活動Q&A集 〜協力隊技術専門委員が回答〜

JICA海外協力隊員への技術支援を目的に配置されている技術専門委員。派遣中隊員から寄せられた活動に関する相談と、それに対する技術専門委員による回答の例をご紹介します。

【回答者】





橘 克彦さん
●JICA海外協力隊技術専門委員(担当分野:理科教育・数学教育)
●元科学館長・元中学校長



Question 1:現地で調達可能な材料を用いた観察・実験の紹介
〜中・高等学校で活動する理科教育隊員より〜

 中・高等学校で理科教育隊員として活動を始めました。要望されているのは、現地で調達可能な身近な材料を用いた観察・実験の紹介です。同僚は観察・実験をほとんど行わず、板書主体の授業に徹しています。観察・実験の紹介が要望される理由は理解できるのですが、「現地で調達可能な身近な材料やそれらを用いた観察・実験」は簡単には思いつきません。どのように対応すべきか、ヒントをいただければと思います。

Answer 1:

 ここではまず、2つの観点で考えてみましょう。1点目は、調達可能な身近な材料についてです。2点目は、それを用いた観察・実験の紹介についてです。どちらも言うのは簡単ですが、現実としては日本国内でも容易にできることではありません。また、どのような観察・実験を紹介したいのかが決まらなければ、どんな材料が必要になるかも分かりません。
 以前、電磁石の実験を行いたいとのことで、数カ月を要して電気ブランコの実験具を自作した隊員がいました。教科書には掲載されているのですが、実際の動きを体感させたいとの考えからのチャレンジです。エナメル線や磁石を手に入れるまで、多くの同僚に助けられながら探し回ったそうです。材料が揃えば作ることは容易です。生徒が実験をして、その驚き方を見た同僚は、理科の授業に実験を取り入れることの必要性を理解し、興味を持ち始めたとのことでした。以下、そこに至るまでの対応について列記します。
(1)「現地で調達可能な身近な材料」を考えるよりも、まずはどのような観察・実験が教科書に掲載されているかを調べることが必要です。
(2)それらの中から生徒にとって体験させたい観察・実験を選択し、その道具が学校にあるかどうかを確認する必要があります。
(3)観察・実験具が無い場合、それが自作できるかどうかを考えます。自作が可能となれば、必要な材料を探すことになります。
(4)材料探しは、同僚や現地の知人に助けてもらうことになります。日々の生活の中で積極的にショッピングモールや日常の小物を販売する店などは見ておく必要があります。
(5)材料が揃えば、あとは作るだけです。

   ここまでは、労を惜しまなければ実践が可能です。付随して、それまでにかかる費用のことも忘れてはいけません。学校にそのような予算があるか、製作する道具があるか、所属長との相談を忘れてはいけません。2年間の活動期間でどの程度可能か分かりませんが、身近な材料を用いた観察・実験の紹介を目的とするのではなく、授業に必要な実験具を必要に応じて作り、修理していくことが大切な活動になるのです。特にこのようなことは一人で行わず、同僚との協働作業が不可欠です。このような活動を通して現地の教育力を高めたいですね。


Question 2:理科実験室の改善について
〜高校で活動する理科教育隊員より〜

 理科教育隊員として活動を始めようとして驚いたことは、観察・実験を重視した授業を推進するようにとの要請だったにもかかわらず、実験室には汚れたままの実験器具などが山のように積まれ、ラベルが読み取れない薬品も棚に置かれている状態だったことです。これからどのように対応していったら良いか、壁にぶつかっています。

Answer 2:

 理科教育活動における基本的かつ最大の課題ですね。日本国内でも、理科室や理科準備室を見れば、その学校の理科教師の力量が分かると言えます。協力隊員が派遣される地域でもまさにそのことが大きな課題です。
 いずれにしても、まずは片付けから始めなければなりませんね。くじけずに、最初が肝心ですから心してください。任地の多くの学校の実情として、一度使った器具は洗浄もせずに使いっぱなし、壊れたものはそのまま、高価な器具でもマニュアルが紛失して使い方が分からない等の情報を耳にします。このような状況を改善して、これらを使用できるようにすることが第一歩です。
 しかし、一人でそれらを綺麗に片づけても、同僚はお構いなしにそれらを使って、またそのままにしてしまうことでしょう。それでは何の意味もありません。片づけにおいては、次のようなことから始めてみてください。ただし、これらを始めることについては、所属長と同僚の理科関係の先生方に了解を得ることが大切です。そのためにも、自分がどのような理科室にしたいか、描いておく必要があります。
(1)理科係のような役割を生徒に決めさせ、それらの生徒と一緒に片づける。
(2)同僚の理科の教師と一緒に片づける。
(3)片づけにおいては、器具・薬品等の置き場所を決める。
(4)物品帳簿や物品表を作成する。
(5)片づけは定期的に行い、作業に関わった生徒や教師の名前を公表する。このことは、活動のPRにもなり、特に同僚には自信とプライドを持ってもらえることになります。
(6)不明な器具や使用方法が分からない道具等も、最近はインターネットで調べることができます。それらの活用も積極的に行いましょう。
(7)不必要なものは積極的に処分する。特に薬品の処理や器具等の処分の方法については、所属長と相談して行うことが肝心です。

 これらの活動が実践できれば、同僚の理科の教師の力量も向上し、生徒の理科に関する興味・関心も高まるはずです。観察・実験を重視した授業は、これが出発点です。活動を通して、生徒の学習に役立つ観察・実験のアイデアも生まれてくるのです。

ボランティア成果品 Pick Up 〜理科教育分野〜

JICA海外協力隊員が作成する成果品については、その共有・活用の促進を目的に、JICA青年海外協力隊事務局が「ボランティア成果品」として登録・保管する制度を設けています。成果品の登録・活用を希望する場合は、在外事務所にご相談下さい。






『生徒の物理学習の促進と教員の物理指導の質の向上』

作者:サモアの理科教育隊員
内容:理科教育に関する指導教本
形態:PDF・英語






『Trainer's Guide for Educating Cleanliness』

作者:カンボジアの理科教育隊員
内容:理科教育に関する指導教本。微生物実験やゴミの分別などの指導案がまとめられている。
形態:PDF・英語とクメール語


[理科教育分野に関連する他の登録例]

●『ニンジン・レタス・ピーマン・オクラの採種』
ニンジン・レタス・ピーマン・オクラの自家採種方法を紹介。各野菜の花や種、野菜の育ち方も学べる視覚教材(PDF・英語/作=トンガの野菜栽培隊員)

●『野菜栽培マニュアル』
15種類の野菜の栽培マニュアル。芽の種類や播種・収穫時期、播種方法の違いを学ぶことができる(PDF・フランス語/作=セネガルの野菜栽培隊員)

知られざるストーリー