「共同体の自立」への関心が高まり
「地域づくり」を仕事に

[帰国後]コミュニティカフェ経営(おどもカフェ)

尾崎真理子さん
(フィリピン・村落開発普及員〈現・コミュニティ開発〉・2009年度4次隊)




[尾崎さんプロフィール]
1981年生まれ、長野県出身。大学卒業後、フィリピンでNGOのボランティアプログラムに参加したのをきっかけに、同国の大学院に進学して「共同体の自立」について研究する。2010年3月、協力隊員として同国に赴任。漁業組合に配属され、養殖振興の支援などに取り組む。12年3月に帰国。13年4月、長野県下伊那郡阿南町に地域おこし協力隊員として着任。任期終了後の16年4月、同町御供(おども)地区にコミュニティカフェ「おどもカフェ」をオープン。


【BEFORE】

協力隊時代の尾崎さん(最後列)と任地の地方自治体職員たち

 尾崎さんの人生が方向を変えたのは「9・11」だ。それまでは役者志望の大学生として、演劇の歴史が長い「ヨーロッパ」にばかり目が向いていた。「9・11」の後、パキスタンでアフガニスタン紛争の被害者の声を聞く機会を得る。日本のメディアでは報じられない彼らの実情を知り、途上国に目が向くようになった。
 大学を卒業すると、NGOのボランティアプログラムでフィリピンに滞在。その後、同国の大学院で歴史を学ぶが、大多数の人の生活とはかけ離れた都市部での暮らしへの疑問から、村落部の人々にもっと近い所で生活してみたいという思いを抱く。実現する手段として選んだのが協力隊だった。幸い、フィリピンの案件での派遣が決まる。漁業組合に配属され、蟹の養殖の振興などに取り組んだ。

【AFTER】

おどもカフェの厨房に立つ尾崎さん。店舗を英会話教室やヨガ教室の会場として貸し出すこともあるほか、町の社会福祉協議会が行う就労支援事業で引きこもりの人の就労を引き受けることもある

 協力隊での大きな出会いは、配属先の組合長の男性だ。学歴のなさへのコンプレックスを口にしながら、「マングローブ」に備わる津波の減災や生態系の保全といった機能を独学で調べ、手弁当でその植樹を進めていた。尾崎さんは、「自立の精神」を持った住民の存在こそ、共同体の発展には不可欠なのだと実感した。
 組合長への感銘から、尾崎さんは「共同体の自立」を帰国後のライフワークにしようと考える。当初は研究の道も検討したが、日本での実践を経験しておくべきだと思い、地域おこし協力隊に参加。特定の専門性が不要だった長野県下伊那郡阿南町のポストに応募し、採用された。
 同町にもやはり、「自分たちの力で町を良くしたい」という情熱を持つ住民はいた。「地元の郷土料理の伝承」など、尾崎さんが地域おこし協力隊員として実践した活動は、いずれも住民のアイデアを汲み取ったものである。
 そうしたアイデアのうちのひとつが、「住民が気軽に集まれる場の創設」だった。尾崎さんはその実現を引き受けるため、任期終了後も同町に留まることを決意。そうして同町の御供(おども)地区にコミュニティカフェ「おどもカフェ」をオープンしたのは、任期を終えてまもない2016年4月だ。地元の農産物を使った料理を出す一方、住民によるイベントの会場としても活用してもらっている。
 尾崎さんが同町での仕事を始めて以来、一貫して心がけているのは、「自分自身が楽しんで働く」ということである。
「協力隊時代、現地の人からよく『楽しく仕事をしているかい?』と聞かれました。『楽しまなければ損』という彼らの前向きな姿勢を思い出しながら、私も地元の方々がカフェを利用してくださり、他愛ないことやまじめなことをあれこれ話せることを心から楽しんでいます」

知られざるストーリー