“失敗”から学ぶ

改善のための提案や行動をしたが住民の理解を得られなかった

文=山崎尚子さん(ベナン・コミュニティ開発・2017年度2次隊)

活動終盤、朝から半日がかりで村のゴミ拾いを実施し、終了後に集会が開かれたときの様子。中心で話をしているのが村長。最初の頃は、「ゴミ収集所をつくりたい」「ゴミ収集用の三輪車を購入しないと」などと希望していた村長だが、この頃には「村の未来のためにも、自分たちで村をきれいにしなくては」と語り、住民たちを指導するようになっていた

 ベナンのナガイレ村で保健分野を中心とした任地の住民の生活改善に携わりました。住民と同じ生活をし、ともに働き、信頼関係を築きながら、村と住民の状況を把握していきました。
 1年目終盤から活動の1つとして取り組んだのが、ゴミ問題の改善です。任地ではゴミをゴミ箱に捨てる習慣はなく、ゴミ収集の仕組みやゴミ処理施設もありません。ゴミが散乱する村の状況に、住民からも「きれいにしたい」と改善を望む声がありました。
 最初に行ったのが、村長を始めとする村の有力者を集めた勉強会です。私からゴミの悪影響や近隣市村のゴミ問題への取り組みを紹介し、ゴミ拾いなどの「お金がなくても今すぐできる改善行動はある」ことを伝えつつ、問題にどう取り組むかは住民である出席者に考えてもらいました。しかし、話し合い後に出席者が望んだのは、ゴミ収集所の建設などの大がかりなプロジェクト。すぐに実施できるものではなく活動は停滞します。私は有力者へのアプローチをいったんやめ、学校など地域の人々への啓発活動を行いました。しかし、ここでもゴミ拾いなど習慣にないものを実施してもらうことは難しく、行動変容は起こせませんでした。
 ところで任地では、年に1回大きな会議が開催されます。村で何かを決めるには、この会議で取り上げてもらい、村全体の意思で決定してもらうことが必要です。そのため、これを次の目標にして、有力者へのアプローチを再開。話し合いを通して、私の思いに共感してくれる人も少しずつ出てきました。そして任期終了半年前、この会議で「定期的なゴミ拾いの実施」が決まりました。しかしその後、「ゴミ拾い運動」の日になっても、参加者は私1人という状況が続きました。会議で承認されても、住民の理解や同意は得られていなかったのです。
 任期終了まで残り2カ月。活動を動かしたのは村長のゴミ問題への意識の変化でした。村長と活動以外でもコミュニケーションを重ねたことで信頼関係を築けたことが変化の一因となりました。村長が話し合いの場を設け「このまま問題改善に取り組まなければ村はどうなってしまうのか」と切々と訴えてくれたおかげでゴミ拾い運動への機運が一気にアップ。活動は最後に急展開を見せました。

隊員自身の振り返り

活動を始めて、住民との常識や習慣、価値観の違いに気づくことが多くありました。最初はそれを理解せずにゴミ問題について話していたため、伝えたいことを効果的に伝えられていなかったのです。気づくたびに伝え方を改めることで、理解してもらえることが増えてきました。しかし、だからといって住民の行動が変わり、状況が改善されたわけではありません。結局、活動を大きく動かしたのは、村長の意識の変化でした。優れたトップと組織を持つコミュニティで、外部者が果たせる役割は限定的だと知りました。状況を改善させるために私ができることは何かを良く見極め、必要なアプローチを取ることが大切だったと思います。

他隊員の分析

コミュニティ内の力関係を知り、つなぐ

 コミュニティの中で理解を得るには、事例の村長のようなキーパーソンを味方にするのが近道と思います。しかし、見つけることは容易ではないはず。私は配属先でキーパーソンを見つけられなかったので、トップダウンの傾向が強い状況を利用しました。トップが命令を出したら、命令される側の声を私が吸い上げて課題を見つけ、それをトップに伝えて解決しました。どちらにも属さない隊員という立場だからこそ、両者の意見を聞いて伝えるという橋渡しができたのだと思います。それにより信頼関係を築いた結果、取り組みたい活動に着手できました。
文=協力隊経験者
●アフリカ・環境教育・2016年度派遣
●取り組んだ活動
首都の大学に配属となり、大学内のリサイクルシステムの整備・運用、環境教育のワークショップなどを行った。また、地域の小学校などでも環境教育のワークショップを行うなど環境啓発に努めた。

現地のリーダー、住民の理解なくして改善なし

 私も配属先との話し合いでゴミ拾い活動を決定後、1人きりでゴミ拾いをしたことがあります。しかしこれは、現地の人がその必要性を本当に理解して決定したことではなかったからでした。今回の事例で、住民から改善を望む声や有力者との会議でプロジェクトの提案がありましたが、もしかしたら両方とも「誰かがやってくれる」という期待があったのかもしれません。現地の人の力量(金銭面や人材面)について話した合った上で、彼ら自身が本当はどうしたいのかということを話し合って導き出せるとよかったのではないかと思います。
文=協力隊経験者
●大洋州・環境教育・2015年度派遣
● 取り組んだ活動
環境省の地方支所に配属され、学校での環境教育や先生たちを対象にしたワークショップの実施、コミュニティを巡回してゴミ収集システム導入の提案などを行う。リサイクルの難しい小さな島国だったため、ゴミは資源にもなる可能性について具体的事例を踏まえて伝え続けた。

山崎さん基礎情報





【PROFILE】
1986年生まれ、千葉県出身。2005年に津田塾大学学芸学部国際関係学科を卒業後、書店に入社。本部にて専門書の仕入れなどを約2年半担当。その後店舗に異動し、約5年間、店舗運営業務に従事した。退職し、17年9月、青年海外協力隊員としてベナンに赴任。19年9月に帰国。

【活動概要】
農村部にて、特に保健分野の生活改善につながる活動を住民が主体となって行うために、主に以下の活動に取り組む。
●学校や地域での保健啓発活動
●ゴミ問題の改善 など

知られざるストーリー