「地域」を対象にした仕事の魅力を知り
地方自治体職員の道へ

[帰国後]地方自治体職員(静岡市役所)

森 裕美子さん
(マーシャル・青少年活動・2014年度2次隊)




[森さんプロフィール]
1983年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、英会話教室講師やゲストハウススタッフを経て、2014年9月、協力隊員としてマーシャルに赴任。女性支援を行うNGOに配属され、子育てに関する教育の支援などに取り組む。16年10月に帰国。17年、静岡市職員採用試験に新設された協力隊経験者などを対象とする特別枠「創造力枠」に合格し、18年4月に同市に入職。観光交流文化局観光・国際交流課MICE・国際係に配属され、現在に至る。


【BEFORE】

赤十字社が開催するイベントで、同僚とともに家庭での衛生管理について講義を行う協力隊時代の森さん(奥左)

 森さんの目が初めて海外に向いたのは、小学3年生のとき。いとこのペンパルだった米国の女子中学生が来日した際、一緒に遊び、その楽しさからすぐさま英会話教室に通うようになった。大学を卒業すると、英会話教室の講師、外国人向けゲストハウスのスタッフと、日本国内で英語力を生かした仕事を渡り歩く。
 協力隊に興味を持つようになったのは、ゲストハウスに勤めていたときだ。各国から来る外国人客を相手にするなか、「海外での仕事を経験してみたい」との思いが募っていく。協力隊を経験した同僚や友人から話を聞き、「せっかくなら人の役に立つ仕事を」と協力隊参加を決めたのは、30歳のときだ。
 派遣国はマーシャル。女性支援を行うNGOに配属され、未就学児がいる家庭を回って母親に子育てのアドバイスを行うプロジェクトや、地域の女性グループを対象にDVなどに関する啓発を行うプロジェクトなどに携わった。

【AFTER】

静岡市のプロモーションを目的とした交流会のPR用ブースで、同市職員としてオーストリア大使館関係者(右)の通訳を担当する森さん(中央)

 元来、人とかかわることが好きで、派遣前もそうしたタイプの仕事に就いていた森さんだったが、それらはいずれも生徒や客など限られた人を相手にするもの。「地域住民」という広い範囲の人々を対象に働くのは、協力隊が初めてだった。啓発の対象である女性グループのメンバーが、女性の社会的地位の問題に目覚め、自信を持った発言や行動をとるようになると、それが次第に地域のほかの女性たちへと広がっていく——。活動のそうしたインパクトの大きさに、森さんは魅力を感じた。
 そうして帰国後に選んだ仕事は、市役所の事務職だ。帰国の翌年、地元・静岡市の職員採用試験に初めて設けられた「創造力枠」に応募し、合格。協力隊経験者など「誰にも負けない経験・能力・知識」を持つ人が対象の特別枠である。入職以来配属されているのは、観光交流文化局の観光・国際交流課。姉妹都市のカンヌ市があるフランスなど、外国と静岡市の交流に関する業務を担当してきた。
 市役所でのこれまでの仕事で森さんが「協力隊経験の賜物」と自覚しているのは、「置かれた環境で最善を尽くそうとする姿勢」だ。
「協力隊員として着任した当初は、自分の存在意義が見出せず、途方にくれました。しかし、辛抱強くさまざまな人とのつながりを築いていくと、やがて自分に果たせる役割が見えてきた。そんな経験があるため、今の職に就いてからも、与えられた仕事をこなすだけでなく、さまざまな勉強会に足を運ぶなどして、『今、自分にできること』を広げる努力が自然にできていると感じています」

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