の構えの適切な膝の曲げ方」などに関するものだ。髙里さんは、送り返された写真を教え子に見せ、指導の助けとした。
 そうした指導は、期待通り、教え子たちの技術の向上につながった。とりわけ顕著な成長を遂げたのは、砲丸投げの女子中学生だ。髙里さんが指導を始めた当初は、フォームも自己流で、成績も初心者レベルだった。ところが、前述の隊員の力添えを得ながら指導を続けたところ、州大会のU‐14のカテゴリーで優勝し、全国大会で7位に入賞するまでになった。

ITコンサルタントからのOne Point Advice

adviser:原 秀一さん
●協力隊経験者(タンザニア・コンピュータ技術・2001年度3次隊)
●株式会社 ict4e 代表

 スマホに接続し、そこに保存してある動画を映し出す小型の映写機「モバイルプロジェクター」の種類が近年、急速に増えています。薄暗い室内の白っぽい壁をスクリーンにできるものです。値段は数千円レベルから、大きさも「手のひらサイズ」のコンパクトなものからあります。充電式バッテリー内蔵タイプの場合、電源がない場所でも使用可能であり、スポーツや音楽などの指導に携わる隊員に有用でしょう。ここでは、その活用のコツをご紹介します。

[三脚]
意外に難しいのは、適当な高さと適当な角度で映写するためにモバイルプロジェクターの設置を調節することです。そこで重宝するのが、専用の「三脚」。「手のひらサイズ」で構わないので、プロジェクター本体よりも少し重いものが安定性の点でオススメです。

[モバイルバッテリー]
スマホやモバイルプロジェクターの「バッテリー切れ」の心配を打ち消してくれるのが、それらの充電が可能な「モバイルバッテリー」です。数千円程度でさまざまな機種が出されています。

知られざるストーリー