手づくりの補助教材を開発し、
生徒たちの実技の力の向上を後押し

津村 実さん(シニア海外ボランティア/ザンビア・PCインストラクター・2016年度3次隊)の事例

職業訓練校に配属され、ITの授業を担当した津村さん。PCに触れたことがない生徒たちの実技の力を上げるため、補助教材の開発に工夫を凝らした。

津村さん基礎情報





【PROFILE】
1950年生まれ、大阪府出身。関西学院大学を卒業後、製薬会社に就職し、主にIT関連業務に従事。2015年に退職した後、17年1月、シニア海外ボランティアとしてザンビアに赴任。19年1月に帰国。

【活動概要】
キトウェ職業訓練校(コッパーベルト州キトウェ郡キトウェ)に配属され、主にITに関する以下の活動に従事。
●IT授業の実施(扱ったテーマは、ワード、エクセル、パワーポイント、コンピュータ基礎学、タッチ・タイピングなど)
●教員やスタッフへのコンピュータに関する技術指導
●コンピュータ室の管理・運営
●カウンターパートへの5S活動指導


 津村さんの配属先は、国内第2の都市にある職業訓練校。機械科や電気科などいくつかの専門学科が設けられ、500人ほどの生徒が在籍していた。津村さんのメインの活動となったのは、全学科の選択科目となっていたITの授業を、カウンターパート(以下、CP)と分担することだ。
 配属校の生徒の大半はPCを持っておらず、IT授業を選択した生徒がPCに触れる機会といえば、週に1、2回あるITの授業がすべてという状態。授業で求められていた達成目標は、PC操作の基礎を習得させることだった。IT授業を受講する生徒の人数は、1授業あたり30〜50人程度。それに対し、IT授業を行うPC教室に当初設置され、使用可能だったPCは、わずか9台だった。しかも、週に2度ほどのペースで停電が発生し、一時PCが使えなくなった。津村さんはそうした状況に合わせて、さまざまな補助教材を開発していった。
 停電中にできる指導のための補助教材は、前もって準備しておいた。エクセルなどの操作をわかりやすく説明するための紙芝居などだ。
 つくった補助教材のなかでとりわけ効果が高かったのは、ペットボトルでつくったマウスの模型だ。授業中にPCを操作する生徒の手の動きを観察すると、マウスでダブルクリックするときに、1度目のクリックと2度目のクリックの間にマウスを動かしてしまっていたり、ドラック&ドロップの最中にマウスを押す指を外してしまったりと、細かな操作が苦手だと感じられる生徒が多かった。そこで、「マウスさばき」の肉体的な訓練をする道具としてつくったのが、ペットボトル製のマウス模型だ。PCが空くのを待つ間などに、それを使って練習をさせた。すると、当初はダブルクリックもおぼつかなかったような生徒であっても、1つの学期でマウスの基本操作が難なくできるようになるのだった。

津村さんが手づくりした補助教材のひとつである「PC構造パズル」。PC内の部品や、それらの間の関連性を示すカードを並べて、PCの構造を学ぶものだ

「PC構造パズル」の並べる前のカード

タイピング技術は一生の宝

 手元を見ないでタイピングする「タッチ・タイピング」を習得するために作成したのは、キーボードを実寸大でプリントアウトし、「どのキーを、どの指でタイプするか」を色分けで示した補助教材だ。常に人差し指を置いてキーの位置を測る基点とする「人差し指のホームキー(FとJのキー)」には、実際のキーボードと同様、突起を付けた。津村さんはこれを生徒たちに配布し、タッチ・タイピングを指導。しかし、生徒たちはどうしても手元に目をやってしまうのだった。
 そこで次に試みたのは、実物のキーボードに、手元が見えなくなるカバーを装着し、タイピングの練習をさせるというやり方だ。PCのモニターの背後の壁にはキーボードの絵を貼り、キーの位置を想起する助けとした。当初、その状態でタイピングすることなどできるわけがないという様子を見せていた生徒たちだったが、津村さんがカバーをした状態のキーボードでタイピングを実演して見せると、生徒たちは驚愕。にわかに練習に熱を入れるようになった。
 津村さんは生徒たちに対し、「これからは、どんな仕事もPCを使う時代。タイピング技術を今、習得しておけば、一生の宝になるよ」と声を掛け、鼓舞した。さらに、生徒たちがPCに触れる時間を増やすため、津村さんは空き時間や放課後も可能な限りPC室を離れず、生徒たちにPCを開放したり、メンテナンスをするなどして使えるPCの台数を増やしたり、放課後の遅い時間まで開いている図書室にも数台配置したりした。
 生徒たちのタイピングの練習に熱が増すと、津村さんはさらに彼らのモチベーションを高めるため、タイピングの練習に使う無料のソフトを各PCにインストール。表示された文字列を入力していくと、タイピングのスピードが測定されるものだ。そうして、1分間に50文字以上のタイピングができればレベル1、100文字以上ならレベル2というように、習熟度の「ランク」を設定し、学期末試験と同じ時期にタイピングの検定試験を行うことにした。試験を受けた生徒たちには、合格したランクを記載した手づくりの「認定証」を発行。さらに、成績上位者は校内の掲示版に名前を貼り出した。すると、成績上位者を貼り出した直後は毎回、掲示版の前に生徒の人だかりができ、彼らが興味を持って検定試験に取り組んでくれていることがわかった。そうして、津村さんの帰国直前に行われた学期末試験の際には、タイピングの検定試験を受験した生徒が皆、最低限の目標としていたレベル1を達成することができたのだった。

ペーパーキーボードを使い、ホームキーに指を置く練習を行う生徒たち

タッチ・タイピングの練習のためにキーボードにカバー(手前)を被せたPC

CPも実技重視の姿勢に賛同

 CPを含め、現地の教員たちが行う授業のスタイルは、教員が板書をしながら講義し、生徒たちは板書をノートに書き写して、ひたすら知識を増やしていくというもの。IT授業であっても、学期末の試験は知識を問う筆記のみが行われていた。そうしたなか、津村さんは当初、実技を重視する自分の授業のやり方を、CPは快く思っていないのではないかと危惧していた。しかし、それは杞憂に終わった。着任から4カ月ほど経ったころから、津村さんが開発する補助教材にCPが興味を示し、「それはどうやって使うのですか?」などと聞いてくるようになり、やがて彼自身が自分の授業にも取り入れるまでになったのだ。

後輩隊員へひとこと

どのような環境の中でもできることは必ずある!
現地の人たちの役に立つと感じるならば、どんなことでも取り組んで構わないのではないでしょうか。私は、最悪PCが1台もない状況でも、やれることは必ずあるはずだと思って活動に取り組みました。

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