定年退職を期に海外へ。
サービスエンジニアの経験をソロモンで生かす

電機メーカーのサービス会社で冷凍空調関連機器のサービス(定期的な点検、故障復旧など)や冷凍空調機器の新設・改修工事の検査などに42年間携わった今井さん。定年退職を期に海外に出てみたいと考え、海外協力隊に参加した。

今井一男さん
(ソロモン・冷凍機器・空調・2016年度4次隊)




[今井さんのプロフィール]
1950年生まれ、北海道出身。北海道立札幌琴似工業高等学校を卒業後、三菱電機ビルテクノサービス北海道支社に冷熱機器のサービスエンジニアとして42年勤務。2011年より1年間、インドネシアで空調機の定期点検の指導を行う。17年3月、シニア海外ボランティア(※)としてソロモンに赴任。19年3月に帰国。
※派遣名称は派遣当時のものです。

[活動概要]
配属先:ソロモン国立薬剤管理センター(National Medical Store)
主な活動:全国の病院・医療施設で使用する医薬品、小型医療機材の購入・在庫・配送の拠点となるNMSでコールドチェーンの構築のため、主に以下の活動を行う。
●ワクチン用の冷蔵庫の故障復旧の指導
●定期的な点検の指導
●薬品倉庫の電気関係維持

今井さんの関係人物

[同僚・カウンターパート(CP)・友人]
スコット君(配属先のCP):お調子者だが、ソロモン人を理解するのに欠かせない存在。3人の娘とも一緒に泳ぎに行くなど、家族付き合いをした友人。
[上司・友人]
ガーネットさん(医薬品部門の責任者):スコットの不在時は相談相手となってくれた。押しが強く、ときに無理難題も言われたが、良い勉強になった。
[隣の住人]
オリバーさん(台湾大使館一等書記官):仲良くさせていただき、彼主催のカラオケ大会にも参加し、楽しく過ごす。
[隣の住人]
藤原さん(魚の専門家):日本から派遣されている専門家で、買い物に連れて行ってくれることも。
[隣の住人]
咲こさん一家:家族でタイから引っ越してきた方々。咲こさんはユニセフの臨時職員。風邪を引いたときには、旦那のケビンさんがおかゆをつくってくれた。出会ったときは0歳児だった息子のコアちゃんがかわいかった。
[運転手]
ラロさん(タクシー運転手・大家の夫):2年間、職場への送り迎えなどをしてくれた。私が帰国して間もなく奥様が亡くなり、生まれ故郷の島に帰ったとのこと。

今井さんの活動

冷凍庫の修理を行う今井さん。スイッチ、温度調節器、温度表示器など電気系統を中心に不具合発生部品を探し出す

 大洋州にある大小約1000を数える島々からなるソロモン諸島。今井さんは、ソロモン国立薬剤管理センター(以下、NMS)に配属され、コールドチェーン(以下、CC)部門で活動することになった。
 CCとは、医薬品等の輸送・消費の過程で低温に保つ物流方式を指し、活動先では全島のワクチン用冷蔵庫等のCC機材関連の管理業務を担当している。ワクチンと機材はユニセフ(*1)から援助され、「機材を10年以上維持せよ」という要求があった。そのためには保守・点検を行い、機能維持が必要となるが、全島にはCC担当者はいるものの保守・点検・修理等の技術はない。故障時は新機材に交換し、不具合発生機をNMSに送り、冷凍機修理業者に対応させるという流れであった。そこで機能維持のための技術移転が求められていた。
 ところが、赴任時に今井さんが配属先で感じたのは何も期待されている様子がないことだった。そこでまず、医薬品倉庫内の様子を観察したところ、故障にて動かないワクチン用冷蔵庫を発見。CC担当作業員であるカウンターパート(以下、CP/*1)を巻き込んでそれを復旧させることから活動を開始する。最初に手掛けた冷蔵庫を復旧させ、再稼働に成功すると、このことがNMS所長の耳に入り、ガダルカナル島の各医療場所に放置されていた故障冷蔵庫の修理依頼が舞い込み、修理のために出張するまでに活動が広がっていった。
 数カ月後、今井さんはある島のCC担当作業員が冷蔵庫を修復できずにいるという情報を得る。技術移転の良い機会と捉え、CPと一緒に出張へ行くことにした。
「CPには、故障内容の把握、その内容から考えられる要因の想定、現地での修復方法の策定、必要な電気図面の作成、工具・部品の確保等作業の流れを指示しました」
 不可解な現象に見舞われ、その場での復旧が叶わずNMSに持ち帰り、原因を究明することに。メーカー設計不良もあり、直接原因を改善させ、冷蔵庫の復旧を行った。「この一連の活動がCPにとって良い経験となったようです」と今井さんは話す。

*1 ユニセフ…UNICEF(国連児童基金)。世界190以上の国と地域で子どもの権利と命を守るために活動する国際機関。
*2 カウンターパート…技術協力の対象となる、派遣国の行政官や技術者、配属先の同僚などのこと。

押し付けず、現地の人が望むことを

 その後も、各島の担当者からの質問に答えて技術向上に努めるなど、現地の人が望むことを主として活動した。集めた情報は自分の帰国後も活用できるよう、Q&A集等にまとめて配布。活動を振り返り、一番の変化を感じたのはCPだったそうだ。
「私の赴任前から島の担当者から相談や質問を受ける立場にあった彼は、保有している冷蔵庫を送り、不具合発生冷蔵庫を返却させることを主の対応としていました。私の赴任後は修理を考えるようになり、状況を把握し、修理の指示を出すようになった。それでも解決できないときは、私を同行して島を訪れ、島の担当者と一緒に修理をするようになりました。少しだけでも意識を変えることができたのかなと感じています」
 CPからは現在も連絡があり、質問に答えているという。今井さんは今後も自身の技術を生かし、必要とする人と機械に、知恵と技術を伝えていきたいと考えている。

今井さんの「やりがい曲線」

(1)活動初日〜1週間を振り返る
配属先に行ってみたものの、具体的な活動内容がわからず、指示も説明もなく、おまけに誰も私を信用していません。後になってわかったことですが、前任者は会話を多くするタイプではなかったようで、私も同じタイプだと思われていたようです。まずは、倉庫内作業をしている女性たちに混じり、彼女らの手伝いをしながら、動向を観察しました。すると何年間も放置されているワクチン用冷蔵庫が放置されており、捨てるにも方法も場所も方法もないこの国では、そのままになっていました。これを復旧することから始めようとCPのスコットを巻き込んで活動を開始しました。初めて見るタイプの冷蔵庫で、資料の保管もなく、インターネットで探した数少ない資料を参考に、1週間かけて復旧に成功。これによりNMSの信頼を得ることができ、活動が広がりました。

同僚でCPのスコット

(2)放置冷蔵庫を発見し、同僚と復旧方法を考える。

(3)修理を完了したことから、「小さな診療所に放置されていた冷蔵庫の修理ができる技術者が来た」と、宣伝され毎日同僚と修理に追われる。

ワクチン用冷蔵庫の機械室

主に修理を行ったワクチン用冷蔵庫の外観

(4)配属先幹部の信頼も得て島を含めた出張修理活動が始まる。NMS上司たちが島の担当者たちに修理ができることを広めたらしい……。

(5)サボ島への出張で、「超問題機器」に出合う。症状が不明で図面もなく、一旦引き上げる。ネットから資料を拾い、検討する日々が続く。

(6)ジャングルの中にある小さな診療所に修理に出向くと、サボ島と同じ機種に出合い、ここでも不可解な症状を体験し、一旦引き上げる。

(7)原因が解明される。高温多湿による金属部分の腐食、劣化が原因であるとともにメーカー側の設計不良が重なっていた。

(8)ユニセフ経由で設計不良と思われる内容について質問を行うが、回答が得られず。落ち込む。

(9)恒久方法(根本的な解決策)を模索。メーカーの新機種を見ると設計不良の疑問が解決されていた。この方法を参考に具体的な解決策を策定でき、ついに復旧!

(10)工具管理台帳、部品管理台帳の整備、Q&A集や問題解決集などの作成を進める。

(11)故障冷蔵庫の返却が少なくなったので、配属先内の電気機器の修理点検や、同僚と一緒に近隣の個人病院・診療所の冷蔵庫を点検修理し、対応方法等を伝える。別の島への出張で、他島の担当者にも修復の方法を広めていく。

薬品倉庫には全体空調用の大型空調機が5台設置されており、これらの機能維持活動も行った

(12)2年を振り返ってひとこと
さまざまなことを考えて、挫折したり眠れず不調になったりしながらも挑戦した日々でした。ソロモンの生活に密着でき、観光では得られない経験をしたと感じている。完全とは言えないので、80点としました。

最終日に在ソロモン日本国大使にあいさつをした後、大使と他隊員たちとの集合写真

知られざるストーリー