“失敗”から学ぶ

子どもたちとの約束だけは守りたいという自分の思いが主体になっていた

文=岩瀬さくらさん(ペルー・青少年活動・2017年度2次隊)

ピウラ州児童保護施設の子どもたち、NGO「MUNAY Perú&Japón」の大学生と岩瀬さん。帰国前に大学生が「さくらが帰っても、施設に行く。これからもきっと続けるよ」と、子どもたちが「日本に帰っても家族と幸せにくらしてね。ありがとう」と言ってくれたそうだ。「子どもたちのためと思っていたが、子どもたちを含め、みんなが私にいい思い出をと頑張ってくれていたように思います」と岩瀬さんは振り返る

 ペルーのピウラ州児童保護施設で、虐待や貧困により家族と暮らすことが困難な0〜17歳、約50人の子どもたちの生活を支援するために活動した。政権や施設長の交代などにより、ほとんどのスタッフが短期契約で自分の生活を優先、情熱あるスタッフも多忙を極めた。自らの生活や家族を大切にするという文化は大いに共感でき、彼らの仕事を増やすことは物理的、精神的に限界があると悟った。
 一方、すべての子どもたちが「自分だけが注目される時間・ずっと想ってくれる人の存在」を欲しているのを強く感じており、ひとりひとりとの時間を大切にした「日常」の奪還と、施設退所後の支援の摸索を始めた。同時に、スタッフ交代や帰国後を見据えたコミュニティとの「縁結び」に力を注いでいた。信頼・応援してくれるスタッフも増え、子どもとの友情も感じるようになった。
 派遣6カ月頃、子どもたちと信頼関係を築きつつ、多様な資質を伸ばし自尊心を高める目的をもって、地元大学生と施設のためのNGOを創設。企画・運営と同時に、組織編成や定着化、施設の子どもたちと大学生らの信頼形成を目指していた。大学だけでなく、市役所など他団体との関係づくりにも努めていた。
 しかし、NGOの活動を始めて半年を過ぎたころより、NGOメンバーや施設長、その他幹部スタッフと、毎回綿密に調整していたにもかかわらず、施設側の活動阻害が10数回続いた。そのため大学生のモチベーションが下がり、遅刻やドタキャンが増え、いくつものアクティビティが中止に。心待ちにしている子どもたちは不信感を抱いてしまった。私も苛立ち、「大学生や子どもたちの思いを無駄にしたくない」という気持ちと、反省や疲れなどが重なり、笑顔が減っていった。「主体は現地の人!」と思い公言していたが、人を信じられず、結局は主体が自分になっていて、勝手に孤立した気持ちになっていた。
 その1~2カ月の間、私の周りからはワクワク感が消え、みんなと集まって話す機会も減っていた。後からNGOメンバーに聞いたところ、当時の私は「ひとりで戦っているように見えた」そうだ。
 しかし、私を信じ、私の側にいて笑ってくれていた人たちを思い出し、人を信じ頼るようにした。これにより深い新たな絆が生まれていったように感じた。

隊員自身の振り返り

「今やれることを笑顔で全力で」という先輩隊員の言葉を思い出し、NGOメンバーにそのときの心境を包み隠さず伝えました。「子どもたちをがっかりさせたくなかった。理想ばっかり言って、みんなが助けてくれたのに何も恩返しできなくてごめん」と。すると「見返りを求めずひとりで戦っているように見えたよ」「あなたと一緒にいたかっただけ」「人生を変えてくれたよ」と笑ってハグしてくれました。責任感や申し訳なさというのは、現地の人と「共に」ではなく、自分が主体になっていたからこそ生まれた感情だったと気づき、彼らを信じ頼るようにしたところ再び結束。NGOメンバーのモチベーションも戻り、NGO活動は新たなステージへ。また、他団体とも施設でのさまざまなイベントを行うことができました。

他隊員の分析

現地職員の居場所づくり

 施設の職員と私たち隊員の役割を明確にすることが、ポイントになってくると思います。現地の方々が自発的に活動を行うためには、その活動に興味を持ち、さらに達成感を味わうことが必要です。そこでまずは、職員たちに子どもたちの変容や参加してくれている学生を活用するメリットを感じさせます。他団体が活動を行ってくれることで、職員たちの仕事を軽減でき、子どもたちの自己有用感を高めるとともに、職員たちと子どもたちを繋げる架け橋のような活動と理解できたときこそ、活動が軌道に乗るのではないでしょうか。
文=協力隊経験者
● アジア・青少年活動・2016年度派遣
● 取り組んだ活動
人身取引被害者保護福祉センターに保護されたばかりの女子(12〜18歳)に対して、ライフスキルトレーニングと基礎学力定着のために、構成的グループエンカウンターを計画実施、学習ワークシートの作成を行った。

自分を幸せに、そして他者も幸せに

 隊員自身の精神状態は活動にも大きく影響するように思います。私もそうでしたが、派遣中に自分ではどうにもできないトラブルで活動が滞ることはよくあります。隊員は責任感や情熱のある人が多く、うまくいかない状況に苦しみます。「主体は現地の人」ですが、まず任地で活動しているのは自分自身。「自分が幸せでなければ、他者を幸せにはできない」と私は考えています。どんな方法でも良いのでそこで楽しく、幸せに生きること。いつも幸せそうにしていることで、活動の主体となる人が集まったり、案外身近にあった問題解決策が見つかったりするものだと思います。
文=協力隊経験者
● 中南米・青少年活動・2016年度派遣
● 取り組んだ活動
地域の若者の健全育成や規律の指導を目的として、市役所が運営する地元住民向けの運動クラブ・文化クラブでの指導を行うとともに、クラブ運営方法の改善にも取り組んだ。

岩瀬さん基礎情報





【PROFILE】
1986年生まれ、福岡県出身。2009年、久留米大学医学部看護学科を卒業後、九州大学病院救命救急センターに看護師として勤務。14年、退職。NGOのインターンや福岡市母子保健訪問嘱託員などを経て、17年10月、協力隊に参加。19年10月、帰国。

【活動概要】
ピウラ州児童保護施設で、主に以下の活動を行う。
●「日常」の奪還…宿題、掛け算の暗記、空手クラス、家庭菜園、料理などの実施
●コミュニティとの縁結び…地元大学生とNGO「MUNAY Perú&Japón」創設。ピウラ空手道連盟との連携
●施設退所後を見据えた支援の摸索 など

知られざるストーリー