“失敗”から学ぶ

マンパワーに徹しすぎ、計画した活動を実行に移す時間を失ってしまった

文=西 泰佑さん(ザンビア・コミュニティ開発・2017年度2次隊)

同僚と実施したマラリアのワークショップ。妊産婦検診や乳幼児検診の締めに健康啓発のワークショップをすることが慣例となっていた。西さんが作成した教材を使用して実施し、「同僚たちがときには例え話や笑いを交えて現地語で話をしてくれました。同僚たちが得意な話題のときには熱が入り、小一時間話をすることもありました」と西さんは話す

 私はザンビアのンポングウェ郡にあるミカタヘルスセンターに初代隊員として配属されました。まずはできることに何でも取り組み、その過程で気づいたことを活動に反映していこうと、活動を始めました。最初に着目したのはヘルスセンターの薬局業務でした。薬局では住民との交流や情報収集が見込まれると考え、それに応じた働く環境づくりのための5S-KAIZEN活動に着手。生産性や患者満足度が向上したことから、この活動は大変評価されましたが、それ以降マンパワーとして日々の薬局業務のすべてをこなすことを求められました。
 薬局での住民との交流で、地域の人々に対する健康啓発の必要性を感じた私は、地域でのワークショップ(WS)開催を同僚に提案しました。しかし、同僚の返事は、「政府やNGOの開催するWSでは軽食や日当の支給が通例であり、その予算がないので住民は集まるわけがない」と反対。日常業務の多忙さや、同僚の仕事を増やすことに申し訳なさを感じ、薬局から出ることはできませんでした。
 配属先で啓発活動は行っていましたが、1年が経過してもなお「もっとできることがあるのに」と葛藤する日々が続きました。そこで、多くの住民の生業である農業をとおして収入向上や健康啓発を行いたいと思い、農家を訪問し、SHEP(*)の導入を試みました。これに対し、同僚から「薬局業務に集中しろ」「外でサボって身勝手だ」などと言われ、理解を得るのが困難でした。わずかな時間を利用し、施設内で個別に健康の啓発活動を続け、同僚に健康に関する住民の課題やその解決策を共有はしていましたが、行動に移せませんでした。
 活動終了まで半年。薬局業務と時間に余裕がでてきたことから、住民生活に身近な養鶏を通して栄養改善や収入向上について考えてもらうため、周辺住民の訪問を再開。ヒヨコの生存率向上を指導したところ、熱心に改善に取り組む住民の姿が見られ、そのことから住民の興味や関心事をとおして成功体験をつくることが、自分の役割だったと痛感しました。
 同僚から仕事を請け負った結果、本来やりたいことをやる時間を失ってしまったことへの反省。もっと活動のビジョンについてしっかり話し合い、理解を得ることが必要だったと思います。

*SHEP…Smallholder Horticulture Empowerment & Promotionの略。小規模園芸農家支援

隊員自身の振り返り

薬局での労務提供で自分の仕事に取り組む姿勢を見せることが、同僚の自発性を向上させると信じ、活動に取り組みましたが、同僚のヘルスセンター外部への視野は広がりませんでした。その状況でも同僚に言われたことを優先してしまったことが、失敗の原因のひとつだったと思います。
私の配属前からヘルスセンターを中心とした母子保健や青少年の健康啓発などのプロジェクトが進んでいました。その取り組みの中で、活動の意義や将来像など地域の目指す姿を同僚と一緒に考え、行動することができていれば、同僚の自発性を促すきっかけになったと思います。そのためにも、私が同僚に訴えるだけではなく、同僚や地域の人たちが地域課題の解決策を話し合える機会をもっとつくれればよかったと思っています。

他隊員の分析

同僚にとっての最善の利益を考える

 配属直後に配属先で取り組むべき課題がすぐに見えたときは、「何かをしなくてはいけない」という焦りを感じてしまいます。しかし、新企画の提案などはもう少し同僚の状況を把握したあとに示したほうがよかったかもしれません。同僚が多忙なときはマンパワーになりながらも、新規プロジェクトが「同僚の収入に直結するか」「同僚のモチベーションや評価になるか」などを見極め、そのうえで新しい取り組みを推奨しつつ、既存のプロジェクトの内容を充実させるための改善策を話し合えればよかったのではないかと思いました。
文=協力隊経験者
●アジア・コミュニティ開発・2015年度派遣
●取り組んだ活動
子どもの虐待防止のプログラムを立ち上げ、冊子を作成。また、その冊子の内容をワークショップ形式で地域コミュニティに広めるために、赤十字の職員やボランティアからファシリテーターを養成するなど、子どもの虐待防止研修プログラムも作成した。

「自分がやりたいこと」を「相手が求めること」に

 できることにどんどん取り組む姿勢は決して間違っていないと思います。しかし同僚からのイメージが固まってしまったため、そこから視野を広げにくくなってしまったかもしれません。計画を実行に移すには、日常から同僚の希望を拾い集め、そこに自分がやりたいことをさりげなく関連させていくことが大事だと考えます。その際、同僚の発案だと思ってもらうことで自発的な行動につながり、実現性が高まります。私の活動では、既存のイベントの成果を上げるための手段として私がやりたかった科学館見学を盛り込み、計画の実現につなげました。
文=協力隊経験者
●アフリカ・理科教育・2015年度派遣
● 取り組んだ活動
首都の小学校で理科の実践的な授業を目的に活動を行った。現地教員と協力して日々の授業にグループ実験を取り入れるとともに、「科学を楽しく」をモットーに科学館見学や校内発表会を企画・実施した。

西さん基礎情報





【PROFILE】
1987年生まれ、福岡県出身。2010年に京都工芸繊維大学工芸科学部生体分子工学課程を卒業後、製薬会社にて約7年間医薬品の営業活動に従事。退職し、17年9月、青年海外協力隊員としてザンビアに赴任。19年9月に帰国。

【活動概要】
ミカタ地域ヘルスセンターにて、同僚やコミュニティボランティアと共に、同センターを中心とした地域住民の生活レベルの底上げのため、主に以下の活動に取り組む。
●住民や同僚と地域の抱える課題の調査
●マラリア対策、下痢予防、母子保健などの推進
●5S-KAIZENなどを使ったヘルスセンターの円滑な運営サポート

知られざるストーリー