活動Q&A集 〜協力隊技術顧問が回答〜

JICA海外協力隊員への技術支援を目的に配置されている技術顧問。派遣中隊員から寄せられた活動に関する相談と、それに対する技術顧問による回答の例をご紹介します。

【回答者】





鶴巻景子さん
●JICA海外協力隊技術顧問(担当分野:小学校教育、教育行政・学校運営)
●元公立小学校長
●東京学芸大学教職大学院 特命教授



Question 1:「数の概念を育てて確かな計算力を育てる指導について」
〜小学校教育隊員より〜

 小学校で算数の指導をしています。子どもたちのなかには、6年生になっても計算をする際に指を使う子、丸を書く子、いつでも1から数える子、意味を理解していない子(「1+3=13」と答える)などがいます。10の合成は比較的できていますが、数の分解については正答率が非常に低い結果でした。どのように指導したらよいでしょうか。

Answer 1:

 工夫しながら、一人一人の学習状況をしっかりと見取って分析していることは、とても素晴らしいです。数の概念を定着し、確かな計算の力をつける指導はとても大切です。

(1)数には、集合数と順序数があります。集合数とは、まとまりとして数をとらえることであり、順序数とは、順番を表す数字です。まず、数字を○やブロックなど半抽象のものに置き換えて、集合数として確実にとらえさせましょう。指は5のかたまりで、両手で10です。これほど優れた教材はありません。始めは、たくさん手を使って数をイメージさせることも大切です。また、○を書いたカードを常に使ってイメージをもたせるのも有効です。計算でつまずく子を見ると、数を順序数でとらえている子がいます。○や棒をずっと書いて並べる子は、7は「7個のかたまり」ではなく、「7番目」という認識なのです。計算の基礎として、集合数として10ずつ書いたカードを活用するとよいでしょう。
(2)次に大事なのは合成・分解です。合成・分解の練習は、毎日行うことがよいです。クイズのように反応させることも大切です。7のカードで「10に足りない分はいくつ?」とか、7は「4と○で7」と尋ねることで、7という数字を合わせたり、分解したりしてとらえられるようになります。これが足し算や引き算の基盤となります。瞬時に応えられたことをたくさんほめてください。
(3)数字は単なる記号ではなく、意味があります。低学年のうちから数や式のほかに、図(○図、線分図、数直線)や言葉であらわす(説明する)ことが効果的です。考える力をつけながら確かな計算力をつけるため、1つの計算を式や筆算だけでなく、図や言葉での説明を合わせて表現させるのです。理解の段階では、式、計算、図、説明を組み合わせて書かせることを繰り返すことで、たくさん練習させるよりも効果的な指導ができます。その際、○や棒を使った図を書かせる場合は、10のかたまりで表すようにします。十進法の計算の基盤です。

 子どもがじっくりと計算に取り組む瞬間をとらえて、よいやり方や説明の仕方などができた時に、確実にその子をほめて価値づけることで、自信がつき、指で数えることから卒業していきます。すぐの効果を期待しすぎないで、ていねいに積み重ねていきましょう。


Question 2:「子どものやる気を引き出していく体育の指導について」
〜小学校教育隊員より〜

 小学校で体育の授業を担当しています。体育はこれまでしっかりとは行われてきていなかったため、任地の先生方に、学校全体で学期ごとに基礎運動、ベースボール型、ネット型、ゴール型を順番に行うことを提案し、進めることになりました。しかし、学年によっては先生が休んでしまったり、やりたくないという子がいたりします。どのように進めていけばよいでしょうか。

Answer 2:

 体育の授業を行う提案ができ、多くの学年で進められていることはとても素晴らしいです。よい活動のスタートができましたね。一方、うまくいかない場合は、多面的に分析した上で、アプローチを変えていくことが大切です。

(1)「急に体育と言われても」という場合、指導計画をこちらから一方的に決めてしまうのではなく、子どもにいくつか運動の選択肢を出して、その中で順番を決めて始めてみることも効果的です。その選択肢の中に、子どもが希望する種目を入れるのもよいです。学年によって差をつけることで、子どもにプライドをもたせることも効果的です。選択をさせるということは、主体的に授業に取り組むきっかけとなります。ただし、すべてを子どもに任せるとうまくいきません。選択肢を教師が出すことが大切です。
(2)実際にやったことがないスポーツに対して、子どもが「やりたくない」と感じる場合は、これまで経験した運動やドッジボールなど、ルールが単純なものから入るとよいです。慣れてきたら、ドッジボールでは柔らかいボールを2個にして、ルールや動きを変化させていきます。みんなで体を動かす楽しさを少し味わってから、計画を進めていくとよいでしょう。意外とベースボール型やネット型のスポーツは、ルールが分かりにくくてやりたくないと思う子どもがいます。そのスポーツのイメージをもたせるため、ネット環境があればビデオを見させることも有効です。
(3)みんなで運動をやることを子どもが嫌う場合は、個人の競技から入ることもよいです。陸上競技(幅跳び、50メートル走、400メートル走、ハードル走など)の記録をとることで、記録を伸ばして楽しさを感じていくことも大切です。年間計画の中に、チームばかりでなく、個人種目も取り入れることで、体育の授業が広がっていきます。

 大事なことは、子どもの気持ちや行動の分析をしっかりとし、受け止めることからじっくりとスタートすることです。体育の授業では、ビデオでのイメージ作りもよいです。よい動きをした授業は、ビデオで紹介するとよいです。

協力隊成果品 Pick Up 〜学校教育分野〜

JICA海外協力隊員が作成する成果品については、その共有・活用の促進を目的に、JICA青年海外協力隊事務局が「協力隊成果品」として登録・保管する制度を設けています。成果品の登録・活用を希望する場合は、在外事務所にご相談下さい。






『EDUCATIONAL BOOK 紙芝居』

作者:パプアニューギニアの小学校教育隊員
内容:啓発活動に使う紙芝居教材のシリーズ。「道徳」「健康」「授業態度」「環境」「ジェンダー」の5テーマのものがある。
形態:PDFファイル・英語とピジン語

[分野に関連する他の登録例]

●『ENSEIGNEMENT DES ACTIVITES PRATIQUES DE L'EDUCATION D'EVEIL』
音楽・図工・体育の一般的な解説やアクティビティーの例をまとめた教員向け資料(PDFファイル・フランス語/作=モロッコの小学校教育隊員)。

●『PE demonstration video in Maldives』
体育授業のアクティビティーを紹介する教員向け動画資料(DVD・英語/作=モルディブの体育隊員)。

●『La petite clé』
現地教員による算数や技能教科の授業の優良事例や教材例、指導案例などを集めた教員向け資料(PDFファイル・フランス語/作=ブルキナファソの小学校教育隊員)。

知られざるストーリー