『賞味期限のウソ
〜食品ロスはなぜ生まれるのか〜』ほか

話=井出留美さん(著者・監修者)

『賞味期限のウソ
〜食品ロスはなぜ生まれるのか〜』
著者:井出留美
発行:幻冬舎、2016年10月
定価:780円(税別)
※電子版あり

多くの食品の賞味期限は、実際より2割以上短く設定されている。それでも、設定された賞味期限が正しいことを前提に、小売店は期限より前に商品を棚から撤去して捨て、消費者も期限を過ぎた食品を使わずに捨てる。本書は、「賞味期限」のからくりによって食品ロスが生じるそうした現状を、わかりやすく解説する。

『「食品ロス」をなくしたら1か月5,000円の得!』
著者:井出留美
発行:マガジンハウス、2019年6月
定価:1000円(税別)
※電子版あり

家庭で食品ロスを減らす工夫をすれば、家計の「ロス」も減らすことができる——。本書は、家庭で食品ロスを減らせる「買い物」や「保存」などの65のワザを紹介。「余分なものを買うのを避けるため、食品の買い物は食後に行く」「長ネギは日持ちしない緑の部分から先に使う」など、すぐに生活に取り入れることができるワザばかりだ。

『〜図解早分かり!〜
今こそ知りたい「賞味期限」の新常識』
監修:井出留美
発行:宝島社、2019年9月
定価:1000円(税別)

「消費期限」や「賞味期限」について正しい知識を持っていれば、食品ロスを減らすことができる。本書は、「野菜」や「缶詰・調味料」など7種の100にのぼる食品について、消費期限や賞味期限がどのように設定されているのか、安全においしく食べるための「買うタイミング」や「保存の仕方」などについて解説する。

『〜なぜ多い? どうすれば減らせる?〜
食品ロスの大研究
(楽しい調べ学習シリーズ)』
監修:井出留美
発行:PHP研究所、2019年10月
定価:3200円(税別)

食品ロスの現状と原因をわかりやすく解説し、それを減らすためになされているさまざまな取り組みの事例を紹介する。「日本の食料自給率」や「先進国と途上国の関係」など、食品に関するマクロレベルの問題についてもわかりやすく解説されており、子どもから大人までが「食」について学べる教材となっている。

[PROFILE]
■井出留美
食品ロス問題ジャーナリスト。株式会社office 3.11代表取締役。青年海外協力隊経験者(フィリピン・食品加工・1994年度1次隊)。奈良女子大学家政学部食物学科卒。女子栄養大学大学院で修士号(栄養学)と博士号(栄養学)を、東京大学大学院で修士号(農学)を取得。ライオン(株)、協力隊、日本ケロッグ(株)の広報室長などを経て現職。協力隊時代は、任地で採れる「モロヘイヤ」を使った商品の製造・販売の支援などに携わる。食品ロス問題を全国的に注目されるレベルまで引き上げたとして、2018年に第2回食生活ジャーナリスト大賞(「食文化」部門)とYahoo!ニュース個人「オーサーアワード2018」を受賞。


——協力隊で培った力を、帰国後、日本や世界の課題の解決に生かしたいと考える協力隊員も少なくないでしょう。まだ食べられる食品が廃棄されてしまう「食品ロス」の問題は、SDGsにも明記された社会課題であり、その解決への動きを日本で牽引する井出さんのお仕事は、協力隊員が帰国後の社会課題へのかかわり方を考えるうえで、学ぶことが多いと思います。「食品ロス」への取り組みを仕事とされたきっかけは何だったのでしょうか。
井出 初めて食品ロスの問題にかかわり、関心を持ち始めたのは2008年です。当時勤めていた食品メーカーで、まだ食べられるけれども流通に乗せることができない自社製品を、日本のフードバンク(*1)に寄贈する業務を担当しました。食品ロスを専門とするジャーナリストとして独り立ちしたのはその3年後で、きっかけは東日本大震災の被災地支援に携わった経験でした。震災の発生直後、勤務先の商品を支援物資として被災地に届ける活動に携わったのですが、支援物資の食品が被災者に配られないまま積み置かれ、やがて傷んで食べられなくなってしまうという食品ロスの発生現場を何度も目にしました。配らずにおく理由は、「個数が避難者の人数に少し足りないので、公平を期することができない」など納得できないものでした。それまで勤務先の広報担当として10年あまりにわたって「文章を書いて情報を伝える」という仕事の経験を積んでいたこともあり、これを機に新たな道に進もうと思い立ったのでした。

——食品ロスに関する最初の著書である『賞味期限のウソ』を出された経緯をお教えください。
井出 ジャーナリストとなった当初は、主にマスメディアへの出演・寄稿や講演によって情報を発信していました。けれども、マスメディアでの発信は1度に伝えられる情報の量に限りがありますし、講演での発信は1度に伝えられる人の数に限りがある。そうして、新たな情報発信の方法として「本」を出したいと考えるようになり、本づくりについて学べる半年間の講座に通いました。その修了時に、受講者がそれぞれ自作の出版企画を編集者たちにプレゼンする機会が与えられ、そこで私がプレゼンしたのが『賞味期限のウソ』の企画です。4、5社が「出版したい」と手を挙げてくださり、その中の1社から出版していただくことができました。

——現在はウェブでの情報発信にも力を入れていらっしゃいます。
井出 『賞味期限のウソ』は5回増刷していただけるほどの反響があったのですが、やはり本を読む人は減る一方ですから、その後、ウェブで発信する道も探るようになりました。私が現在も寄稿を続けている「Yahoo!ニュース個人」(*2)を紹介してくださったのは、『賞味期限のウソ』の担当編集者の方でした。執筆陣に加えていただくためには、過去の著作などによる審査を受けなければならないのですが、それに合格し、17年から週に3本程度のペースで寄稿しています。

——19年には著書と監修書を合わせて3冊も出されています。
井出 私自身が執筆した『「食品ロス」をなくしたら1か月5、000円の得!』は、知り合いの編集者と一緒に練り上げた企画が実現したものです。2冊の監修書のほうは、出版社からご依頼をいただきました。19年は「食品ロス削減推進法」(*3)が施行された年であり、それが出版の背景にあったようです。この法律には私もかかわりがあります。私が発信していることに国会議員の方が注目してくださり、食品ロスの削減に向けた啓発活動をその方と一緒に行うようになったのですが、この法律はその方が旗振り役となって成立に至ったものです。私は、事前に国会議員や関係省庁の職員にこの法律の意義に関する説明をする機会も与えていただきました。

*1 フードバンク…まだ食べられるけれども流通に乗せることができない食品を、必要とする人に届ける活動を行う団体。
*2 Yahoo!ニュース個人…さまざまな分野の専門家が、それぞれの分野に関する意見や提案を寄稿するコーナー。(井出さんの記事)
*3 食品ロス削減推進法…正式名称は「食品ロスの削減の推進に関する法律」。食品ロスの削減を総合的に推進することを目的に、国や地方自治体などの責務などを明らかにし、その施策の基本となる事項を定めている。


相手をおもんばかる姿勢

——ジャーナリストとして読み手を獲得し、情報発信の機会を確保し続けることができている要因はどこにあると感じていますか。
井出 「伝えたいこと」を一方的に発信するのではなく、「読み手が知りたいこと」が何かを考え、それを踏まえた発信をするよう努めている点ではないかと思います。「読み手が知りたいこと」は「伝えたいこと」と必ずしもイコールではなく、前者でなければ書いたものを読んでもらえないからです。例えば、『「食品ロス」をなくしたら1か月5、000円の得!』の企画は、食品ロスといっても多くの人はまだ関心が薄いだろうけれども、食品ロスの削減につながる消費者の行動が、実は消費者自身の損得にもつながっているとなれば、それを知りたい人は多いだろうと考えてまとめたものでした。
「相手をおもんばかって行動する」というこの姿勢は、協力隊経験を通じて体得できたものかもしれません。「現地の人を助けてあげよう」という「上から目線」で赴任したものの、現地の言葉もすぐには十分に話せず、現地の人たちとのネットワークも最初はないなか、彼らに助けてもらわなければ活動は何も始まりません。そうして、まずは彼らと人間関係を築こうと、目線を同じくし、彼らの置かれた状況や考えを理解しようと努めているうちに、活動が回り始める。そうした経験でおのずと「相手をおもんばかる姿勢」が鍛えられたのだと思います。

——最後に、同じ「食品ロス」を扱った4冊の著書と監修書について、それぞれの違いを教えていただけますでしょうか。
井出 『賞味期限のウソ』は、食品の「賞味期限」は実は短めに設定されているというメッセージを伝えている本です。「この食品はまだ安全においしく食べられるか」を自分で判断できるようになりたいうという方に参考にしていただけるのではないかと思います。『「食品ロス」をなくしたら1か月5、000円の得!』は、まずは目次を眺めてください。さまざまな食品について、買ったり保存したりする方法をどのように変えれば、自分にとってどれくらいの損得があり、同時に食品ロスの削減にもなるかを列挙しています。そのなかで興味を持った食品のページから読み進めていただくというのが良いかと思います。『今こそ知りたい「賞味期限」の新常識』は、さまざまな食品について、「消費期限」や「賞味期限」の設定の理由、保存のコツなどが百科事典風にまとめられています。気になる食品があったときに随時参照していただくという使い方ができると思います。『食品ロスの大研究』は子ども向けに食品ロスの問題を説く教材ですが、食品の流通の実態など、大人でも知らないような情報が紹介されているので、食品ロスについて理解を深めたいという大人の方にとっても、手ごろな入門書になるのではないかと思います。

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