Award Winners in 2019
〜ベンチャー起業家部門〜

社会課題の解決に向けた革新的な「ビジネス」を立ち上げた人などを顕彰する賞を受賞したJICA海外協力隊OB・OGをご紹介します。

「Japan Venture Awards 2019」中小機構理事長賞

中西敦士さん(フィリピン・村落開発普及員・2010年度4次隊)

●トリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社 代表取締役







なかにし・あつし●1983年生まれ、兵庫県出身。慶應義塾大学商学部卒。医療分野を含む新規事業立ち上げのコンサルティング業務に従事した後、協力隊に参加。任期終了後、米カリフォルニア大学バークレー校でビジネスを学ぶ。2015年にトリプル・ダブリュー・ジャパン(株)を設立し、代表取締役に就任。
(左写真は、排泄予測デバイス「DFree」。右写真は、それを装着している中西さん。専用のアプリとともに使う)


 独立行政法人中小企業基盤整備機構では、「Japan Venture Awards」により毎年1回、革新的で潜在成長力の高い事業や、社会的課題の解決に資する事業を行う、志が高いベンチャー企業の経営者を顕彰している。2018年度は、優秀で、公的支援制度などを活用し、業績良好な企業の経営者を対象とする「中小機構理事長賞」を、協力隊経験者の中西敦士さんがトリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社の代表取締役として受賞した。
 同社が手がけるのは、超音波で膀胱の大きさを捉え、排尿のタイミングを事前に知らせる排泄予測デバイス「DFree(ディー・フリー)」の企画・開発・販売。介護の領域における最先端の機器として、日本や米国、フランスで販売している。

受賞の言葉

 協力隊時代、右も左もわからないなか、さまざまな人に助けられながら、マニラ麻農家の収入向上支援として「ジーンズ」の商品化を実現することができました。その活動では、日本の商社に資金援助していただくこともできました。そうした経験が、後に「ものづくり」や「ビジネス」に携わる原点となっています。今後は、既存の製品の改良を続ける一方、「排尿」だけではなく「排便」のリズムも整えられる機器、あるいは膀胱や大腸以外の臓器の変化が数値化できる機器などの開発も進め、特に家庭の中のヘルケアサービスの質向上に貢献していきたいと考えています。

「第15回グロービス アルムナイアワード」創造部門

町井恵理さん(ニジェール・感染症対策・2006年度派遣)

●NPO法人AfriMedico 代表理事







まちい・えり●1977年生まれ、大阪府出身。医薬情報担当者(MR)として製薬会社に勤務した後、協力隊に参加。帰国後、再び製薬会社でMRとして働くかたわら、グロービス経営大学院でビジネスを学ぶ。2015年、アフリカにおける配置薬事業の普及に取り組むNPO法人AfriMedicoを設立し、代表理事に就任。
(写真は、置き薬(中央の箱)を届けたタンザニアの村の住民(右から2人目)とAfriMedicoのスタッフたち。前列左端が町井さん)


 ビジネススクールのグロービス経営大学院では、「グロービス アルムナイアワード」により毎年1回、ベンチャーの起業や新規事業立ち上げなどの「創造」と、既存組織の再生など「変革」を率いた同学卒業生のビジネスリーダーを顕彰している。選出にあたっては、社会の創造や変革に寄与し、社会価値の向上に資するものであるか、またそのリーダーが人間的魅力を備えているかといった点を重視している。今年度は、協力隊の任期を終えた後に同学で学び、現在はNPO法人AfriMedico(アフリメディコ)の代表理事としてアフリカでの医療支援に取り組む町井恵理さんが、「創造部門」で受賞した。
 同団体が進めるのは、「置き薬」の仕組みをアフリカの医療アクセスが困難な地域で普及させ、現地の人々のヘルスケアの向上を図ること。「富山の置き薬」に発想を得た創造性の高い事業だ。

受賞の言葉

 今回の受賞は私だけのものではなく、AfriMedicoのメンバーたちの頑張りの結晶にほかなりません。私はこれまで、「自分が見たこと、経験したこと、学んだことに責任を持つ」ということを心に、人生を歩んできました。「見たこと、経験したこと」の中で影響が大きいのは協力隊時代の経験です。医薬品の供給に課題があったニジェールの状況を自分の目で見て心が動いたことが、 AfriMedicoの活動の原点です。今後は、置き薬が自らの健康をケアするツールとしてセルフメディケーションにつながっているかという「エビデンス」の検証に力を入れながら、よりインパクトの強い事業を進めていきたいと考えています。

「HONGO AI AWARD」経済産業省産業技術環境局長賞

德島 泰さん(フィリピン・デザイン・2012年度1次隊)

●インスタリム株式会社 代表取締役CEO







とくしま・ゆたか●1978年生まれ、京都府出身。システムエンジニアや産業デザイナーとして、コンピュータ部品のベンチャー企業や大手医療機器メーカーに勤務した後、協力隊に参加。ものづくりの支援に従事する。帰国後の2017年に合同会社インスタリムを設立。翌年に株式会社化し、代表取締役CEOに就任。
(写真は、3Dプリンターで出力した試作の義足を手にする德島さん)


 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は今年、市場の成長性や技術の模倣困難性、チームの質などの観点から選んだアーリーステージの優れたAIスタートアップ企業14社に「HONGO AI AWARD」を授与。協力隊経験者である德島泰さんが代表取締役CEOを務めるインスタリム株式会社がこれを受賞したうえ、特別賞の「経済産業省 産業技術環境局長賞」も受賞した。
 同社が手がけるのは、義足の製造・販売。AIと3Dプリンターを使うオリジナルの製造技術により、価格と製作時間を大幅に抑えた商品を生み出し、今年6月にフィリピンでの販売をスタートさせている。

受賞の言葉

 デザイン隊員として3Dプリンターを扱う活動に携わっていた協力隊時代に、現地の人からよく「3Dプリンターで義足をつくることはできないのか?」と聞かれたことが、インスタリムの仕事を着想したきっかけです。起業から2年経ち、3D技術を使ってひとりひとりに合ったソケット(脚の切断部分を収納する部品)を設計する技術を開発できたことから、商品の大幅な低価格化により、途上国での販売拡大が見込めるようになりました。「すべての人が義足を手に入れられる世界の実現」という目標に向かい、さらに技術の改良を重ねていきたいと考えています。

知られざるストーリー