活動Q&A集 〜協力隊技術顧問が回答〜

JICA海外協力隊員への技術支援を目的に、分野ごとに配置されている技術顧問。派遣中隊員から寄せられた活動に関する相談と、それに対する技術顧問による回答の例をご紹介します。

【回答者】





渡邊雅行さん
●JICA海外協力隊技術顧問(担当分野:リハビリテーション)
●元常葉大学准教授



Question 1:CBRでの効果的な取り組みは?
〜県社会福祉局配属の作業療法士隊員より〜

 県の社会福祉局でコミュニティ・ベースド・リハビリテーション(CBR)に従事しています。現在、直面している課題として、リハビリテーションの技術を移転する対象がはっきりしません。医学的背景をもたない職員と巡回していますが、漫然と巡回するだけで終わってしまうのではとの懸念もあります。CBRで効果的な取り組みのアドバイスをいただければと思います。

Answer 1:

 私自身もネパールでCBRの経験をいたしました。作業療法士(OT)や理学療法士(PT)による障害者宅への個別訪問やコミュニティへの巡回訪問から行いました。さまざまな理由から移動や外出が困難な障害者が多いため、個別訪問が主でした。その後、コミュニティのボランティアを養成し、コミュニティワーカー(CBRワーカー)による巡回、学校教職員および父母への教育の重要性の啓発、自営を含むマイクロクレジットを活用した生計手段の確保や就労への働きかけ、障害者自助団体の組織づくりや育成なども経験しました。
 脳性麻痺、脳血管障害は機能訓練による即効性はあまり期待できません。年齢および心身の発達段階に応じた家族や近隣の人たちとのかかわり、姿勢管理、教育、地域社会参加なども重要だと思います。就学前の障害者であれば、ぜひ学校へ通えるような働きかけもしていただくとよいと思います。学校の受け入れ側の理解、登下校や学校内の移動、トイレ介助などの助言や支援者の呼びかけの体制づくりなどもよいと思います。
 私は村を巡回して、障害のあるなしにかかわらず障害理解や住民組織化ができそうなリーダー、自分の障害や自宅での日常生活の工夫などをうまく説明できる障害者を探していました。もし、コミュニティ内に親しい障害者の仲間がいれば、小グループになれるような働きかけも効果があると思います。自分たちの家庭や地域で抱えている課題を仲間で共有することからはじめ、障害があっても家庭や社会で活動できている人の話を聞く会などを企画しても良いかもしれません。村を巡回しながら、このような人的資源を探していました。
 村を巡回して、もうひとつ注意していたのは、そのコミュニティで入手できる材料、商品、市場などを観察し、なにか障害者やその家族ができることはないかと探ることです。家畜の世話や店番なども含めてです。
 近年、「障害と開発」でCommunity based Inclusive Development(CBID)が注目されています。WHOでもCBRガイドラインのなかでCBR Matrix を公表しています。参考にされてはいかがでしょうか?


Question 2:先天性内反足の治療方法について
〜病院配属の理学療法士隊員より〜

 活動中の病院には、先天性内反足の子どもが親に連れられてきています。日本では、先天性奇形の治療経験がありません。年齢も変形の程度もさまざまで、まだ這うことのできない子どももいれば、変形のまま歩いている子どももいます。途上国の先天性内反足の子どもにどのように理学療法を行い、家族指導をしていったら良いか教えていただきたいです。

Answer 2:

 先天性内反足は、日本を含め世界のさまざまな国・地域で、おおよそ出生1000人に対し1人から2人にみられる障害で、一般的にはクラブフット(Club foot)と呼ばれています。自然治癒はしませんので、できるだけ生後早期に初期保存治療を開始します。現在では、アイオワ大学のポンセッティ教授(Dr. Ponseti)が始めた方法が日本をはじめ多くの国で採用され、インターネット上にもフリーの文献を含めポンセッティ法に関する情報をご覧になれます。
 ポンセッティ法では、生後7日から10日目くらいから始めるのがよく、徒手矯正とギプス固定を行います。徒手矯正は、足関節底屈位で距骨を固定し、前足部を外転させます。それから、前足部を回外させて凹足(おうそく)を矯正します。次に膝屈曲位で大腿部までギプスを巻きます。日本では先天性内反の子どものギプス固定は医師が行い、理学療法士は行っていません。
 派遣国では理学療法士や無資格の助手が行っていることもありますが、経験のない隊員は、評価や家族指導にとどめなければいけません。徒手矯正とギプス固定は、1週間に1回程度のペースで約6週間繰り返します。その後、アキレス腱切腱術、足部外転装具による装具療法を行います。
 家族指導は、ギプス固定中の注意点として、つま先がピンク色で温かいか、また、ギプスの端の皮膚がすれて赤くなっていないかどうかの確認を指導します。つま先がピンク色でなく温かくもない、あるいは、つま先が見えない、ギプスにひびが入った場合などは、少量の酢を入れた温浴湯に浸すなどして直ちに外さなければなりません。装具療法は、24時間のうち23時間、装具を装着しています。装具を外す1時間で、外反・背屈のストレッチを行います。その後、歩行ができる年齢になったら、踵(かかと)をつけてしゃがみながらの遊びを子どもに促します。
 ポンセッティ法のテキストは、日本語、英語を含め多くの言語に翻訳され、インターネット上で公開されていますので、参考にされると良いでしょう。

ボランティア成果品 Pick Up 〜リハビリ分野〜






『自主トレ3D版』

作者:白井瑞樹氏(理学療法士)
翻訳者:コスタリカの理学療法士隊員
内容:リハビリの自主練習用マニュアル
形態:Excelファイル・スペイン語(説明書はスペイン語と日本語)






『体操指導マニュアル』

作者:エクアドルの作業療法士隊員
内容:リハビリの目的で行う体操の指導マニュアル
形態:PDFファイル・スペイン語と日本語


[リハビリ分野の他の登録例]

●『顔の体操および摂食嚥下障害について』
顔面神経麻痺後の体操と摂食嚥下障害へのアプローチに関する動画資料(MP4ファイル・モンゴル語と日本語/作=モンゴルの言語聴覚士隊員)

●『スキヤキ体操』
介護予防体操の説明書。体操動作に「さくら」「寿司」「侍」などを入れており、日本文化紹介も兼ねる(説明書はPDFフィアル・タイ語/作=タイのリハビリ関連職種隊員)

●『リハビリテーション自主練習リーフレット』
リハビリの自主練習用マニュアル(PDFファイル・モンゴル語と日本語/作=モンゴルの理学療法士隊員)

●『リハビリテーションにおける訓練の解説(医師用)』
小児を対象としたリハビリ方法の医師向け動画資料(WMVファイル・ロシア語/作=キルギスの理学療法士隊員)

●『リハビリテーションにおける訓練の解説』
リハビリにおけるマッサージや運動のリハビリ職向け動画資料(WMVファイル・ロシア語/作=キルギスの理学療法士隊員)

知られざるストーリー