授業実践を重ねながら
随時教材の改善を進める

柴田柚香(ペルー・環境教育・2017年度2次隊)さんの事例

小学校を回って環境教育授業の実践に取り組んだ柴田さん。これまでに「教壇に立つ」という経験がなかったため、授業を行っては、その方法や使う教材を改善するというプロセスを重ねていった。

柴田さん基礎情報





【PROFILE】
1991年生まれ、京都府出身。大学で環境学(特に「植物の分布」)を学ぶ。2017年9月、青年海外協力隊員としてペルーに赴任。19年9月に帰国。

【活動概要】
ピウラ州パイタ郡の郡役所に配属され、主に以下の活動に従事。
●小学校での環境教育授業の実施
●小学校でのコンポストづくりの支援
●小学生による浜辺の清掃活動や植林活動の運営(地域の環境保護団体との協働)


 ペルー北部の港町、ピウラ州パイタ郡の郡役所に配属された柴田さん。求められていた役割は、配属先の事業の1つとなっていた住民への環境啓発を支援することだ。
 同郡におけるゴミの処分方法は、ゴミの散逸や、ゴミからの有害な液体の浸出をコントロールする設備のない最終処分場に溜めていく「オープン・ダンピング」。さらにゴミの「ポイ捨て」も多く、おそらく海に流れ込んだ汚水やプラスチックゴミの影響で死んだアシカや海鳥、ウミガメなどが、あちらこちらの浜辺で見られた。現地の人の間では、「ここの海は汚いから入ってはいけない」というのが共通認識となっていた。
 同郡の産業の柱は漁業や水産加工業。海の生き物を守るためにも、住民に環境啓発を行うことは重要だったが、配属先の環境部門は深刻な人手不足で、手が回らない状態だった。そうしたなか、柴田さんはそれを一手に担当。任期中、郡内に約30校あった小学校のうちの半数程度を週に1度のペースで巡回し、環境教育の授業を実施した。授業で取り上げたテーマは、「ゴミ」「海洋汚染」「生態系と食物連鎖」。

「ゴミカード」

「ゴミカード」を使ったアクティビティに取り組む児童たち

「ゴミカード」を使ったアクティビティに取り組む児童たち


「動き」のある授業へ

 派遣前に「教壇に立つ」という経験がなかった柴田さん。任期中に行った環境教育授業は、対象児童の反応を見ながら、効果的な方法や教材を見つけ出していく「PDCAサイクル」の連続だった。
 当初は巡回先にプロジェクターを持参し、パワーポイントでつくったプレゼン資料を見せながら授業を行った。しかし、児童の意識は見慣れないプロジェクターにばかり集中してしまい、柴田さんの説明は上の空になってしまった。そこで柴田さんは、より良い授業のあり方についてヒントを得るため、同職種で派遣されていた先輩隊員たちが行う環境教育授業を見学させてもらった。そうして試みた改善策は、児童が主体的に取り組めるような「アクティビティ」を中心とする授業スタイルへの変更だ。そうした授業を行うため、次のような「アナログ」の教材をつくった。
■ゴミカード
「果物の皮」や「ペットボトル」、「タイヤ」など、自然に分解されるのにかかる期間が異なる物の絵を描いたカード。「分解にかかる期間」を区分けした模造紙の表を黒板に貼り、各期間に対応する物のカードを貼り付けていくアクティビティなどで使用した。
■動物カード
 ペルーには、「沿岸部」「山岳部」「アマゾン川流域」という、気候や生態系が異なる3種の地域がある。そこで、各地域を代表する動物をピックアップし、その写真のカードを作成。「ゴミカード」と同様、黒板に3地域の区分けをつくり、それぞれに棲息する動物のカードを貼り付けていくアクティビティなどで使用した。
 パワーポイントのプレゼン資料を使った座学中心の授業と比べ、「席を立ち、黒板にカードを貼る」という「動き」のある授業は、授業に対する児童の集中の度合いが顕著に向上。「日本に環境汚染はないのか?」など、環境に関する興味の深化が窺えるような質問も出るようになっていった。

現地の人に習って表現も工夫

ゴミの種類によって自然に分解される期間が異なることを伝えるために使った模造紙の教材。永久に分解されない素材があることを、「NUNCA(永久)」の文字に縁どりなどのレタリングを施して強調している

 柴田さんはその後、児童の反応を見ながら新たな教材を随時追加していった。複数のクラスで同じ質問が出ると、それをわかりやすく解説する模造紙のプレゼン資料を作成。「ゴミカード」のアクティビティは当初、「どのゴミは分解にどれくらいの期間がかかるか」の答えをあらかじめ伝えることをせず、児童に想像させていた。しかし、児童はまるで見当が付かない様子であったことから、ここでも模造紙教材をつくり、先に答えをひととおり教えてから、アクティビティに取り組ませるというやり方に変えた。
 模造紙教材をつくる際に協力を仰いだのは、配属先と同じ敷地にあった図書館の男性職員(以下、Aさん)だ。子ども向けポスターをつくることに慣れている人だった。柴田さんがその図書館で模造紙教材の作成を行っていると、「ここの子どもたちには、このような教材にしたほうが受けが良い」と、作成のコツを紹介してくれた。文字を印象的に表現する「レタリング」の方法や、伝える情報を「升目」によって整理するレイアウトの方法などだ。
 つくり溜めた教材は、Aさんに託して帰国。彼なら教材を大切に保管し、いずれ郡内の小学校で教員が環境教育授業をやるようになった際などに、貸し出しをしてもらうことなどが期待できると考えたからだ。

「動物カード」

どの地域にどのような動物が棲息しているか、「動物カード」で振り分けるアクティビティの説明を行う現地の小学校教員(右)と柴田さん

知られざるストーリー