[特集]Tokyo 2020から見える協力隊の可能性
〜日本人選手の指導〜

東京2020に出場予定の日本人選手の指導・サポートや未来のオリンピアン・パラリンピアンを育成する協力隊OB・OGたちを紹介します。

U‐17/18女子バレーボール日本代表監督

三枝大地さん(チリ・バレーボール・2004年度3次隊)

●公益財団法人日本バレーボール協会
 専任コーチングディレクター(味の素ナショナルトレーニングセンター担当)
●U‐17/18女子バレーボール日本代表監督







さえぐさ・だいち●1980年生まれ、兵庫県出身。東海大学体育学部体育学科卒業後、運送会社に勤務。2005年、協力隊に参加。チリの大学でバレーボール指導と地域でのバレーボール普及活動を行う。07年に帰国後、自動車工場通訳兼営業管理、スポーツインストラクターなどの仕事を経て、11年より現職。


エジプトで開催された第16回女子U‐18世界選手権大会 ©️JVA

競技力だけでなく人間力のある選手を育成する

「学ぶことをやめたら、教えることをやめなければならない」。この言葉を常に軸に置き活動するのは、U‐17/18(*)女子日本代表の監督を務める三枝大地さんだ。三枝さんは監督以外にも、ナショナルトレーニングセンター利用代表チームの合宿調整や選手の発掘育成、指導者育成にかかわっている。U‐17/18は、将来のトップカテゴリーで日本代表選手として活躍するために、経験と学び、多くの成功体験を得るためのチーム。年に5、6回、5日間程度の合宿をし、少しずつ人数を絞りながら強化、選考を繰り返してチームをつくり、アジア選手権もしくは世界選手権に向かう。大会は主に海外で開催されるが、「協力隊経験があるため、世界中どこへ行っても落ち着いて準備、対応ができる」と三枝さん。
 これまで共に活動してきた多くの選手たちが日本代表選手になった。東京2020について三枝さんは「十数年をかけて選手を発掘、育成、強化し、結果を出す場である」と話す。成績に加え、選手たちの発言や行動が、人を惹きつけるものであれば、バレーボールの価値を高めることにもつながっていくと考え、選手の育成に取り組んでいる。
「世界において、日本は身長が低いと言われる国。だからこそ東京2020ではバレーボール界の歴史を変える発信ができると考えています。ぜひバレーボールを楽しみにしてもらえればと思います」

*U‐17/18…U‐17アジア選手権の時に17歳以下、U‐17アジア選手権翌年に開催されるU‐18世界選手権の時に18歳以下という年齢のカテゴリーの日本代表チームの選手。

東京2020オリンピック卓球 映像・分析サポート

山田耕司さん(ベトナム・卓球・1999年度2次隊)

●公益財団法人日本卓球協会 専任コーチングディレクター(味の素ナショナルトレーニングセンター担当)
●同 スポーツ医・科学委員会委員







やまだ・こうし●1974年生まれ、愛知県出身。静岡大学大学院理工学研究科の修士課程を修了後、協力隊に参加。ベトナムでジュニアの卓球指導を行う。帰国後、静岡にてNPO法人卓球交流会を設立(現在は理事長)。2003年から卓球日本代表チームの映像・分析サポートに携わり、17年4月より現職。


NTCにてゲーム分析作業をしている山田さん

チームの裏方として、金メダル獲得を目指す

 日本の卓球の全体を統括する日本卓球協会で、健常者の国際競技力向上を目指す事業に携わる山田耕司さん。男女ともに金メダル獲得を悲願とする同協会にて、ナショナルトレーニングセンター(NTC)で2つの役割を担当中だ。
「ひとつは卓球の小学生からトップまでの各ナショナルチームがこの施設を合宿などで円滑に利用できるためのマネジメント(施設管理)。もうひとつは、他の映像・情報スタッフとともに、選手やコーチに対する映像サポート、分析サポートです」
 大会期間中も現在の業務を継続し、日本代表チームのNTC利用のマネジメント、映像・分析のサポートにあたる予定だ。「仕事や日常生活において、協力隊時代に感じた『自分の当たり前は、世の中全体の当たり前ではない』という感覚は、私の考え方に無意識に影響していると思う」と山田さん。
 競技現場に身を置く人間としてこだわるのはやはり自身の競技の結果。卓球は注目度も高く、プレッシャーでもあるが、楽しみでもあるという。
「2012年のロンドンオリンピック(※)の際、現地ボランティアスタッフのおかげで、心地よい気持ちになる場面を幾度となく経験しました。日本の『おもてなし』がどのようなものになるか、外国の方はそれをどのように感じるかが注目のひとつになると思います」

※分析サポートスタッフとして山田さんも参加した。

2019年パラ水泳日本代表監督

峰村史世さん(マレーシア・水泳・1997年度2次隊)

●一般社団法人日本身体障がい者水泳連盟 理事







みねむら・ふみよ●群馬県出身。大学を卒業後、協力隊に参加。マレーシアで障害者水泳を指導。2004年アテネパラリンピックマレーシア代表コーチ。パラリンピック水泳日本代表ヘッドコーチとして、北京、ロンドン大会、代表監督としてリオ大会へ帯同。
(写真は、マレーシア代表コーチ時代に指導していた選手と峰村さん(右から2人目))


パラリンピック出場を目指す選手たちを指導するクラブチーム「峰村パラスイムスクワッド」において選手を指導する峰村さん(提供:東洋大学広報課)

応援され続けるアスリートの育成に取り組む

 日本身体障がい者水泳連盟で、パラ水泳(障害者水泳)選手の指導を行う峰村史世さん。ナショナルトレーニングセンターで東京2020パラリンピック出場を目指す選手の指導をメインに、次世代の選手の強化にも携わっている。
 同連盟と共に峰村さんはこの15年、パラ水泳の強化に取り組んできたが、資金や人員の不足、認知度の低さという課題にぶつかってきた。それでも「やってみなくちゃわからない」と自分を動かしてきた根本的な部分は協力隊時代の精神と同じだと峰村さんは話す。東京2020が決定し、資金も人員も増え、年に1度しか行けなかった遠征に複数回行けるようになるなど改善された面もあるが、その目的は変わらない。メダル獲得という結果を出すとともに「人として魅力のあるアスリートを育成する」ということ。それは、加速したパラ水泳へのサポートが後戻りしないようにするためでもある。
「そのためにも、選手が持つ能力すべてを本番で出せるように、やるべきことをすべてやったと思えるような指導をしていきたい」
 パラ水泳は、脚や腕の欠損などの障害別ではなく同程度の身体能力を持った選手が同じクラスで泳ぎ、義足や義手などの道具を一切使わず自分の持っている体の能力をすべて引き出すというのが特徴だ。「最後まで予想がつかない競技を楽しんでほしい」と峰村さん。代表選手の決定は2020年3月。

知られざるストーリー