希少職種図鑑 [学芸員]

職種概要

派遣中:11人
累計:52人
分類:人的資源
活動例:国立博物館における文化財の保護管理、展示方法の改善 など
類似職種:司書 など

※人数は、2019年8月31日現在。

話= 石川雅啓さん(ドミニカ共和国・2015年度3次隊)

Q メインの活動は?

博物館の収蔵庫で土器の整理を行う石川さん。作業はひとりで行っていたが、帰国直前に活動に興味を持った用務員が作業を手伝ってくれるようになった。「細かい技術などを伝えることはできませんでしたが、先住民への敬意を持って遺物を扱わなければならないことは伝えることができました」(石川さん)

 配属先の目標は館内の収蔵品の目録の作成だということで、目録を作成する上で収蔵庫内に放置されている遺物(*)の問題の解決を優先すべきと考えました。まず、30〜40年前に作成された目録に記載されている遺物の情報と、実際に展示ケースや収蔵庫の棚に並んでいる遺物の情報とを比較してデータ化する作業を実施。カウンターパートは赴任後ほどなくしていなくなったため、一連の作業は私一人で行いました。プラスチック製の箱が届いてからは、整理作業を開始。私が作成した書式に必要事項を記入し、所定の作業を終えた遺物は梱包して箱に収納しました。

Q 活動の最大の困難は?

 一般的に博物館で収蔵庫にある土器や石器など貴重な資料は、丈夫なプラスチックの箱の中で綿などにくるまれて保管されており、万一の地震や過失で落下させても壊れないよう保管されていると思います。しかし、この博物館では開館以降、台の上にただ並べられているなど、決して適正な保管はなされていませんでした。そんな中、私は1年以上にわたり館長に適正な保管の重要性を伝え、プラスチックの箱を購入するよう訴えかけました。館長は博物館の運営は文化省に委ねられており、許可が下りないと回答するのみで事態が一向に好転せずにおりました。

Q どう乗り越えましたか?

 この押し問答を続けるよりも、次代を担う小中学生に対して文化財の大切さを伝える方がやがて世論を動かす可能性があるため、小中学校数校で土器づくり教室などの体験学習を実施しました。小中学生には実物の土器を見せた上で、粘土遊びにならないよう、あくまで本物を目指してつくるよう指導しました。残りの任期が3カ月となったころ、館内に突然プラスチックの箱が届いたため、無事整理作業に復帰することができました。

Q 同職種の後輩隊員にメッセージをお願いします。

 文化財保護は、直接的に日々の命をつなぐことに結びつかないため、後回しにされることがあるかもしれません。私はそうした状況に打ちひしがれるたび、文化財を大切にすること、それらを受け継ぐことによって、その土地に生きる者としての誇りが醸成され、魅力あふれる社会が築き上げられるという、最終的な到達点を幾度も把捉し直しました。そこへ到達する素地を整える上で私の活動は役立つのだと、ある種自分自身を納得させていたように思います。館長にたびたび真情を吐露しましたが、こうした葛藤や現地人と触れ合う経験は、帰国後必ず生かされます。思う存分に世界を、自分を変える2年間を過ごしてください。

* 遺物…遺跡から出土した、土器や石器といった人工物のほか、貝や骨、植物の種、炭化物など。

石川さん基礎情報





【PROFILE】
1993年生まれ、茨城県出身。2015年、茨城大学人文学部を卒業し、16年に協力隊へ参加。18年に帰国後、復興庁職員として石巻市教育委員会生涯学習課に赴任し、東日本大震災の復興に伴う埋蔵文化財発掘調査や関連する諸業務に従事。19年、文化庁長官より感謝状を受賞。

【活動概要】
ドミニカ共和国の国立人類学博物館 (現在は無期限休館中)にて、当国における文化財の保存と活用の促進を図るため、以下の活動を行う。
●収蔵庫内に放置されている遺物の整理作業
●小中学生を対象とした土器づくり教室などの体験学習

知られざるストーリー