『青年海外協力隊は何をもたらしたか
〜開発協力とグローバル人材育成50年の成果〜』

話=岡部恭宜さん(編著者)





『青年海外協力隊は何をもたらしたか
〜開発協力とグローバル人材育成50年の成果〜』
編著者:岡部恭宜
発行:ミネルヴァ書房、2018年5月
定価:4500円(税別)
JICA研究所の研究プロジェクトの成果をまとめた書。制度・組織や歴史に関する「マクロの視点」からの分析、隊員への意識調査や現地調査にもとづいた、事業の成果に関する「ミクロの視点」からの分析、他国の国際ボランティア派遣事業との類似性や相違性に関する「比較の視点」からの分析で構成される。著者は執筆順に、岡部恭宜、土橋喜人、山田浩司、藤掛洋子、黒木豪、細野昭雄、市川彰、上田直子、金子洋三、馬場卓也、下田旭美、辻康子、白鳥佐紀子、須田一哉、関根久雄、佐藤峰、上山美香、河内久実子、松本節子、三次啓都の20人。2019年国際開発学会賞(特別賞)を受賞。




[PROFILE]
■岡部恭宜
1966年生まれ。東北大学大学院法学研究科教授、JICA緒方貞子平和開発研究所客員研究員。同志社大学法学部卒、東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了(博士〈学術〉)。外務省職員、東京大学社会科学研究所助教、JICA研究所主任研究員などを経て現職。青年海外協力隊に関するJICA緒方貞子平和開発研究所の研究プロジェクト「青年海外協力隊の学際的研究」「国際ボランティアが途上国にもたらす変化とグローバル市民社会の形成」で主査を務める。主著に“Japan Overseas Cooperation Volunteers : Its Genesis and Development”(Japan’s Development Assistance : Foreign Aid and the Post-2015 Agenda〈Palgrave Macmillan、2015年〉所収)、“What Motivates Japan’s International Volunteers?” (VOLUNTAS 30(5)、2019年、白鳥佐紀子・須田一哉との共著)。


協力隊員の6つの類型

——本書を出された経緯をお教えください。
岡部 JICA研究所(現・JICA緒方貞子平和開発研究所)の研究チームが2011〜16年に行った協力隊事業に関する研究プロジェクト「青年海外協力隊の学際的研究」の成果をまとめたのが本書です。プロジェクトの主査を務めていた私が編者となり、チームのメンバーがそれぞれ担当した研究について執筆しています。タイトルを『協力隊は何をもたらしたか』としていますが、「協力隊事業は『もたらすもの』が多い」ということを学問的な手法で実証しているのが、本プロジェクトであり、本書です。プロジェクトの成果を英文のワーキングペーパーにまとめることは、規定の業務として行ってきたのですが、協力隊事業に関心が高い人は国内に多いだろうということで、日本語書籍を出すことになりました。

——どのような特徴を持つプロジェクトだったのでしょうか。
岡部 チームのメンバーの学問分野がさまざまである点を生かすため、それぞれが自分の専門性にもとづく視点で研究を進めた点が、特徴の1つです。その結果、「歴史や制度」「開発協力の成果」「人材育成の成果」「他国の国際ボランティア派遣事業との比較」など、バランスがとれた諸研究で構成することができたと感じています。
 もう1つの特徴として挙げられるのは、協力隊員を対象とした意識調査を前例のない規模で行い、それを活用している点です。質問紙やウェブサイト回答により、約1500人の協力隊員から「派遣前」「派遣中」「帰国後」という3つの時点で回答をいただくことができました。質問は多岐にわたりますが、読者に特に関心を持っていただけそうなのは、協力隊員の考え方や価値観などに関するものです。「協力隊への参加動機」について聞く選択式質問のほか、利他主義的か利己主義的かを見るために、「宝くじで100万円が当たったら何に使うか」を尋ねたり、途上国のイメージについて、「いつまでも成長しない国」「救済・介入・援助の相手」「互いに学びあう平等な相手」などから選んでもらったりするといった工夫もしています。

——そのような、言わば「人物像」に迫る質問から、どのような分析結果を導き出すことができたのでしょうか。
岡部 本書の第Ⅲ部に収められている研究では、協力隊員の人物像が6つの類型に分けられることを明らかにしました。主に「将来のキャリアアップにつなげたい」という動機で協力隊に参加する「ビジネス志向型」、あるいは主に「人の役に立ちたい」という動機で協力隊に参加する「慈善志向型」といった類型です。国際ボランティアの参加動機に関する研究は、これまでは欧米の例がほとんどであって、アジアの例を扱う研究として貴重であることから、本書の論文はその後改訂されて、国際的な学術雑誌に掲載されました。


現地の開発への寄与

——「現地に活動の成果を残すことができなかった」と感じながら帰国する協力隊員も少なくないかと思います。一方、本書の第Ⅱ部では、協力隊事業が現地の社会的・経済的な開発に貢献できていることを明らかにした研究が収められており、協力隊員がそれを読めば、自分たちの活動の意義にあらためて気づくことができるのではないかと思いました。
岡部 米国の平和部隊など、各国の国際ボランティア派遣団体の関係者が集まり、それぞれの知見を共有する「国際ボランティア会議(IVCO)」が、毎年1回開かれているのですが、そこで議論されるテーマの中心は、「国際ボランティアの派遣事業は、どうすれば開発協力の成果を上げることができるか」です。そうした海外の潮流への意識も、私たちのプロジェクトで「開発協力の成果」に関する研究に力を入れた理由の1つです。
 本書のもとになっている研究プロジェクトが終了した後、もとのメンバーの一部に新たなメンバーを加えたチームにより、後継の研究プロジェクト「国際ボランティアが途上国にもたらす変化とグローバル市民社会の形成」を行いました。そこでは、協力隊事業の「開発協力の成果」を中心に据えて、このテーマをより深めようとしました。

——協力隊事業の「開発協力の成果」について、本書では「キャパシティ・ディベロップメント」(以下、CD)と「ソーシャル・キャピタル」(以下、SC)という2つの概念を使った説明がなされています。その研究成果を、協力隊員は自分たちの活動にどのように結びつけ、生かすことができるとお考えでしょうか。
岡部 CDは、「個人や組織、社会などの複数のレベルの総体として課題対処能力が向上するプロセス」と定義される概念です。SCは、「社会関係資本」と訳される概念で、「信頼関係」や「ネットワーク」、「互酬性の規範」を特徴とし、社会の中で人々の協調行動を促すことで開発の効果を高めるものを指します。本書の第Ⅱ部に掲載されている研究では、協力隊員の活動が現地のCDやSCの増加に貢献し得ることを実証しています。
 しかし、個々の開発プロジェクトや課題においては、この2つはあくまで「最初のステップ」であり、最終目標ではありません。例えば、現地の教員や学校のCDがステップとなって「算数教育の質の向上」が実現したというようなケースでは、「算数教育の質の向上」が最終目標です。したがって、CDやSCという理論的、抽象的な概念が、その先の最終目標の実現にどのように結びつくのかという点が重要になります。
 協力隊員の方々には、この点を頭に置きながら本書を読んでいただくのが良いのではないでしょうか。例えば、第4章は、協力隊員が媒介となって現地のCDを促進し、算数教育の質の向上や、現地でかつて盛んだった藍産業の再興などの最終目標を実現したことを論じていますし、第5章は、協力隊員の活動で増加したSCが、いかにして「感染症対策の改善」という最終目標につながったかを分析しています。これらの章に目を通していただければ、CDやSCと実際の活動との関係を考えるうえで、何かしらのヒントが得られるだろうと思います。

——今後、協力隊事業に関する同種の研究を続けていく予定などはあるのでしょうか。
岡部 私自身は、今後も協力隊研究に取り組んでいきたいと考えています。そのため、協力隊経験者の方々に本書を手に取っていただき、それぞれの実体験を踏まえてどのようにお感じになったか、疑問や批判などを含めてご感想を伺うことができれば、大変うれしく思います(※)。いただいたコメントは、今後の研究に生かしていきます。

※ 本書へのコメントは『クロスロード』編集室(crossroads@sojocv.or.jp)宛てにメールでお寄せください。

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