活動Q&A集 〜協力隊技術顧問が回答〜

JICA海外協力隊員への技術支援を目的に配置されている技術顧問。派遣中隊員から寄せられた活動に関する相談と、それに対する技術顧問による回答の例をご紹介します。

【回答者】





神谷 茂さん
●JICA海外協力隊技術顧問(担当分野:医療)
●杏林大学保健学部長



Question 1:「マンパワー」の役割ばかりが求められています
〜医療施設配属の感染症・エイズ対策隊員よりより〜

 私はコミュニティ・ナースとしてエイズ予防の啓発活動や、配属先の業務改善支援をする目的で、ヘルスセンターに派遣されました。現在、配属先の日常業務を手伝うマンパワーとしての役割ばかりが求められています。例えば、パソコン作業に精通しているという理由で、外来の受付業務などに携わることを依頼されています。そのため、マンパワー以外の活動を計画し、実行していくことが難しい状況になっています。今後の活動方法についてアドバイスをお願いします。

Answer 1:

 協力隊員は、配属先から日常業務をこなすマンパワーとしての役割を期待されることがたびたびあります。特に、臨床検査技師、診療放射線技師、薬剤師などの職種の協力隊員に「検査業務」や「薬局業務」へのマンパワー支援が求められることが多い傾向があります。私は、一定のマンパワー業務への協力は配属先の活動を維持していくために必要ですので、許容していただくよう指導しております。
 しかし、マンパワーとしての役割に100パーセント終始した場合、協力隊員の任期が終わり、帰国した後に、その協力隊員の活動実績を含め、配属先に何も残らない状況になることが懸念されます。従って、当初はマンパワーとしての業務をある程度こなしながら、配属先スタッフの協力隊員に対する認知度を高め、信頼を得ることを目指すのは良いでしょうが、その後は時機を見て、自分がやりたいと考える活動について配属先スタッフに向けてプレゼンテーションをする機会をつくり、彼らの賛同を得るよう努力してください。
 ご質問に関連して、先輩隊員の活動例を紹介いたします。HIV/エイズ対策の活動を行うNGOに派遣されたある感染症・エイズ対策隊員は、当初、配属先の収入向上のための養鶏・養豚事業への専従を求められ、予定していたHIV/エイズ対策の活動がまったくできませんでした。そこで、JICA事務所の企画調査員(ボランティア事業)に間に入ってもらい、配属先の責任者と交渉した結果、業務の半分をエイズ孤児やHIV陽性者の支援活動に当てることが叶いました。
 また、パソコンによる医薬品管理業務の支援を求められて赴任したある薬剤師隊員は、配属先スタッフの仕事ぶりが怠惰だったことから、薬局で多量のマンパワー業務をこなさなければならない状況となりました。その協力隊員は、「上から目線」でスタッフを叱責するのではなく、「お願いだから、私の医薬品管理の業務を手伝ってほしい」と、スタッフに「依頼」するスタンスをとりました。合わせて、パソコンの立ち上げから各ステージでのパソコン操作に至るまでを彼らに一から詳しく教えていったところ、パソコン業務に自信をもった彼らは、その後、積極的に薬局業務に精を出すように変容しました。薬剤師隊員の大変賢明な対応ぶりに感心した次第です。


【回答者】





森 淑江さん
●JICA海外協力隊技術顧問(担当分野:看護)
●群馬大学大学院保健学研究科教授



Question 2:医療者としての行動に問題がある同僚について
〜病院配属の看護師隊員よりより〜

 着任して半年が経ちましたが、配属先の同僚の行動に問題があり、どうアプローチすれば良いか悩んでいます。手洗いを行わない(上司の前では行う)、患者へのケアが雑、段取りが悪いため処置中に医療事故が起こりそう、亡くなった患者の扱いが酷い、空いた時間はお茶やおしゃべりをしたりスマホを使ったりと、医療者の行動として疑問です。

Answer 2:

 着任当初は何もかも珍しい状態でしたでしょうが、半年も経つと配属先の様子が良くわかり、日本の看護師と比べて知識・技術・態度など多くの違いが目について同僚に否定的になりがちです。自分の持つ知識・技術・態度が絶対に良くて、配属先の人に関するすべてが悪いように思えてきます。これは誰もがたどる異文化適応の途中の段階なのですが、やがてその国の言葉に慣れ、配属先の人々のことが理解できるようになると、徐々に心理的バランスを取り戻します。
 違いばかりが目につく時期を過ぎて少しずつ慣れてくるまで、協力隊員の場合は3~6カ月、長い人では1年近くかかります。その間の時期をどう乗り越えるかですが、疑問に思える同僚の知識・技術・態度がどこから来ているのか考えてみましょう。なぜなのか尋ねてみましょう。同僚はどのような状態を「清潔」と考えているのでしょうか? 患者になぜそのようにケアするのでしょうか? 日本では熱い湯で行うことが好まれる清拭が、暑い国では嫌がられるなど、何かしらの理由で違うケアの方法が行われていませんか? 遺体に対する思いも、日本とは異なるのかもしれません。
 勤務の合間の“空いた”時間は、どの労働者にも必要とされる、疲労の蓄積を避けるための休憩時間と考えてはどうでしょうか? 私たち日本人から見ておかしいと思えるような行動でも、必ず理由があるはずですし、見方を変えること(自分が変わること)が活動の糸口となります。
 以前、ラオスの病院の看護部長にお会いしたときのことです。10年以上前に協力隊員と現地の看護師たちとが協力して作成した壁のポスターを前に、看護部長は説明してくれました。「協力隊員は看護師の行動で疑問に思ったことについて、必ず『なぜ?』と聞いてくれた。夜遅くでも、電話をして聞いてきた。それがとても良かった」と。いきなり決めつけて否定的に捉えず、必ず理由を確認してくれたことが、看護部長は大変嬉しかったそうです。この協力隊員の“上から目線”でないかかわり方があったからこそ、ポスターが10年以上たっても活用されていたのでしょう。その元協力隊員と看護部長との交流は未だに続いています。

協力隊成果品 Pick Up 〜保健・医療分野〜

協力隊員が作成する成果品については、その共有・活用の促進を目的に、JICA青年海外協力隊事務局が「ボランティア成果品」として登録・保管する制度を設けています。成果品の登録・活用を希望する場合は、在外事務所にご相談下さい。






『Texto del parto cariñoso』

作者:ボリビアの助産師隊員たち
内容:「妊産婦とその家族を大事にした分娩ケア」を現地の医師・看護師・看護学生に普及・定着させるために作成した教材。「妊産婦の権利」や「日本のお産のあり方」などがまとめられている。
形態:PDFファイルとDVD・スペイン語

[分野に関連する他の登録例]

●『Coma Sano × Viva Feliz レシピ集』
任地で入手可能な食材ででき、低コスト・高栄養価である料理のレシピ集。3色食品群(栄養素の働きで食品を3グループに分けたもの)や食品衛生の解説なども盛り込まれている(PDFファイル・スペイン語/作=グアテマラの栄養士隊員)。

●『栄養啓発キット』
15種類の野菜の栽培マニュアル。芽の種類や播種・収穫の時期、播種方法の違いなど学ぶことができる(PDFファイル・マダガスカル語/作=マダガスカルの看護師隊員)。

●『Infection Control Handbook』
HIV/エイズや結核など、現地で多く見られる感染症の知識を伝える若年層向け教材(PDFファイル・英語/作=パプアニューギニアの感染症・エイズ対策隊員)。

知られざるストーリー