JICA Volunteer’s before ⇒ after

石井麻夕さん(エチオピア・体育・2016年度2次隊)

before:スポーツインストラクター
after:スポーツイベントの企画・運営担当

「『楽しそう!』という『直感』から協力隊への応募を決めました」と石井さんは話す。それまでも、出会ったときに自分の中で輝きを感じる「直感」を信じ、人生を選択してきた。「体育」「ライフセービング」「空手」「協力隊」、そして今の職場である「株式会社運動会屋」。現在、石井さんは同社に所属し、世界中で運動会を開催するための企画・運営をしている。

自分の直感を最大限信じる

[before]石井さんが企画した3校合同のドッジボール大会の様子。「子どもの笑顔が何よりもやりがい」と石井さんは話す

 幼い頃から体を動かすことが好きで、体育大学に入学した。あまり泳げないのに、輝いて見えたライフセービング部に入部。溺れて死にそうになった経験もあるが、好きで入った部活だったからこそ続けられ、また鍛えられた4年間だった。卒業後はスポーツクラブのインストラクターとして、子どもの教室を担当。裏表のない子どもたちと一緒にいると心が弾んだ。就職後に始めた空手に本腰を入れるため、正職員を辞め、契約社員として働きながら、全日本空手道選手権大会に出場。10年続けたとき、怪我の影響もあって一線を引いた。その後も子ども向けのスポーツクラブでコーチなどを務め、スポーツと子どもにかかわれる毎日は充実していた。そんなある日の通勤時、電車に乗ると自分の周囲がすべて協力隊の吊り広告だった。気になってインターネットで検索したところ「体育」職種があると知る。「楽しそう!」と思ったその日に募集説明会があり、参加。体育隊員だったスタッフから説明を受け、すぐに応募した。合格し、エチオピアへの派遣が決まった。
 エチオピアの小学校3校で体育授業の質の向上支援活動を行った石井さん。派遣当初は現場の教員に「僕たちには知識はある、お金だけがほしい」と伝えられ、困り果てた。教育省も「体育が大切」と言うものの予算が割かれるのは理数科ばかり。そこで石井さんは、体力測定の実施で体育の効果を数値化、また先生たちと一緒に運営することで仲間として受け入れてもらい、子どもたちが新しい競技に楽しんで取り組む姿から体育の意義を体感してもらった。その後、さらに体育の意義を感じてもらおうと、石井さんはドッジボール大会を企画・開催する。
「机上の勉強ではチームワークを高めづらいけれど、体育を通してなら、相手を尊重し、応援し、助け合う力を育める。子どもたちが大人になったときも、その心を持っていればより良い世界になるという期待もありました」
 大会開催は困難の連続だった。参加予定校の直前の出場辞退、司会を頼んだ人が「結婚式で行けない」と言い出し、審判予定の教員が「ほかのイベントに行く」と来ず、開始時間も「予定通り」遅延。開催が危ぶまれたが、体育の意義を感じた同僚や他隊員の協力により無事やり遂げた。また、大会の開催は今後ドッジボールが現地に根付く可能性を感じさせたという。石井さんは大会の様子を収めた動画などを用い、他校の教員にもドッジボールを伝え、任期を終えた。

運動会で世界を笑顔に!

[after]東アフリカ・ルワンダ共和国のウムチョムイーザ学園で実施した運動会。当日はあいにくの雨のため室内での開催となった。同学園の副理事長はNPO法人ルワンダの教育を考える会のマリールイズ氏で、石井さんから「UNDOKAIワールドキャラバン」の活動を聞き、実施を希望。今回の開催となった。同キャラバンは「ひとりでできない事に価値がある」とモットーに、これまで米国、タイ、ラオス、インドなどの学校や企業で運動会を実施してきた

「運動会屋」を教えてくれたのは元体育隊員だ。「なんだその名前は!?」と調べると、地域や企業向けの運動会を企画・運営している会社だと知る。「ここだ!」と帰国後にエントリーし、入社。半年前から、運動会の価値を海外に伝える活動「UNDOKAIワールドキャラバン」事業を担当している。
「協力隊に参加する前の私だったら、この仕事を無理だと思ったはずです。しかし、エチオピアで拙い現地語と英語で体育を教え、大会を実施した経験があったからこそできると思えたし、何よりやりたいと思いました」
 同キャラバンは、主に寄付金や協賛金で成り立つ。そのため、実施実績をつくり、広報活動を行うことが欠かせない。エチオピアで現地の人が体育の価値を体感することで受け入れたように、多くの方に「できれば海外で実施する運動会に来てもらい、その価値を体感してほしい」と考えている。また、実績とは実施数の多さではなく、運動会の価値を現地に残すことだと石井さんは言う。
「物品を日本から持ちこんで実施するので、協力隊の趣旨と異なる部分もあるかもしれませんが、運動会の楽しさを一気に体験してもらうことで、その後は現地の人たちのみで開催する方法を考えてもらうのが、私たちの方針です。運動会の価値と継続するノウハウも伝えているので、現地で運動会が継続的に実施できるように、今後は派遣中の隊員さんの力もお借りできればと考えています」
 日本の体育の日に、ルワンダの学校で運動会を実施した。幼稚園児と小学生、全270人の笑顔を見て、改めて感じたことがある。
「ルワンダでは以前内戦があり、世界では今も争いがあります。でも、争うより共に成長することを選んでほしい。世界はひとりでは良くできない。互いを受け入れ助け合い、共に成長できる運動会には世界を平和にする力があると思っています」






石井さんのプロフィール

[1977]
神奈川県出身。
[2001]
3月、東海大学体育学部体育学科卒業後、スポーツクラブで体育・スポーツのコーチを務める。
[2016]
10月、青年海外協力隊に参加(選択の理由:協力隊は知っていたが、体育という職種があるとは思っていなかった。人生のキーワードは「スポーツ」「子ども」だという石井さんは、両方が叶えられる職種があると知り、参加を決意した。)
エチオピアのティグライ州教育局のメケレ市教育事務局に配属され、小学校3校を対象に体育授業に関する活動に従事。
[2018]
10月、帰国。
[2019]
1月、株式会社運動会屋に入社(選択の理由:アフリカで就職するつもりだったが、運動会屋の「インドでの運動会普及活動」の求人を見て、面白そうだと思い応募。インドでの話は一旦延期となったが、元々活動したかったアフリカをはじめ世界で運動会を実施する事業を現在は担当。)
同社の提携会社NPO法人ジャパンスポーツコミュニケーションズが実施するUNDOKAIワールドキャラバンを担当している。

株式会社運動会屋
本社所在地:神奈川県横浜市都筑区早渕3-30-10
創業:2007年5月
従業員数:45人(2019年5月末時点)
事業内容:スポーツイベント、社内向け福利厚生の企画・運営 など

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