“失敗”から学ぶ

同僚と一緒に配属先の問題を改善する機会を逃してしまった

文=荷川取 優さん(エクアドル・障害児・者支援・2017年度3次隊)

配属先の療育センターで子どもたちに授業を行う荷川取さん。療育センターには、理学療法士3人、言語聴覚士3人、作業療法士1人、教育心理士2人、臨床心理士1人の合計10人が働いており、約130人の子どもが通っている

 私はエクアドルのダウン症児の療育センターに派遣された。配属先は、生後数日から5歳までのダウン症児が通う、同国内でも歴史ある有名な療育センターで、同僚たちの専門性や責任感も非常に高く、赴任当初は自分の必要性を強く感じることがなかった。しかし、配属先を観察していくと、子どもへの指導の一部に暴力が含まれたり、自主性を無視した強制的なかかわり方があったりした。
 特に、週1回、子どもたちの気分転換を目的に行われるプール活動で顕著にそれが現れた。毎回のように子どもたちがプールサイド、プール内で泣き叫んだり、嘔吐したり、排尿や排便をしたりと身体的な拒否反応を示していた。プール内の活動では、うまくいかない状況に対してイライラした同僚が、指導の一環として子どもを無理にプールに入らせたり、無理やり水に潜らせたりすることもあり、悪循環の中で子どもも同僚も混乱し、療育と言えるものではなかった。
 プールの集団指導をしていたのは、同僚の1人で30年以上の経験がある理学療法士。プール活動はプールの外に見守りのため4人の同僚がいるが、実際に指導しているのはプール内に入る理学療法士1人だった。彼女は私に「この悪い状況を何とかしたいから、一緒にプールに入ってくれないか」と相談をしてきた。私も一刻も早く改善しなければ、と思っていたのですぐに引き受け、リーダーとして指導を行った。これまで行ってきた、潜らせるなどの強制的な活動を一切止め「水で遊ぶ」ことに焦点を置き、ボール、水鉄砲などのおもちゃを使ったり、簡単なゲームをしたりするなどの活動を、私が主体となって考え、取り入れた。結果的にプール活動は成功し、授業参観では子どもたち、保護者、同僚らも満足していた。
 しかし、私の「子どもが楽しんで学ぶ機会をもっと大切にしたい」という思いから一方的に動いたため、支援や子どもとのかかわりにおいて重要で根本的な部分を、同僚全員と考える場を持てなかった。なぜ前述の拒否反応を示すのかという現状の把握や、状況を改善する方法、アイデアの提案・共有などを同僚と一緒にするべきだった。後から意見交換などを提案したが「終わったことだから」と聞く耳を持ってもらえず、貴重な機会を失ったことに気づき、とても後悔した。

隊員自身の振り返り

同僚は「今の状況を改善したい」というやる気を持っていたので、同僚が主体となって動くことをサポートすべきでしたが、それを待てずに行動したことが失敗の原因でした。その場しのぎの解決策でやり過ごす傾向がある同国の人に、継続した支援の在り方や、遊びを通して学ぶことの重要性を伝える機会を失ってしまったことを後悔しています。私は活動中、同僚に「子どもたちの活動を動画や写真で記録しよう」と伝えてきました。その理由は、指導者が客観的に状況を見て、考えるためです。そのようにプール活動でも気づきのヒントを渡すことができればよかったと後から気づきました。

他隊員の分析

アセスメント(*)から共に行うことの大切さ

 私も活動当初は自分の目線で表出した課題に対し、計画書を提出、実施してみましたが、同僚の「やらされている感」に繋がってしまいました。一方で、活動後半は同僚の持つ問題意識を掘り下げ、解決手法を提案し、共に計画、実施することで同僚が主体意識を持って実務にあたってくれるようになりました。本事例でも、同僚が相談してきた「悪い状況」についてアセスメントを共にじっくり行う方法もあったのかな、と感じます。そして課題解決の方法についてアドバイスしながら共に計画、実践していければよかったのではないかと思います。
*アセスメント…利用者のニーズを把握するために、情報を収集し、状況を分析して、問題を解決するための方向性を見出すこと。
文=協力隊経験者
●アジア・障害児・者支援・2016年度派遣
●取り組んだ活動
自閉症・知的障害を持つ未就学児の療育センターにて、同僚と共に子どもたちや図画工作の授業やSST(Social Skills Training、生活技能訓練)、イベント企画などを実施した。

「どうしたらよいと思う?」を口癖に

 事例の状況では一刻も早い改善が必要だったと思います。同時に「同僚が主体で動くこと」をサポートできなかったことへの後悔にも共感します。私も配属先で新しい授業の立ち上げを依頼され、同僚と共につくり上げていく大変さを感じました。「自分でつくった後に同僚に引き継いだ方が良いのでは?」と思うこともありました。そこで活動時に心がけたのは「どうしたらよいと思う?」と同僚に聞く習慣です。同僚が依頼をするのは何かに困っているからです。「一緒に『何が原因か?』を見つけ出していこうよ!」と誘う言葉が「どうしたらよいと思う?」だと思います。
文=協力隊経験者
●中南米・障害児・者支援・2014年度派遣
● 取り組んだ活動
NGOが運営する障害児・者へ教育活動を提供する施設で活動。主に知的障害のある人たちのクラス(午前が6〜14歳、午後が14歳〜40代)で、今までになかった「作業」や「体育」の授業を立ち上げた。

荷川取さん基礎情報





【PROFILE】
1988年生まれ、沖縄県出身。2012年横浜国立大学教育人間科学部を卒業後、神奈川県立の特別支援学校(知的・肢体不自由分野)にて勤務。退職後、19年1月、青年海外協力隊員としてエクアドルに赴任し、20年1月、帰国。

【活動概要】
エクアドルの首都キトにあるダウン症児の療育センターにて、主に以下の活動を行った。
●毎日の集団授業の実施
●同僚や保護者に向けた、療育に有効な活動や知識等の紹介、教材作成に関するアイデアの共有・指導
●指導案の作成方法、それに基づく授業のやり方についての研修会を企画・実施

知られざるストーリー