「見てわかる物」で
自分が秘める技術や思いをアピール

平出将孝さん(東ティモール・手工芸・2017年度2次隊)の事例

芸術や文化の振興に取り組む中央省庁の部局に配属された平出さん。同僚や住民との関係づくりで「名刺代わり」となったのは、自作の竹細工など、自身の技術や思いが伝わる「物」だった。

平出さん基礎情報





【PROFILE】
1985年まれ、福島県出身。市役所に事務職として勤務するかたわら、実家が営む竹材業を手伝いながら、竹細工の技術を習得。2017年10月、青年海外協力隊員として東ティモールに赴任(現職参加)。19年10月に帰国し、復職。

【活動概要】
東ティモール観光省芸術・文化総局(ディリ)に配属され、主に以下の活動に従事。
●住民グループによる竹細工の制作・販売の支援
●伝統工芸品の販売店を紹介する観光客向けマップの作成
●伝統工芸を生かした商品の企画


 平出さんが配属された東ティモール観光省芸術・文化総局は、同国の芸術・文化の発展を目的とする事業を行う機関。同僚たちはそれぞれ「踊り」や「音楽」などの専門性を持っており、それに関連する事業を担当する体制となっていた。そうしたなかで平出さんに求められていた役割は、専門性を持つ同僚がいなかった「手工芸」の分野で、生産者を対象に商品の質向上などを支援することだった。

「販売店マップ」で同僚の関心を引く

任期前半に作成したタイスの販売店マップ

「着任したら、制作技術の指導を熱心に求められることだろう」。そんな淡い期待を抱いて着任した平出さんだったが、現実は違った。国内には、指導対象とすることができそうな手工芸品の生産者グループがいくつもあった。ところが、「予算不足」を理由に、配属先から指導の開始に「待った」がかかったのだ。技術指導の講習などに人に集まってもらう際、現地では主催者が食事を振る舞うことになっており、配属先はその費用が出せないというのだった。
 人間関係ができていないなか、同僚たちは平出さんのことには無関心で、ほかの仕事を与えてはくれない。「マサの仕事は『待つこと』だ」。そんな言葉で突き放されてしまった。
 じっとしていても埒は明かないと考えた平出さんは、「できること」を自力で探し始める。そうして任期の前半に取り組んだことのひとつは、観光客に向けた手工芸品の「販売店マップ」の作成だ。東ティモールの代表的な伝統手工芸は、「タイス」という草木染の綿織物。地域ごとに固有の模様を代々伝えているのが特徴で、その生産者グループがいくつもあった。しかし、同僚たちにタイスの販路について尋ねたところ、その情報が集約されてはいないということがわかった。そこで平出さんは、タイスの生産者グループを回って卸先を聞き出し、販売店マップにまとめることにしたのだった。
 調査が進み、販売店のリストが充実してくると、平出さんは試しにそれを同僚たちに見せてみた。すると、彼らはようやく平出さんに対する関心を持ち始める。リストにまだない販売店の情報を提供してくれたり、現地語の正しい表現を教えてくれたりするようになったのだ。
「販売店マップをつくる」という発想は、それまで配属先にはなかったもの。平出さんが完成させると、その意義を感じた同僚が、観光ホテルや空港などへの配布に付き合ってくれた。そうして、配布先から「こういう資料が欲しかった」といった感想が出ると、同僚は「いい仕事ができたね」と称えてくれるのだった。

竹細工づくりの姿が共感を呼ぶ

ティモール・エイドのメンバー(右端)とともに離島に赴き、住民に竹細工の指導をしたときの様子

「目に見えるもの」をつくり、自分自身の存在をアピールするという方法は、販売店マップ以外にも有効な場面があった。自作の「竹細工」を名刺代わりにしたところ、その指導をするチャンスを与えてもらうことができたのだ。
 平出さんの実家は竹の卸業を営んでおり、派遣前、5年にわたって竹細工を学んでいた。そのため、当初から竹細工づくりの指導をメインの活動にしたいと考えていたが、着任当時、竹細工は現地の人にとって無縁のものだった。そこで、まずは自ら竹細工をつくり、同僚たちにその魅力を知ってもらうことにした。「マサの仕事は『待つこと』だ」と言われていた、任期前半のことである。
 任地を歩き回り、庭先に竹が生えている家を見つけては譲ってもらい、土日に自宅で竹細工のかごなどをつくった。できた作品は配属先に持参。同僚たちに見せると、彼らは販売店マップのときと同様、関心を示してくれた。やがて、上司にあたる芸術・文化総局長からの依頼で、同僚たちを対象に竹細工の技術を教える講習会が実現。「竹細工の専門家」というステータスを配属先のなかで獲得することができたのは、着任して半年ほど経ったころだった。
 自作の竹細工は、販売店マップをつくるためにタイスの生産者グループを回る際にも持参。「私はこういうものがつくれます」とアピールしていると、「つくり方を教えてほしい」とリクエストするグループが現れる。食事を振る舞うことも求められなかったことから、平出さんはそうしたグループを継続的に訪ね、竹細工の指導を行うようになった。
 現地の人たちは植物の葉でかごをつくる技術は持っており、「編む」ことには慣れていた。彼らが手こずったのは、竹を割って薄く剥ぎ、編める状態にする「ひごづくり」だ。その習得でつまずき、継続が難しいグループが続出するなか、その壁を乗り越えて平出さんとの関係を続けてくれたグループが1つだけあった。タイスの古い織り方の復興などに取り組む「ティモール・エイド」という名のNGOだった。
 幸運だったのは、ティモール・エイドの建物が平出さんの家から歩いて2、3分の距離にあったこと。平出さんは任期中、土日に竹細工をつくることを継続したが、ティモール・エイドと出会ってからは、その建物を作業場とさせてもらった。黙々と竹細工づくりに取り組む平出さんに、メンバーは信頼を寄せるようになり、竹細工づくりへの意欲を強めてくれたのだ。
 30人ほどいたメンバーのうち、竹細工に熱心に取り組むようになったのは4、5人。平出さんから基本的な技術をひととおり教わると、インターネットで調べるなどして、平出さんが教えていないデザインのかごをつくるようにもなった。そうしてつくりためたカゴやランプシェード、壁掛けなどの作品の展示会を開催できたのは、平出さんの任期が終盤に入った時期。その場で注文をもらうことができ、平出さんの帰国後も生産・販売が継続されることとなった。現在は、離島の住民に竹細工のつくり方を指導する活動も開始しているという。

竹のかごを編むティモール・エイドのメンバー

平出さんの任期終盤にティモール・エイドが開いた竹細工の展示会で出品されたかごの数々

竹を編んで模様を付けた壁飾り。ティモール・エイドの作品で、人気商品のひとつとなった

Lesson〜平出さんの事例から〜

「手間」をかけた自己表現

周囲から信頼を得るためには、自分の技術や思いを理解してもらうことが不可欠。手間隙をかけて行った調査やつくった物であれば、技術や思いがいっそうわかりやすく伝わる可能性が高いだろう。

知られざるストーリー