出身地の町で
「教職」と「協力隊」の経験をベースに町政に参画

牧田直己さん
モンゴル・体育・2015年度2次隊
群馬県利根郡みなかみ町 町議会議員

観光業が重要な産業である群馬県利根郡みなかみ町。その町議会議員として、「教職」と「協力隊」という2つの経験を武器により良い町政の実現に取り組む牧田さんに、仕事の様子を伺った。

PROFILE





1988年生まれ、群馬県出身。大学院修了後、高校に体育科教師として2年間勤務。2015年10月、青年海外協力隊員としてモンゴルに赴任。小・中学校の体育授業の質向上に向けた支援に取り組む。17年10月に帰国。国内外で木材の販売事業や植林事業、環境保全を行う企業での営業職を経て、18年9月にみなかみ町の町議会議員に就任。


牧田さんが住むみなかみ町後閑地区の住民を対象に開いた、町政に関する意見交換を行う「報告会」。住民の思いを吸収する重要な機会の1つだ

ユネスコエコパークにも登録されているみなかみ町の豊かな自然

−−みなかみ町の町議会議員選挙に出馬したいきさつをお教えください。

 議員の改選は4年ごとで、私が出馬した選挙があったのは協力隊の任期終了の約1年後でした。帰国した当初は、町議会議員という仕事に就くことは頭になかったのですが、半年ほど経ったころから、地元の住民の方々が熱心に勧めてくださるようになり、出馬することになりました。そのおひとりは、協力隊に参加するときに非常に喜んで、「世界を見てこい」と背中を押してくださり、帰国の挨拶に行ったときから「何かをやってもらいたい」というようなことを口にされていました。私が当選できたのは、この方と同じように、「『外』を経験した若い人材」に期待する住民が多かったということではないかと思っています。
 私が帰国の時点でその先の進路について漠然と考えていたのは、「教育」と「地方活性化」の2つが重なり合うような仕事をしたいということでした。しかし、どのような仕事がそれに該当するのかがわからず、まずは民間企業に勤めながら自分の将来の生業について考えました。「町議会議員への立候補を」と声をかけていただいたのは、そんな時期です。「政治」の世界に怖さを感じていたこともあり、しばらく固辞し続けていたのですが、「町議会議員なら、きみが望む『教育』と『地域づくり』ができる」と伝えられ、出馬を決意するに至ったのでした。

−−教職に戻ることは考えていなかったのでしょうか。

 派遣前に勤めていた高校では、家庭環境に問題があって勉強どころではない生徒がいるなど、社会全体で解決に取り組まなければならない教育の課題があると感じていました。そのため、教師以外の形で教育にかかわりたいという思いを、派遣前から持つようになっていました。

−−「地方活性化」への関心は協力隊経験を通じて高まったものでしょうか。

 そのとおりです。日本とは言語も文化も異なる環境に身を置き、現地の方々に溶け込みながら活動を進めることは、日本とモンゴルを比較し、日本全体を俯瞰するとても良い機会になりました。そんな中、私の故郷であるみなかみ町の風景写真を使って、現地の子どもたちに町のことを伝えると、モンゴルとはまた違う奥深い緑の美しさや、透き通った水の豊富さからくる美しい景色や風情に、子どもたちは声を上げて感激してくれました。そこであらためて故郷のすばらしさを再認識することができました。しかし、帰国して2年ぶりに帰省した際の町の印象に大変驚きました。2年間離れていただけにもかかわらず、人が減り、ものすごい勢いで過疎化が進んでいる現状に、鳥肌が立ちました。みなかみ町は観光が重要な産業であり、最大の観光資源である「自然」は「ユネスコエコパーク」(*)にも登録されるすばらしいものです。その魅力をもっと輝かせ、群馬や日本が世界に誇る町にしたいと考えるようになりました。

* ユネスコエコパーク…UNESCOの登録制度である「生物圏保存地域」の通称。豊かな生態系を有し、地域の自然資源を活用した持続可能な経済活動を進めるモデル地域が登録対象。

−−町議会議員として、具体的にどのような仕事をされているのでしょうか。

 現在の議員数は17人で、議員はそれぞれ「総務文教」「厚生」「産業観光」という3つの常任委員会のいずれかに属して仕事を行います。私が所属するのは総務文教常任委員会で、所管は町の総務課や教育委員会が行う事業です。定例会は4半期に1回、約2週間の会期で開かれるのですが、その常任委員会や本会議で住民の目となり口となり、町政の執行機関である町長が提出する条例案や予算案などをチェックしたり、反対に条例案や意見書などの形で町政に関する提案を町長に対して行うというのが、会期中の仕事になります。

−−牧田さんご自身はこれまでに議会でどのような提案をされたのでしょうか。

 さまざまな提案を行っていますが、最近では、コロナ禍を受け、学校教育での早期オンライン化の必要性を訴えてきました。授業をオンラインで行うことも重要ですが、それ以上に、長期にわたり教師と児童・生徒が関係性を持てないことに、「なんとかしないと」と強く感じていました。そのため、町当局に対し、タブレット端末の早期購入と地域のインターネット環境整備の強化を、同僚議員や地域住民の方々の協力のもと、提案してきました。そうした提案をするのは、学校教育の現場を経験し、かつITに慣れている若い世代の私が果たす役目だと考えています。みなかみ町の議員は、農業や建設業、宿泊業など、本職をほかに持つ方が大半で、それぞれ自分の得意とする分野での議員活動に力を入れています。

−−今のお仕事に協力隊員経験が生きていると感じている点は?

 何かしらの「提案」をする際の「まずはやってみせる」という姿勢は、協力隊経験で得たものだと思います。例えば、オンライン授業の導入について、常任委員会で発言するだけでなく、町長のもとに足を運んで「試しにやってみましょう」とZoomを実際に体験していただいたり、知人の教師に協力を仰いで小学3年生のクラスでオンライン授業を試したりしました。こうした姿勢は、協力隊時代に現地の先生方に体育授業のやり方を提案する際、試行錯誤を重ね、バスケットボールの授業展開を実演するなどして受け入れてもらえた経験で身に付けたものでした。

−−今の仕事でどのような点におもしろさを感じていますか。

 議員になってわかったのは、町をもっと良くしたいと考えている住民がたくさんいらっしゃることです。そういう方々と、ああでもない、こうでもないと共に考え、それを町政への具体的な提案へと形にしていく役目は、非常にやりがいを感じます。町内を歩いていると「ちょっとうちに寄ってきな」と声をかけられ、お茶やかりんとうを楽しみながら世間話をする。そんなプライベートでのゆったりとした付き合いのなかで、、住民の方々のの困っていることなどが見えてきて、その解決に向け行動する。日頃からそうした人と人との繋がりを大切にすることは、協力隊時代に現地の方から日々の付き合いで学んだことにほかなりません。

−−今後の抱負をお聞かせください。

 みなかみ町は、「豊かな自然」だけでなく、地域で人を大切にするというこの上なく素晴らしい文化があり、多くの「人財」がいる地域です。そのような面を多くの方々に知っていただき、みなかみ町に関心を持っていただくことで、足を運んだり移住したりしていただける地域となるよう努めていきたいと思います。
 先日、移住してきた協力隊OB・OGと共に、みなかみ町について知ってもらうためのオンラインのセミナーを行い、70人を超す方々にご参加いただきました。今後も、みなかみ町に関心を持ってくださった方や地域の方々と一緒に、より暮らしやすく、素晴らしい地域となるよう、地域づくりに努めていきたいと思っています。

知られざるストーリー