希少職種図鑑 [化学・応用化学]

職種概要

派遣中:2人
累計:121人
分類:鉱工業
活動例:研究施設などでの化学分野の研究や分析操作についての支援
類似職種:バイオテクノロジー など

※人数は、2020年3月31日現在。

話=松澤貞夫さん(シニア海外ボランティア/ベトナム・2017年度2次隊)

Q メインの活動は?

液体クロマトグラフ/質量分析装置で分析を行う松澤さんとスタッフ。配属先のラボスタッフは35〜40人で、多くが20代、センター長は40歳だった。半数は英会話ができなかったが、2年目には皆と片言の英語で仲良くなることができた

 配属先では「食の安全」の確保のため1台数千万円もする分析機器を数台導入したが、スタッフの分析技術の経験不足のため生かされていない状況でした。このため、食品中の微量有害化学物質(*1)を分析できるようにするということが主な活動でした。
 赴任後、配属先から分析希望物質が10種類ほど提示されましたが、ほとんどが標準物質(*2)の手持ちがないものでした。薬品リストを調べると、カビ毒の1グループであるアフラトキシン混合物(*3・4)の記載があり、運よくそれが冷凍庫の片隅から見つかりました。アフラトキシン分析に利用可能な機器はLC/MS(*5)。ラボには自身も使ったことがない米国製のものがありましたが、スタッフたちも初心者。結局、装置を使いこなすまでに約1年かかりました。また、微量分析(*6)では、サンプルの前処理(*7)が機器の操作と同じ位重要です。そこで、LC/MSの習熟と同時並行で、ペットボトル飲料水とビール麦をサンプルとして、アフラトキシン分析のための前処理法についても指導しました。

*1 微量有害化学物質…本来は食品などの成分ではなく、どこかの過程で外部から混入するか生成される化学物質。
*2 標準物質…分析を行う際に用いる基準となる物質。
*3 アフラトキシン…天然物質の中で最も発がん性が強いカビ毒。
*4 アフラトキシン混合物…アフラトキシンには種類があり、数種類を混ぜた標準液 (標準物質)。
*5 LC/MS…液体クロマトグラフ/質量分析装置。微量分析を得意とする装置。
*6 微量分析…含有量のきわめて少ない成分の分析。
*7 サンプルの前処理…分析信頼性の向上などのために、分析を妨害する物質を除去したり、濃縮したりすること。

Q 活動の最大の困難は?

 配属先では、数千万円もする分析装置を購入した一方で、サンプルの前処理に利用する小型装置や検査用の消耗品など、実験で不可欠でかつ比較的低価格な物品の購入が困難でした。また、装置に不具合が生じたときの修理や点検についても、予算の関係ですぐに業者に連絡することができませんでした。予算不足とスタッフ及び管理職のメンテナンスの必要性に対する認識が足りず、長期間待つことになりました。

Q どう対応しましたか?

 サンプルの前処理に利用する装置に関しては、一部材料を探し集めて自作。また、消耗品は消費期限切れの物が冷凍庫や実験台下に存在していることがわかり、使えるものを用いました。何点かは無理を言って購入をしてもらいましたが、入手に3カ月もかかりました。装置のメンテナンスの必要性に関しては、幾度となくスタッフや管理職に説くとともに、最終的にはセンター長の許可を得て、自ら分析感度に影響する重要部品のメンテナンス作業をしてスタッフに手本を示しました。

Q 派遣予定の同職種の隊員にメッセージをお願いします。

 現地の人と一緒に働けることは非常に楽しいですが、相手に不快を与えたり言い合いをしたりすることを極力抑えながら問題点を指摘することは想像以上に難しいことです。世界の人たちの誰にでもプライドがあり、それを傷つけられるのを非常に嫌います。皆さんもぜひ現地の人とより良い関係をつくる方法を探ってみてください。

松澤さん基礎情報





【PROFILE】
1949年生まれ、埼玉県出身。68年、旧通産省の研究所に技官として入所し、主にエネルギーと環境に関する業務に従事。東京理科大学理学部化学科 (夜間部)を73年に卒業。90年に工学博士。2009年から財団法人日本品質保証機構で地球環境CDM審査業務に従事。13年からシニア海外ボランティア (化学・応用化学)としてパラグアイ (長期)、ミャンマー (短期)、ベトナム (長期)に赴任。19年10月にベトナムから帰国。現在、つくばエキスポセンターでボランティアインストラクターをしている。

【活動概要】
ベトナム科学技術アカデミー、研究・技術移転センターにて、「食の安全」の確保に対応できるようにするため、以下の活動を行う。
●食品分析に関して分析技術の向上支援
●ラボの運営管理能力の向上支援
●若手スタッフの人材の育成
●国内・国外の他機関との連携促進 など

※派遣名称は派遣当時のものです。

知られざるストーリー