“失敗”から学ぶ

ティータイムへの不参加から
リハビリや看護ケアの協力が減少

文=三田村 徳さん(フィジー・理学療法士・2017年度1次隊)

配属先の同僚と三田村さん。三田村さんは3代目の理学療法士として配属先へ派遣されたが、2代目と期間が空いたため、新規のつもりで配属先のニーズへ応えるよう活動計画を練った。特に「配属先対象の患者に対するQOL(生活の質)の向上ができるよう同僚の医療従事者と協力して問題を解決し、習慣化していく」ことに注力した

 フィジーではティータイム(以下、ティー)が仕事中の10時・15時にあります。ティーはフルーツやパン、お茶を飲みながらおしゃべりをする場であり、コミュニケーションをとる場としてとても大切な時間です。私も派遣直後は、配属先の多くの人と信頼関係をつくれるように、できるだけティーへ参加していました。
 配属されて8カ月後には活動が順調になり、ひとりで多くの活動ができるようになってきました。また、カウンターパートである理学療法士の育休により、ひとりで患者さんを診ることが多くなりました。そのときには配属先の看護師や介護士、医師などの同僚と信頼関係が構築されていると思い、ティーより患者さんへのリハビリテーション時間確保を優先。次第にティーへの参加が減り、約4カ月間はティーへ参加しませんでした。カバ(*)を飲むコミュニティ(以下、カバ会)へは、仕事終わりや休日前などに男性陣宅へ行き、参加していました。
 あるとき、同僚のリハビリ時に対する協力が減っていることに気づきました。以前はリハビリが始まる際に患者を起こし、車椅子でリハビリ室へ連れて来るなどの協力をしてくれましたが、今は声をかけても携帯を見てばかり……。定例会議の際に看護師長へ「基本的な看護やケアなどへの協力が少なくなっている」と伝えたことで、状況は変わるばかりか、同僚との溝が深くなってしまいました。
 カバ会で仲良くしていた人に不満を漏らすと、「最近はアキラがティーに参加していないって聞いているよ」と言われました。カバ会の彼らとは仕事外でコミュニケーションをとっていましたが、一番近くで働く同僚から最近の事情やニーズを聞いていなかったことに気づきました。
 そこで、久しぶりにティーへ参加したところ、同僚から「あら、最近見なかった顔ね」と皮肉たっぷりに言われ、コミュニケーションが取れていなかったこと、信頼関係が崩れてしまったことを痛感しました。また、「患者さんを第一に考えるアキラの気持ちはわかるけど、フィジーなんだからゆっくりしながらリハビリを進めていいんだよ」とも伝えられました。
 それからは適度にティーへ参加し、コミュニティの中のひとりとして、互いに協力できる場を大切にしていくことで、状況を改善することができました。

*カバ…フィジーの嗜好品

隊員自身の振り返り

患者さんが優先だと思っていたため、活動量が増えたときに同僚とコミュニケーションを取る時間を減らしてしまいました。患者さん優先はもちろん大切ですが、同僚たちとコミュニケーションを取る時間はしっかり確保し、互いに協力して病院づくりをしていかなければいけないと思いました。
再びティーに参加したことで、同僚から患者さんの病棟での生活状況などを細かく聞くことができ、またリハビリに都合の良い時間なども情報共有できるようになったので、患者さんのQOLの向上につなげることができました。

他隊員の分析

お茶を制する者は、仕事を制する

 私の派遣国もお茶文化が存在し、仕事中もお茶に呼ばれることが頻繁にありました。患者さんに自主トレーニングを託し、私は基本的にお茶に参加していました。お茶の時間は現地の人の本音を引き出す絶好の機会。患者さんに関する情報交換や支援先のドナーについてなど積極的に仕事の話題を投げていました。ほぼ毎日お茶の時間があったため、患者さんの身体・環境の変化はカンファレンスを開かなくても多くの同僚が把握できていました。現地に合った働き方を最大限利用し、最大の効果を得られるように工夫してみてはいかがでしょうか。
文=協力隊経験者
● アジア・理学療法士・2016年度派遣
● 取り組んだ活動
リハビリテーションセンターにて同僚への技術支援、仕事環境の改善、加えて産科病院での未熟児に対する発達支援、また地方の学校にて児童に対し疾病予防・健康維持のためのワークショップを実施。

その国に根付く考え方を学ぶ

 私も日本人独特の価値観に縛られ、「お茶をすることイコール仕事を疎かにすること」と罪悪感を感じることが多々ありました。同僚にお茶に誘われるたび、「患者さんが待っているから行けない」と断っていたら、「患者さんがじゃなくてあなたはどうしたいの?」と問い詰められたことがあります。そんな概念がなかった私はポカーンとしましたが、現地の人はこういう感覚で生きているのだと気づかされました。「他人を第一に考える」のは日本では素晴らしいことかもしれないですが、「まずは自分がどうしたいのか」を考えてみるのもよいのかもしれません。
文=協力隊経験者
● 中南米・理学療法士・2015年度派遣
● 取り組んだ活動
国立病院で担当患者のリハビリを行いつつ、遠方に住む患者がリハビリに継続して通えるよう送迎のコーディネートを行う。また、近隣の商業施設で働く労働者に向け腰痛体操教室を実施、養護学校で教諭と協力しながら児童に向け体育の授業を行った。

三田村さん基礎情報





【PROFILE】
1987年、宮城県出身。2010年、東北文化学園大学医療福祉学部リハビリテーション学科理学療法専攻卒業後、宮城厚生協会泉病院へ入職。16年、脳卒中認定理学療法士を取得。17年に退職し、協力隊へ参加。19年6月、帰国。同年9月、訪問看護ココステーション仙台中央へ就職。

【活動概要】
首都スバにある国立リハビリテーション病院にて理学療法士として、主に以下の活動を行う。
●院内・外来患者の治療
●巡回によりフィジー全土訪問リハビリ
●ワークショップにより知識・技術向上

知られざるストーリー