[特集]Tokyo 2020から見える協力隊の可能性
〜大会運営・開催をサポート〜

大会開催時、東京2020組織委員会の職員数は約8000人、大会ボランティアは都市ボランティアを含めると11万人を超え、大会関係者は約30万人にのぼると言われています。大会の運営・開催を支える協力隊OB・OGたちを紹介します。

東京2020組織委員会で言語サービス部門に従事

原 浩治さん(ブルガリア・体育・1994年度1次隊)

●公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会
 国際局国際渉外部言語サービス課 言語ボランティア担当課長







はら・こうじ ●1969年生まれ、静岡県出身。大学院を卒業後、協力隊に参加。ブルガリアの小中学校で課外活動を通して青少年育成に携わる。96年に帰国し、公益社団法人青年海外協力協会職員、企画調査員(ボランティア事業)などを経て、2018年より現職。
(写真は原さん(右)とブルガリア選手団長のルミャーナさん)


東京2020のマスコット、ミライトワ(左)、ソメイティ(右)と原さん

「スポーツの力」を次の世代につないでいく

 大会の準備・運営に関する事業を担う東京2020組織委員会では、約20人の協力隊経験者がそれぞれの専門性を生かして働いている。そのひとりが、原浩治さんだ。
「大会の公用語はフランス語と英語。主に使用される言語は英語ですが、英語が不得意な選手もいます。選手と記者の会話が円滑に行われるように選手の使用言語を使ってサポートする『言語ボランティア』のほか、通訳・翻訳による言語サービスを提供する体制を整えることが私の仕事です」
 現在は、複数のテストイベント(*)に参加して本大会に向けた準備を進め、来年4月からは役割別の研修を実施。大会期間中は所属課の本部で、言語ボランティアの責任者として指揮を執る予定だ。
「東京2020で『スポーツの力』を感じてほしい」と原さんは言う。競技中は生まれた国や地域が異なるライバルでも、競技が終われば、同じゴールを目指す同志。自らを律して、練習に勤しみ、より高いところで競い合う。互いを尊重したその磨き合いを見て、多くの人が感動を覚える。協力隊任期満了後、言語力と異文化理解力を生かして長野オリンピックにボランティアとして参加し、スポーツの力を肌で感じたからこそ現在の原さんがいる。
「未来につながるその力を体験してもらえるよう、東京2020をサポートしていきたいと思います」

*テストイベント…オリンピック・パラリンピックの本大会の成功に向けて、競技運営及び大会運営の能力を高めることを目的として実施するもの。

クリーンでフェアなスポーツと社会を目指すための教育活動

岸 卓巨さん(ケニア・青少年活動・2011年度2次隊)

●公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構 教育・国際部SFTグループ







きし・たくみ ●1985年生まれ、東京都出身。大学卒業後、民間企業に就職。2011年、協力隊に参加。ケニアの未成年者の拘置所で活動し、13年に帰国。15年1月、独立行政法人日本スポーツ振興センタースポーツ・フォー・トゥモローコンソーシアム事務局に入局。同年3月、中央大学大学院総合政策研究科修了。18年4月より現職。
(写真は、Pacific Games(サモア)でロールモデルアスリートたちと岸さん(中列右端))


「アジア・オセアニア国際アンチ・ドーピングセミナー」にて日本人オリンピアン(JADAアスリート委員)とともにJADAの取り組みを紹介する岸さん(左から2人目)

それぞれの心にある「スポーツの価値」を守る

 アンチ・ドーピング活動を通してクリーンでフェアなスポーツと社会を目指す日本アンチ・ドーピング機構(JADA)。JADAでは東京2020の参加国、特にアンチ・ドーピングへの理解が不足している開発途上国のアスリートやコーチを中心に教育・啓発活動を実施しており、それらを担当するのが岸卓巨さんだ。
 国内外で開催される競技大会などで教育・啓発活動を行っており、これまでの実施国は100カ国以上。日本で開催される国際大会が増えた現在は、会場で選手や来場者への啓発活動も担当している。
「国際協力・交流の現場でもスポーツのチカラ/価値について考え、スポーツをツールとして活用してほしい」と岸さん。スポーツ団体との連携が多いが、外務省やJICA、NGOなど国際協力に取り組む団体とも積極的に協働しているそうだ。また、東京2020に向けた全員参加型の企画「i-PLAY TRUEリレー」(※)にも携わっている。
「現在、世界中から『スポーツのチカラ/価値』についてのメッセージを集めています。協力隊OB・OGにもぜひご参加いただけるとうれしいです」
 国や地域を超えて集められた「スポーツの価値」は、東京2020期間中に展示され東京2020のレガシーのひとつとなる。

※Tokyo 2020に向けて「みんなでスポーツの未来を創る」レガシープロジェクト。

パラリンピックの参加国を過去最多に!

兼本智仁さん(ウガンダ・体育・2014年度3次隊)

●日本体育大学 戦略的二国間スポーツ国際貢献事業 特別研究員







かねもと・ともひろ ●1989年生まれ、千葉県出身。大学院を修了後、協力隊に参加。ウガンダの中高一貫校で体育教員として青少年育成に携わる。2017年に帰国し、18年4月より現職。
(写真は、バヌアツパラリンピック委員会会長(中央)、兼本さん(左)、同僚の森心さん(スリランカ・ラグビー・2016年度1次隊))


ソロモン諸島のコーチ・選手とのミーティングを行う兼本さん

自分たちで発展できる仕組みづくりを

 パラリンピックの最多参加国・地域数は、ロンドン大会の164カ国。「それを超える参加国・地域数を目指すとともに、東京2020をきっかけに支援対象国・地域における障害者スポーツの認知の向上、また共生社会の実現を目標に事業(※)を展開しています」と話すのは、事業実施を担う日本体育大学の特別研究員、兼本智仁さん。支援対象国に対して「選手・コーチの育成」と「国内パラリンピック委員会の運営力強化」をサポートしている。
「2020年の先を見据えた支援でなければ、事業の目的は達成できない。コーチの育成は特に重要で、コーチの元で選手が育ち、選手の活躍が社会に良い影響を与え、選手がいずれコーチとなる。先進国に頼らず自分たちで継続的に発展できる仕組みづくりをしています」と兼本さん。これまでにコーチや選手に向けたワークショップの開催や情報発信を行っており、東京2020開催前は事前合宿を、閉幕後にはフォローアップ研修を行う予定だ。
 兼本さん自身、初めて間近で障害者スポーツを見たとき、そのパフォーマンスの高さに圧倒された。だからこそ「ぜひパラリンピックを観戦してほしい」と願う。また、協力隊OB・OGのネットワークを使ったパラリンピックの盛り上げにも期待する。
「派遣国の選手の活躍をSNSで共有して応援するのも楽しみ方のひとつ。パラリンピックや障害者スポーツを一緒に広めていけるとうれしいです」

※「戦略的二国間スポーツ国際貢献事業〜パラリンピック参加国・地域拡大支援〜」

知られざるストーリー