“失敗”から学ぶ

授業を改善したいという強い思いが空回りしてしまった

文=竹本大起さん(マラウイ・理科教育・2017年度2次隊)

中高等学校の2年生(日本でいう高校1年相当)の化学授業で、酸とアルカリの実験を実施したときの様子。身近な植物の草や花びらをすりつぶし、こしだした色水から、酸アルカリの指示薬(酸とアルカリによって色が変わり判別できる試薬)をつくっているところ。授業の前に外で生徒たちがそれぞれ好きな植物を取ってきた

 私はマラウイの中高等学校で、第1学年の化学の授業を担当した。現地教員と同じように授業案を作成して授業を行い、定期テストによって生徒の成績をつけるものであった。配属先上司からは「可能な限り実験を取り入れて生徒の理解を深めてほしい」と求められた。
 活動当初、私は日本での教員経験を生かし、簡単な実験を授業の導入に用いたり、理科室を使って生徒参加型の実験を行ったりしていたが、同僚の理科教員の授業ではあまり積極的な実験が行われていないことが気がかりであった。要請内容にも現地教員に対する理科指導法の助言という項目が含まれていたため、同僚教員にも理科実験を取り入れた授業をしてもらえるように、日本でよく行われる実験を紹介し、実験を授業の進行にスムーズにつなげられるような授業展開の助言を行った。
 その後しばらくは、紹介したいくつかの実験を授業に取り入れてくれたが、モチベーションが低下したのか徐々に実験が行われなくなり、以前のような状態に戻りつつあった。私も同僚の授業を訪ね、授業サポートなどをしていたが、モチベーションの向上は見られなかった。
 配属から5カ月ほどが経ち、同僚たちとの関係も深くなってきたころ、活動当初から悩んでいたそれらの現状を実験助手の教員に相談する機会があった。私は彼に「なぜ彼らは授業に実験を取り入れないのか。授業に対するやる気がないのだろうか」と半ば不満をぶつけるように質問した。すると彼から「やる気がないわけではない。彼らも授業に実験を取り入れたいと思っているはずだ。ただ彼らにも彼らのやり方がある。活動を始めたばかりの君からもらう助言を素直に聞き入れられなかったかもしれないし、君が簡単だと思う実験も彼らにとっては複雑で難しかったのかもしれない」と言われた。そのとき初めて、私の助言や指導が彼らのプライドを傷つけていたのかもしれないと感じた。
 時間の経過とともに、私は職場に慣れ、身の上話もするなど互いの理解がより深まっていくと、同僚が私の授業を見に来てくれる回数も増えてきた。同僚からも「君が授業で行っていた実験を教えてほしい」と言われることも増えてきたが、活動当初に授業を改善したいとの強い思いが空回りして結果として活動がうまくいかなかったことは反省すべき点であった。

隊員自身の振り返り

関係性が十分成熟しきってない段階で、長年の授業経験を持つ同僚教員にマラウイではあまり行われていない実験指導をしてしまい、私が簡単だと思う実験も現地の教員にとっては複雑に感じてしまったことが失敗の原因だと感じています。同僚教員の授業に参加して実験サポートを行うのではなく、私が行う授業に同僚を招待して自発的に実験を取り入れられるようにすればよかったこと、また現地で行われている実験のやり方をもっと深く勉強してから、現場の指導方法に合った実験法を助言すればよかったと思いました。

他隊員の分析

授業への不安を解消する

 現地の教員たちは実験を取り入れる気持ちはある一方で、経験が少なく、自信を持って実践できないというコンプレックスがあったのかもしれません。本事例の場合、隊員が彼らと打ち解けた関係になることで、わからないことを聞きやすい環境が生まれ、最終的に実験を理解して取り入れてくれたのかと思いました。私の場合は、現地の理科教員が交代で実験を紹介していくワークショップを企画し、教員同士が教え合える場をつくりました。失敗を気にせずに経験を積める場を提供したことで、教員たちも実験を理解し、自信を持って授業に臨めるようになったと思います。
文=協力隊経験者
● アフリカ・理科教育・2017年度派遣
● 取り組んだ活動
中高等学校で理科の教員として活動を行った。日頃の業務として生徒に対して化学や物理の授業を行うが、現地の教員に実験指導をすることにも力を入れた。

真っさらな気持ちで本音を調査する

 現状把握が足りなかったことが失敗の原因だったと考えます。上司の意向のみで動いてしまい、現場にいる教員たちの本音調査が不足してしまったのではないでしょうか。例えば、楽をしてお金が欲しいという考えの人もいるので、相手の状況によりアプローチ方法は変わってきます。私の場合は、まずひとりずつと交流を持ち、集団の目的と個人の目的が異なることを前提に本音を調査しました。真っさらな気持ちで聞いていきます。また、同時に向こうから頼まれた雑用を手伝ってみます。自分の範囲でない仕事も一緒にすることで、さまざまな発見があると感じました。
文=協力隊経験者
● アフリカ・理科教育・2017年度派遣
● 取り組んだ活動
キリスト教系私立中学高等学校にて、理科教育を実施。ひとりで中学1年生、中学2年生の授業を行う。現地で調達可能なもので実験を考案し、実施した。日本との文化交流も行った。

竹本さん基礎情報





【PROFILE】
1989年生まれ、埼玉県出身。2014年、東京理科大学大学院総合化学研究科修士課程を修了後、加藤学園高等学校に理科教諭として3年間勤務し、退職。17年10月、理科教育として協力隊に参加。19年10月に帰国。

【活動概要】
モンキーベイにあるリスンビュイ中高等学校で物理と化学の授業を担当し、主に以下の活動を行う。
●実験を導入した理科指導
●クラブ活動や校外活動によって理科に対する興味関心を育成

知られざるストーリー