小学校の一教員として
算数や体育の授業を担当

鷹觜悠史さん(ウガンダ・小学校教育・2017年度1次隊)の事例

小学校に配属され、算数や体育の授業を担当した鷹觜さん。算数授業を受け持った高学年では、すでに児童の間の学力の差が大きかったなか、算数が不得意な子をフォローする方法に工夫を凝らした。

鷹觜さん基礎情報





【PROFILE】
1987年生まれ、東京都出身。大学では国際政治学を専攻。東京都の公立小学校に教員として約3年間勤務した後、2017年6月に協力隊員としてウガンダに赴任。19年6月に帰国。

【活動概要】
ムシマ小学校(ジンジャ県ワニャンゲ)に配属され、主に以下の活動に従事。
●授業の実施(算数、体育)
●クラブ活動の支援(音楽、ダンス、日本文化、サッカーなど)
●家庭訪問の実施


 鷹觜さんが配属されたのは、30人ほどのクラスが各学年に1つずつある小学校。活動の柱となったのは、一教員として算数や体育の授業を行うことだ。配属校は教科担任制がとられており、算数や体育にもそれぞれ2、3人の教員が担当となっていたが、どの教員も複数の教科を兼任。配属校ではチームティーチングが実施されておらず、鷹觜さんはいずれの授業も単独で行った。担当したのは、算数が5、6年生で、体育が5〜7年生だ。


算数が不得意な子へのフォロー

高学年になっても「九九」ができない子がいたため、そうした子には授業の合間や放課後を使って補講も行った

算数の授業で、机を回って不得意な子のフォローをする鷹觜さん

 算数の授業を開始した当初は、外国人の教員が新鮮であり、子どもたちは鷹觜さんの話に熱心に耳を傾けてくれた。しかし、注意深く子どもの様子を見ていると、学習内容を理解できていない子がほとんどだということに気がついた。そのひとつの原因は語学だった。鷹觜さんがウガンダの英語に慣れていないこともあったが、配属校の5年生で英語でコミュニケーションがきちんと図れるのは、語学が得意な一部の子どもたち。その影響が各教科に出ていた。
 5、6年生の児童の間には、算数の学力にすでに大きな差ができてしまっていた。配属校には学年ごとに「進級試験」があったが、すべての教科の総合点で合否を決めることとなっており、算数の点数が低くても、ほかの教科でカバーできれば進級できてしまう。そのため、日本では2年生で身につけるべき「九九」ができない5、6年生がいるような状態だった。
 算数が不得意な子へのフォローが不可欠だったが、容易ではなかった。カリキュラム上、教えなければならない単元の内容に対して、実際の授業時間数が不足していたからだ。学期の始めと終わりは登校しない子が多く、実際に授業が成立するコマ数は建前の7割程度。結果、カリキュラムをまっとうするためには、算数が不得意な子のために時間を割いてばかりいられない状況だった。それでも、理解を超える内容を指導しても子どもたちはついてこられないので、前学年の教科書を使用して指導をし、子どもたちが理解できる授業を心がけた。
 そうして試行錯誤するなかでたどり着いた策は、「算数が得意な子に、特別の課題を与える」というものだ。授業中、練習問題を出すと、算数が得意な子はすぐに解き終え、不得意な子はなかなか解くことができない。そこで鷹觜さんは、練習問題を早く解き終えた子に、「類似の練習問題を自分でつくる」という課題を出すことにしたのだった。問題を解く作業とは違う頭の使い方をする課題であり、算数が得意な子にとっては、思考力をさらに鍛える手段となる。一方、彼らがその課題に取り組んでいる間、算数が不得意な子を鷹觜さんがフォローして回ることもできる。
 このやり方は、鷹觜さんが日本の小学校で教員を務めていたときに、「学習内容の理解が早い子とそうでない子」の間の差を埋めるために取り入れ、効果があったやり方だったが、ウガンダでも同様だった。算数が得意な子のなかには、練習問題をつくるのも早い子がおり、そうした子には、「整数だけでなく、少数や分数を使って類似の練習問題をつくる」といった、より難易度の高い課題を出した。すると、ますます意欲的にそれをこなそうとした。一方、算数が不得意な子は、時間をかけて練習問題に取り組むことができるようになったため、理解が進み、算数の学習への意欲も高まっていった。

体育授業を行う鷹觜さん。配属校には道具がほとんどなく、陸上競技の授業も手づくりの道具で行った

鷹觜さんが同僚とともに参加した体育授業の研修会で、布や新聞紙でつくったボールを手にする受講者

まずは人間関係づくりから

 体育授業に関する配属先の課題は、2人いた担当教員の意欲の低さだった。鷹觜さんの着任当時、時間割には体育のコマが組み込まれていたが、「道具がない」などの理由で、2人とも授業を行っていなかったのだ。実際、当初はボールひとつなかったため、鷹觜さんはポケットマネーでバレーボールとサッカーボールを1つずつ購入して授業を行った。物があれば体育の教員の意欲を引き出せると思ったが、そうではなかった。2人は自分自身が体育授業を受けた経験がほとんどなく、授業のイメージがわかないこともあり、実施の意欲を持てないのだと推測された。鷹觜さんは、「意欲がないなら仕方がない」と思い、日頃のコミュニケーションは図るものの、授業へのアドバイスをしなくなっていた。
 鷹觜さんがあらためて体育教員たちとのコミュニケーションを大切にしようと心がけるようになったのは、任期も半ばになったころだ。相手の心を動かすため、まずは彼らとの人間関係を築き直そうと考えた。するとようやく、一方の体育教員に変化が現れた。鷹觜さんが使用していた体育の教具を使って、授業を行うようになったのだ。彼女は算数を兼務している教員であり、算数の教科書を貸すなどして鷹觜さんとの関係が深まっていた人だった。
 もう一方の教員(以下、Aさん)は、結局、最後まで体育授業を行うことはなかった。しかし、鷹觜さんの任期の終盤に、ひとつのささやかな変化があった。体育授業の方法を学ぶ外部の研修会にAさんと鷹觜さんが参加した際、布や新聞紙でボールをつくる方法を教わった。以後、鷹觜さんは週に1個のペースで手づくりのバレーボールをつくるよう努めた。子どもたちはそれを使い、本物のボールを使うときと同じように楽しそうに競技に取り組む。すると、それを見たAさんの意欲がにわかに高まり、みずからボールの作成に取り組むようになったのだ。ボールが増えれば、グループ分けをして練習に取り組ませるなど、体育授業もやりやすくなることから、やがて「Aさんにも授業を実施してほしい」という声が子どもたちから出てきたのだった。

鷹觜さんの事例のPoint

苦手意識の克服が第一歩
勉強は、苦手意識が高まれば高まるほど、取り組む意欲が低下してしまう。それは日本でもウガンダでも同じであり、教員はつまずきを理解し、わからない所まで立ち戻って指導することが求められる。すべての指導は児童理解から始まる。

知られざるストーリー