[JOCV Interview]
地域ぐるみで外国人労働者への包括的支援を始動

矢島亮一さん(パナマ・村落開発普及員・1998年度3次隊)
NPO法人自然塾寺子屋 理事長

群馬県甘楽町(かんらまち)で20年近くにわたり、NPO法人自然塾寺子屋の代表として農業を通じた地域づくりに取り組んできた協力隊経験者の矢島亮一さん。人材不足が深刻化するなか、同県の企業で外国人技術者の雇用が活発化し始めたのを受け、今年、彼らの暮らしやすさを支援する新たな仕組みを地域の人々とともにスタート。その概要についてご本人にうかがった。


やじま・りょういち●1964年生まれ、群馬県高崎市出身。東京農業大学を卒業後、カナダでの山岳ガイド、日本でのホテル勤務などを経験。1999年に協力隊参加。農村や小・中学校で農業指導に従事する。帰国後の2001年、群馬県の甘楽富岡地域で農業を通じた地域づくりなどに取り組む任意団体「自然塾寺子屋」を設立。03年に同団体をNPO法人化し、理事長に就任。

「ともに暮らす仲間」として

——矢島さんたちが群馬県で立ち上げた外国人労働者に関する支援の新たな仕組みにつき、概要をお教えください。

矢島 「グローバル人材生活安心パック」(以下、「安心パック」)と名付けているサービスなのですが、群馬県甘楽町にある人材紹介会社の株式会社シバタデザインパートナーズ(*1)、群馬県で医療通訳者の派遣などを行っているNPO法人「群馬の医療と言語・文化を考える会(MIG)」(*2)、群馬県甘楽町で地域づくりの活動などを行っているわれわれNPO法人「自然塾寺子屋」の三者が組んで運営するものです。雇用する外国人に関して何か問題が発生すると、まず私自身が「総合窓口」としてその企業からの相談を受け付け、問題の内容によってMIGと自然塾寺子屋のどちらかに対応を割り振ります。「病院で通訳が必要になった」といった医療に関することならMIGに対応してもらい、「役所の手続きがうまく進まない」といった問題や社内での人間関係のトラブルなどならば自然塾寺子屋が対応するという具合です。企業に安心感を持って外国人労働者を雇っていただくために、有事の際の支援をあらかじめ約束するものであり、「保険」に近いイメージのサービスです。シバタデザインパートナーズが「外国人労働者ひとり当たりいくら」という年間契約を企業との間で結び、MIGと自然塾寺子屋がシバタデザインパートナーズから有料で実際の支援業務を請け負うという形にしています。

——対象となっている企業は何社くらいでしょうか。

矢島 現在の契約企業は群馬県内の十数社で、対象となっている外国人労働者は20人ほどのベトナム人です。いずれも「技能実習生」(*3)としてではなく、「高度専門職外国人」(*4)として今年9月に雇用された方々です。技能実習生は日本の監理団体を通して受け入れられたりするのですが、その場合、彼らに関する問題は受入窓口となっている監理団体が対処することになっています。一方、高度専門職外国人の場合は、受け入れる企業が自力でそれをこなさなければなりません。しかし、「外国人」に慣れない企業にとっては荷が重い。それを代わって担おうというのが「安心パック」の趣旨であり、群馬県で高度専門職外国人の受け入れが活発化し始めたのを受けて立ち上げたサービスでした。まだスタートしてまもないため、具体的な支援をした例はないのですが、19年中にさらに20人ほどのベトナム人が群馬県内で高度専門職外国人として働き始め、「安心パック」の対象になる見込みですので、徐々に相談も増えてくるだろうと思います。

——群馬県内の企業に限定して契約しているのですか。

矢島 そのようにしています。群馬県以外にも手を広げ、規模の大きなビジネスにするというやり方もあるかと思いますが、私はそういうことをやりたいわけではありません。外国から来て働いてくれている方々を、それぞれの地域の方々が「使い勝手の良い労働者」としてではなく、「ともに暮らす仲間」として受け入れる。目指すのはそうした「共生」のあり方であり、群馬県以外については、それぞれの地域の方々の手で「安心パック」のようなものを立ち上げていただくのがいいだろうと考えています。
 甘楽町の方々に外国人労働者を「ともに暮らす仲間」として受け入れていただくため、現在は「安心パック」以外の仕組みを立ち上げる準備も進めています。そのひとつが、「里親制度」と名付けたものです。甘楽町には、仕事をリタイヤしたけれども、まだ人のために何かをしたいという意欲の強い「お節介」な人が多い。彼らに外国人労働者たちの面倒を見る、言わば「里親」になっていただくという仕組みです。具体的には、休日に外国人労働者を対象とした日本語教室や料理教室などを開いていただくことなどを考えています。こちらは高度専門職外国人だけでなく、技能実習生も対象とする予定で、いずれも受け入れ先の企業から受講料を支払っていただける見込みです。甘楽町には人口の1パーセントに当たる100人ほどの外国人が暮らしていますので、日本語教室などはおそらく十数人程度の規模で始めることになると思います。

*1 株式会社シバタデザインパートナーズ…2018年10月設立。19年11月に社名変更し、HPはリニューアル中(旧社名は株式会社シバタエンジニアリング)。
*2 NPO法人群馬の医療と言語・文化を考える会(MIG)…https://www.iryotsu-gunma.org
*3 技能実習生…「出入国管理及び難民認定法」上の「技能実習」の在留資格により、日本で報酬を伴う実習を行う外国人。
*4 高度専門職外国人…「出入国管理及び難民認定法」上の「高度専門職」の在留資格により、日本で就労する外国人。日本の学術研究や経済の発展に寄与することが見込まれる高度の専門的な能力を持つ外国人に与えられる在留資格で、在留期間や配偶者の就労などさまざまな優遇措置がある。

地方で人材不足が深刻化するなか

——群馬県で高度専門職外国人の受け入れが活発化し始めたということは、地方はそれだけ人材不足が進んでいるということでしょうか。

矢島 おっしゃるとおりです。地方は一般に第一次産業と第二次産業がメインですが、いずれも本当に人手不足です。第一次産業の農業については、農家の高齢者率が非常に高く、群馬県では平均年齢が70歳近くに達している。機械化やAIの導入によって以前より少ない人手で農業ができるようにはなっているのですが、高齢者は機械やAIをなかなか使いこなせないわけです。そうして、耕作放棄地がどんどん増えている。第二次産業の工業については、工場のラインで製造に携わるにしても、技術者として設計などに携わるにしても、都市部の企業のほうが給料や知名度が高いため、日本人はそちらに流れてしまう。そうなると、地方の産業は外国人の方々に担っていただくほかないのです。
 しかし、今のままでは外国人の方々にすら、日本の地方を働き場所として選んでいただくことができなくなってしまうおそれがあります。例えば、英語ができるフィリピン人は、カナダやオーストラリア、ニュージーランドなどの英語圏で働くこともできるのですが、カナダの最低賃金などは州によっては15ドル、1500円近くにのぼるのに対して、群馬県の最低賃金は835円です。そうしたなかで外国人の方々に働き場所として選んでいただけるような地域にするためには、「ここなら外国人でも安心して暮らせる」など、給料の低さを補うような魅力をつくっていかなくてはいけない。「安心パック」がそうした「魅力」のひとつになることを期待しています。

——シバタデザインパートナーズと組んだのはどういう縁からでしょうか。

矢島 シバタデザインパートナーズは、甘楽町に本社を置く株式会社柴田合成(*5)という歴史のある地元企業の社長が、群馬県の企業に高度専門職外国人を紹介することを目的に昨年設立した企業です。その社長の息子で、シバタデザインパートナーズの営業を担当する柴田晃佑(しばたこうすけ)さんは、私が甘楽町の問題について常々議論する仲間のひとりでした。シバタデザインパートナーズの設立も、「安心パック」の立ち上げも、私が柴田さんから「人材不足」に関する悩みを聞いたのが発端です。
 柴田合成は銀行の信用格付けも最上位の優良企業であるものの、「都市部に人材が流れてしまう」という悩みを抱えていました。大学の工学部などを出た日本人を技術者として採用したいけれども、なかなかつかまらないと。一方、私はベトナム人を日本に送り出している現地の人材紹介会社「ウィン・ウィン・ジャパン」(*6)に伝手がありました。かつて自然塾寺子屋で技術補完研修を受けて協力隊に参加し、現在はベトナムに住む女性を介して知った企業です。その協力隊OGを通じてウィン・ウィン・ジャパンは信用できることがわかっていたので、その社長が来日した際、柴田さんに紹介しました。人材不足を補うために、高度専門職外国人の採用を前向きに考えたいとおっしゃっていたからです。力量をきちんと確認してから採用を決めたいということで、ウィン・ウィン・ジャパンが紹介候補に挙げたベトナム人技術者数名に筆記試験を行ったところ、柴田合成に応募する日本の大学生の平均を3割も上回る点数だったそうです。その後、柴田さんが現地に赴いて面接試験も行ったのですが、「パーフェクトだった」と驚いていました。
 そうして柴田合成でベトナム人技術者5名を高度専門職外国人として雇うことになったのですが、そこで課題となったのが、彼らが仕事や生活のなかで外国人として直面するさまざまな問題をどうフォローするかということでした。そうして柴田さんと話し合うなかで生まれたのが、「安心パック」の仕組みです。一方、ベトナム人技術者がいかに優秀であるかを知ったことから、人手不足で悩む群馬県の他の企業も高度専門職外国人として彼らを受け入れていくべきだということで、その仲立ちをする企業としてシバタデザインパートナーズを設立するに至ったのでした。

——MIGもやはり以前から付き合いをお持ちだったのでしょうか。

矢島 代表を務める山口和美(やまぐちかずみ)さんは、私が協力隊の任期を終えて地元の群馬に戻った時期に、群馬県庁の多文化共生室長を務めていらっしゃった方です。私は自然塾寺子屋を立ち上げ、なんとか協力隊経験を生かして地域を盛り上げる仕事をしたいと思ったものの、自治体の方々になかなか理解していただけなかった。そうしたなか、「協力隊経験」の価値を認め、力になってくださったのが山口さんで、私はそれ以来のお付き合いになります。彼は県庁を退職された後、群馬大学で多文化共生に関する講師を4年間されてからMIGを立ち上げました。柴田さんから相談を受け、真っ先に「組める」と思い当たったのが山口さんでした。

*5 株式会社柴田合成…http://www.shibatagousei.co.jp
*6 ウィン・ウィン・ジャパン…http://winwinjapan.vn

協力隊経験者こそ仕切り役に

——外国人労働者に関する活動に取り組まれるのは、やはり協力隊経験があったからこそでしょうか。

矢島 もちろんです。文化が異なる者同士が「共生」するうえで、互いの文化を尊重し合うことがきわめて重要であることを、協力隊員は現地で学んでくる。だからこそ、帰国後、自分の暮らす地域が外国から働きに来た方々と「共生」を図るうえで、その「仕切り役」になるべきだと考えています。「安心パック」でも、「外国人労働者たちとの関係づくりでつまずいている」といった相談があれば、「もう少し彼らの文化を尊重することが必要ですよ」などと語りかけをすることになるのだろうと思っています。
 協力隊員は、「開発の遅れた国に力を貸す」と意気込んで赴任するものの、それはとんでもないことで、現地の方々に「ともに暮らす仲間」として受け入れていただき、彼らから生きる知恵を学ぶ。そのため、日本で暮らす外国人の方々を「ともに暮らす仲間」として受け入れるためにひと役買い、協力隊時代に現地で受けた恩を返したいと思っている人も多いはずです。だからこそ、「ボランティア」としてではなく、「仕事」として外国人の方々を支援する道をつくっていきたいという思いが私にはあります。「ボランティア」では、どうしても割ける時間や労力に限りがあり、外国人に対する協力隊員の思いを存分に発揮するのが難しいからです。「安心パック」も、そうした意図から「有料」のサービスとして立ち上げたのでした。さきほどお話しした「里親制度」の日本語教室でも、日本語教師自体は日本語教師の資格を持っていない方々にボランティアに近い形で務めていただくけれども、教室をマネジメントする役目は、日本語教師の資格を持ち、かつ海外経験もある日本語教師隊員のOB・OGに有給で担っていただこうと計画しています。

「地方」を選ぶ協力隊経験者

——今後、群馬県の企業で高度専門職外国人はどのような存在になっていくと考えていますか。

矢島 柴田合成の例で言うと、高度専門職外国人の技術者には、いずれ管理職に就き、定年まで働いてもらいたいと柴田さんは考えています。とにかく、人材としての評価が高い。もともと優秀なうえ、非常に真面目で、日本語でメモをとったり、日本語の歌を覚えて日本人社員と一緒にカラオケで歌ったりといった努力を惜しまないので、日本語の上達が速いそうです。そうした話を聞くと、群馬県で高度専門職外国人として雇われるベトナム人は今後ますます増えていくのだろうと思います。すると、「安心パック」の仕事も増えていく可能性が高い。現在、自然塾寺子屋やMIGのメンバーは、ほかの仕事に携わりながら、言わば「サイドビジネス」として「安心パック」の仕事もしていくという体制ですが、いずれ専従スタッフを置くようになるのだろうと思っています。

——最後に、読者である協力隊経験者に向けたメッセージをお願いします。

矢島 さきほど、「給料の低さを補うような魅力を地域につくらなければ、外国人にも働き場所として選んでもらえなくなる」というお話をしましたが、協力隊経験者のなかには、「地方」で働くことに「給料」に替えられない魅力を感じ、Iターンなどでそれを実践している人も少なくないと思います。例えば、都市部の大きな企業では「歯車の一部」としての役割をこなすことが求められがちですが、「地方」では、自分で仕事を立ち上げ、自分で回していくというダイナミックな働き方もできる。そうした点に魅力を感じ、「地方」を働き場所に選んだ協力隊経験者たちに、今、もっとも求められているのが、外国人労働者と地域の方々との間の「橋渡し」をする役目だろうと思います。そうした仕事に関心を持つ方々に、われわれが試み始めた「安心パック」のアイデアがひとつのヒントになればうれしいですね。

NPO法人 自然塾寺子屋

http://terrakoya.or.jp



設立:2001年(法人化は2003年)
代表者:矢島亮一(理事長)
所在地:群馬県甘楽郡甘楽町小幡7(甘楽事務所)
事業内容:
●農産物の生産・加工・販売
●グリーンツーリズム・アグリツーリズム
●農村フィールドワーカーの養成 ほか

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