工程などを伝える教材を使い、
「かまどづくり」を普及

大渕由貴さん(マダガスカル・コミュニティ開発・ 2017年度2次隊)の事例

農村開発などを所管する行政機関に配属された大渕さん。「生活改善」のイメージを持ってもらうために力を入れた「かまどづくり」の普及活動では、かまどの利点や製作工程、種類などを示す教材を活用した。

大渕さん基礎情報





【PROFILE】
1988年生まれ、東京都出身。大学卒業後、電機メーカーで電源システムの国内営業に5年間従事。2017年6月、青年海外協力隊員としてマダガスカルに赴任(現職参加)。19年9月に帰国し、同年11月に復職。現在は電源システムの海外企画業務に従事。

【活動概要】
マダガスカル農業・畜産省の地方出先機関であるアナラマンガ県農業・畜産局(アンズズルベ郡アンズズルベ市)に配属され、農村部の住民を対象に主に以下の活動に従事。
●生活改善支援(かまどづくりの普及など)
●収入向上支援(ケーキの販売支援など)

講習会の受講者がつくったかまどの例。囲いの内側に鍋を載せる出っ張りを付けたタイプの改良版


 農業振興や農村開発などを所管する省庁の地方出先機関に配属された大渕さん。農村住民の生活改善や収入向上を支援するさまざまな活動に取り組んだが、なかでも力を入れたのは「かまどづくり」を普及させることだ。
 大渕さんは着任すると、3カ月ほどかけて農村を回り、住民の生活の様子や課題をリサーチ。任地の家庭では当時、細い鉄の棒でつくられた3脚の台に鍋を載せ、薪の火で煮炊きするのが一般的だった。火の囲いがないこの設備に比べ、かまどははるかに熱効率が良く、薪の消費量も調理時間も少なくて済む。大渕さんは、かまどにあるそうしたわかりやすい利点を住民たちに実感してもらえば、さらなる「生活改善」の実践へと進んでもらえるだろうと考えたのだった。



現地の人に伝わる表現

かまどのつくり方を伝えるポスター教材。講習会の際に会場に貼り出した

かまどづくりの講習会の後、貼り出しておいたポスター教材の前に集まって、製作工程に関する記載をメモする受講者たち

 大渕さんが村々を回ってかまどづくりの講習会を開くようになったのは、着任の約半年後。「れんが」を使うかまどの方が耐久性は高いが、れんがづくりは手間がかかるため、それを使わないかまどのつくり方を紹介した。材料は粘土や灰、わらなど、任地の住民が容易に手に入れることができるものだ。
 当初は1回の受講者が5、6人だったため、受講者ひとりひとりの理解を確かめながら、「口頭の説明」と「実演」の組み合わせだけで講習会を行った。しかし、学校に依頼して保護者に声をかけてもらうなど、受講者集めのテコ入れを図り、毎回数十人が集まるようになると、受講者ひとりひとりをフォローしながら進めることが難しくなった。そこで導入することにしたのは、写真を使ってかまどづくりの要点を示したポスター形式の教材だ。
 その作成で協力を仰いだのは、マダガスカル語の家庭教師をお願いしていた高校の国語教員(以下、Aさん)だ。マダガスカル語の原稿につき添削を依頼すると、「自分も実際にかまどをつくってみたい」と願い出てくれたため、実践。するとAさんは、その実体験をもとに、「材料の混ぜ具合」など言葉で表現するのが難しい事柄について、「ここの人々は『レンガづくり』の要領ならわかるので、それと比較しながら説明すれば伝わりやすいはず」といったアドバイスをしてくれたのだった。
 そうして作成したポスター教材は、講習会の際に会場に掲示。すると、終了後に受講者がその前に集まり、メモを取る姿が見られるようになった。

「カタログ」で各種の特徴を紹介

大渕さんが開発した4種のかまどを紹介するカタログ

 大渕さんが当初紹介したかまどは、火の囲いの内側に鍋を載せる拍子木のような出っ張りを3つ付けた形態のもの。「軽いので設置が楽」といったメリットがある一方、出っ張りが取れやすいという欠点もあった。そこで大渕さんは、講習会の開催を進めるかたわら、形態の改良に着手。そうして、講習会を開始して半年ほど経つころまでに、「つくりやすさ」や「耐久性」の程度などでそれぞれ特徴が異なる3つの新たなタイプのかまどを開発した。
 以後の講習会では、当初のものを含めた4タイプについて事前に受講者の代表に説明し、好みの1つを選んでもらったうえで、そのつくり方を教えることにした。各タイプの特徴を伝える際に活用した教材は、自作の「カタログ」だ。分量はA4判の用紙2ページ。以下の要素で各タイプを解説した。
■写真 「前面から」「上部から」「鍋を置いた状態で」の3種の撮り方をした写真を掲載。
■採点表 「つくりやすさ」「耐久性」「運びやすさ(設置のしやすさ)」を星の数で表現。
■ひと口メモ 特長や難点を簡潔な文章で表現。
 このカタログは、各タイプの違いをイメージしてもらうのに有効だったようで、これを見た受講者の代表たちは、困惑することなく好みのタイプを選択。大渕さんにとって意外だったのは、「見た目の良さ」を理由に、前面に囲いがあるタイプに人気が集中したことだ。自分たちのお気に入りのかまどであれば、製作意欲も湧くようで、講習会後にかまどづくりを実践する受講者の割合も増加していった。
 以上のように、ポスターやカタログを活用しながら大渕さんが任期中に講習会を行ったのは12の村。受講者は延べ150人ほどに上った。受講後に十数人の住民がかまどづくりを実践した村もあるなど、普及は進み、受講者のなかには、自作する時間がない住民からかまどづくりを有料で請け負う商売を始めた人もいた。

知られざるストーリー