“失敗”から学ぶ

「現地の人と一緒にやらなくては意味がない」と思い込みすぎてしまった

文=大塚歩美さん(ペルー・栄養士・2017年度3次隊)

野菜を食べる習慣がないため、野菜を身近に感じてもらえるように「野菜を使ったスイーツづくり教室」を開催する大塚さん(左から2人目)。現地の人は甘いものが好きな人が多いため、野菜への入り口として好きなものを組み合わせることでより興味を持ってもらうことができた

 私は新規派遣の栄養士隊員として、町で唯一の医療機関である保健センターに派遣された。配属先責任者をカウンターパート(CP)として紹介してもらったものの、責任者は多忙で、業務を一緒に行うことはなかった。小さな町なので患者も少なく、往診や集団指導も行っていたが、持て余す時間が多かった。
 配属先には5年以上前から現地栄養士がいないため、私を栄養士の補充と捉えていたようで、責任者は具体的な栄養士業務を把握しておらず業務内容は丸投げだった。要請内容と現状は異なる場合があるという話は聞いていたのである程度の覚悟はしていたが、実際その状況になると孤独感と焦りでいっぱいになった。
 私は業務について配属先と話し合いを行い、ペルーでの栄養指導の現状把握や情報収集に努めるべきだと考え、他施設で現地栄養士の栄養指導を見学させてほしいと交渉。しかし、栄養に関する活動を自ら発案し、進めることはしなかった。
 半年後にようやく見学が実現でき、現地に合わせた栄養指導を配属先でも実行できるようになったが、配属先が私の活動に特に興味を持っている様子を感じることはできなかった。また、CPは多忙で現地栄養士も不在のため、栄養指導の知識を伝達する相手がいない。「現地の人と一緒にやらなくては意味がない」と思っていたので、配属先と活動について話し合いを重ねたが、理解を得られず時間だけが経過した。
 そこでようやく、自分の固定観念「現地の人と一緒に……」が活動の障害になっていること、また配属先の人の関心を得るには私自身が行動で示すことが重要だと気づいた。状況に合わせた計画を立てるため、こだわりの気持ちを一旦置き、1人でも積極的にコミュニティで集団栄養指導を実施するようにしていった。
 そうすると他地域からも声をかけてもらえるようになり、多くの人々に栄養の知識を伝達する機会へつながった。また私の活動を見ていた職員が「自分でも指導したいからデータが欲しい」と栄養指導に興味を持ってくれるようになった。その職員に私の指導を見てもらい、学んでもらう。そして栄養指導用の資料などを作成し、誰でも簡単に指導できるようにした。1年が経過したころには、住民の栄養への理解も深まっていった。

隊員自身の振り返り

 自身の固定概念に縛られ、いつの間にか受け身な体制になってしまっていた。1人で活動をもっと早く始められていたら、また、現地栄養士による栄養指導の見学を配属先任せにするのではなく自身で動くことができていたら、より早い段階で要請内容にある活動を実現できたかもしれない。この失敗経験をもとに、次の1年の活動計画の際は、再度現地の課題を洗い出し、食育に重点を置く活動を計画。活動先は配属先の管轄外だったが、配属先職員だけで栄養指導をできるようになっていたため、思い切って活動先を変更した。ありがたいことに活動は軌道に乗った。配属先にて成果を挙げるべきだと思っていたが、それが一概に正解とは限らない。実行できるステージを考えることもまたひとつの選択肢であったことを、思い切って活動先を変更したことで実感した。

他隊員の分析

配属先との関係構築を優先してみては?

 現地の人たちと一緒に活動するのに十分な人間関係をもっと構築してもよかったのかもしれないと思いました。限られた時間の中で焦るのもわかりますが、活動よりも周りとの関係をきちんとつくってから行動に移すと意外とスムーズに進むこともあります。私も同じように配属先に共に活動するCPと呼べる人がいなくて苦労しましたが、キーパーソンになってくれる人を複数見つけ、少しずつ関係構築をしていきながら活動を進めていきました。そのおかげで配属先だけでなく、広いフィールドで活動できたと思います。
文=協力隊経験者
●アフリカ・栄養士・2016年度派遣
●取り組んだ活動
県病院の栄養改善部門に配属。栄養改善指導のための指導媒体やクッキングデモなどを行い、栄養失調の子どもたちや地域住民の栄養改善に従事。

活動を通して協働できる人を探してみる

 初期段階で隊員に対する配属先の要求の違いなどから、思い描いていた100パーセントの出発ができない隊員もいると思います。そんなときは何か小さな活動から始めても良いのではないでしょうか。それを同僚が見て今後の活動が好転したり、協働してくれる人を見つけ出すことにつながったりすると思います。私の場合、CPが高役職者で実務的な協働ができなかった代わりに、視点を変え、彼の認知度を生かして地域のリーダーなどの組織に仲介してもらい、その活動を通して出会った役所の女性課職員や保健師と協働し、活動を広げることができました。
文=協力隊経験者
●中南米・栄養士・2016年度派遣
● 取り組んだ活動
教育省教育事務所に配属され、小学校で支給される軽食メニューの改善と児童に食育教育、地域の女性に対しバランスの整った食事づくりの講話やその料理教室、さらに米国平和部隊(ピースコー)と共同し、保健支所で妊産婦に対する栄養教室などを実施した。

大塚さん基礎情報





【PROFILE】
1991年生まれ、京都府出身。2014年神奈川県の管理栄養士課程の大学卒業後、管理栄養士として京都府と神奈川県の総合病院にて栄養指導や臨床栄養分野の業務に従事。18年1月に青年海外協力隊員としてペルーに赴任。20年1月に帰国。

【活動概要】
地域唯一の保健センターにて、地域住民の栄養調査ならびに衛生・栄養改善や疾患予防として主に以下の活動に取り組む。
●児童学童施設にて給食メニューの改善と食育活動
●コミュニティや教育施設にて軽食メニュー改善と集団栄養教室の実施等の活動
●NGO団体Cedepと栄養に関するパンフレット作成 (成果品登録) など

知られざるストーリー