自分が行う治療を写真や動画で記録し続け、
教材として活用

三田村 徳さん(フィジー・理学療法士・2017年度1次隊)の事例

フィジー唯一のリハビリ専門病院に派遣された三田村さん。現地の理学療法士に技術を伝えるうえで効果的な教材となったのは、自身が行う治療の様子を収めた写真や動画だった。

三田村さん基礎情報





【PROFILE】
1987年生まれ、宮城県出身。東北文化学園大学を卒業後、理学療法士として(公財)宮城厚生協会泉病院に勤務。2017年6月、青年海外協力隊員としてフィジーに赴任。19年6月に帰国。現在は理学療法士として東北医科薬科大学病院に勤務。(一社)宮城県理学療法士会若手理学療法士活躍推進委員会委員、宮城青年海外協力協会理事。

【活動概要】
首都スバにある国立リハビリテーション病院に配属され、主に以下の活動に従事。
●外来患者や入院患者への治療の実施
●配属先内外での勉強会・研修会の実施
●国内全土を巡回しての訪問リハビリの実施


 三田村さんの配属先は、フィジー唯一のリハビリ専門病院。外来患者と入院患者を対象に、治療やリハビリが行われていた。病床数は20床。患者は脳卒中(*)や脊髄損傷、下肢切断が中心だ。国内にはほかにもリハビリを行う病院はあったが、病院が認める入院期間は1、2週間。在宅での生活が可能になるまでに数週間から数カ月にわたるリハビリが必要な患者は、三田村さんの配属先がそれを一手に引き受けていた。
 フィジーには「作業療法士」や「言語聴覚士」の資格がなく、リハビリを担うのは資格制度がある「理学療法士」のみ。三田村さんの着任当時、配属先には理学療法士がただ1人という状況で、人手不足は顕著だった。そのような中、三田村さんの活動は当初からカウンターパート(以下、CP)にあたる理学療法士と共に患者への治療にあたることがメインとなったが、そのかたわら、CPを含む配属先の医療従事者たちへの技術指導、さらには他の医療機関で働く理学療法士たちへの技術指導などへと、徐々に活動の幅を広げていった。

* 脳卒中…脳血管の異常が原因となった疾患である「脳梗塞」「脳出血」「クモ膜下出血」などの総称。

CPへの技術指導

フィジー理学療法士協会が主催した研修会のために、三田村さんがCPと共に作成し、使用したパワーポイントのプレゼン資料。資料にあるような図のつくり方も、CPに伝えた

 CPは理学療法に関する一定の知識は持っており、医師に指定された療法を行いはするものの、機能回復につながらないことも少なくなかった。問題は、「臨床推論」をしていない点にあると見られた。臨床推論とは、患者の動作がどのように異常なのかを観察・評価し、「この筋が弱い」など原因を推定する「動作分析」などを行ったうえで、それを取り除くための治療方法を計画するプロセスである。
 そうしたなか、CPによる治療で回復しなかった患者に対して三田村さんがあらためて治療を行い、回復させることができたというケースも出てくる。例えば、CPの治療を受けたが歩けるようにならず、あきらめて退院した女性患者に、三田村さんがあらためて2週間ほど治療を行ったところ、走れるまでになったこともあった。
 三田村さんは、1人の患者に対して継続的な治療を行う場合、動作分析から治療の終了に至るまで、各ステップの様子を写真や動画で記録していった。それらの蓄積が、後に理学療法技術を指導する際の格好の教材となった。
 自分の治療の様子を収めた写真や動画を最初に活用したのは、CPに技術を指導するときだ。三田村さんは着任して半年ほど経ったころから、互いの手が空いた時間を利用して、CPと簡単な勉強会を行うようになった。その際、写真や動画を使って、各症例で動作分析や治療計画をどのように行い、どのような結果が得られたかを解説した。数週間から数カ月にわたる回復の経過がつぶさにわかるそれらの教材により、それまで馴染みのなかった「臨床推論」の要領をCPに掴んでもらえるようになった。

CPに教材作成の技術も伝達

三田村さん自身が行った治療の写真や動画を挿入したページの例

フィジー理学療法士協会が主催した研修会で、CPと共につくったプレゼン資料を使って講義を行う三田村さん。研修会では、座学のほかに「実技」の時間も設けた

 三田村さんは任期の半ばごろになると、配属先の医師や看護師とも勉強会を開くようになった。テーマは、彼らからリクエストを募ってその都度決定。看護師たちとは、「患者をベッドと車椅子の間をスムーズに移乗させるコツ」などに関する勉強会を、医師たちとは、「科学的な根拠にもとづいた医療」などに関する勉強会を開いた。
 三田村さんが勉強会で伝えた知識について、「ほかの病院の医療従事者たちにも伝えるべきだ」と評価した配属先の医師たちの後押しを受けて実現したのは、全国の理学療法士を対象にした理学療法に関する研修会だ。着任の約1年後のことである。主催は、理学療法士の職域団体であるフィジー理学療法士協会。三田村さんの配属先以外の病院で働く約20人の理学療法士が受講した。
 この研修会で取り上げたテーマは「脳卒中患者への理学療法」。やはり重宝したのは、こまめに撮りためた治療の写真や動画だ。プレゼン資料の中には、具体的な症例を紹介するためにそれらをふんだんに盛り込んだ。
 研修の講師は三田村さんとCPの連名とし、プレゼン資料も共同で作成した。すると、パソコンソフトの使い方に慣れないCPは、パワーポイントのファイルに写真や動画を取り込む方法や、エクセルでグラフをつくる方法などに興味を示す。そこで三田村さんは、OJTでCPにそれらを指導していった。そうして「教材づくり」の技術も習得してもらえたことから、CPがその後、フィジーの理学療法士たちの間で、それぞれが携わった症例について「教材」を駆使しながら情報共有をしていく動きを先導する可能性も残すことができたのだった。

知られざるストーリー