派遣国のテーラーがつくる服や雑貨を
日本で販売

田賀朋子さん(セネガル・コミュニティ開発・2014年度2次隊)
「jam tun(ジャムタン)」を経営

協力隊時代、現地の服に使われる布の端切れをリユースして雑貨をつくる活動に取り組んだ田賀さん。帰国後は、その活動でつながった現地のテーラーをパートナーに、現地の布を使った製品を製造・販売する事業を立ち上げた。






PROFILE

1989年生まれ、岡山県出身。大学卒業後、マンチェスター大学大学院修士課程で「貧困と開発」を学ぶ。2014年9月に青年海外協力隊員としてセネガルに赴任。ゴミ問題の啓発活動の一環として、服に使う布の端切れをリユースしてバッグやポーチを製作・販売する活動の支援に取り組む。16年9月に帰国した後、岡山県内の観光案内所で働くかたわら、ジャムタンを開業(右写真は、任地の住民たちのもとにお別れのあいさつに訪れた協力隊時代の田賀さん)。

jam tun

本拠地:岡山県小田郡矢掛町
開業:2017年
事業:セネガルのプリント布を使った服や雑貨の製造・販売


今年初頭に岡山県内の雑貨店で行わせてもらった期間限定の委託販売

セネガルのテーラーに布の選択を任せ、つくってもらったパッチワークのバッグ

テーラーのリーダー役を務めてもらっているAさん

−−「jam tun」の事業内容をお教えください。

 セネガルのプリント布を使った服や雑貨の製造、販売が事業の柱です。商品の開発は私が行い、製造はセネガルにいる現地のテーラーたちに委託しています。販路は、イベントや朝市での出店、フェアトレード専門店や雑貨店での委託販売などで、私が住む岡山県や近県が中心となっています。活動開始は帰国の約半年後で、当時から現在まで、観光案内所勤務との「二足のわらじ」を続けています。最初は、セネガルの布が日本人に受け入れてもらえる確信がなかったので、うまく行かなければきっぱり止めようと考えていたのですが、思った以上に買っていただけることがわかったので、活動開始の約1年後には半年にわたる起業家向けの講座を受講し、ビジネスの基礎を学びました。

−−商品の特徴をお教えください。

 セネガルでは、好みの布を買ってテーラーに持ち込み、服に仕立ててもらうのが一般的です。ジャムタンの商品の素材としているのはそうした布で、色や柄の異なる多様な布が手に入ります。そこで、ジャムタンの服はそれぞれ違う布を使い、 すべてを「一点物」の商品とすることにこだわっています。愛着を持って、長く使っていただきたいからです。最近は、在庫の布からお客様自身に好みのものを選んでいただき、それを使った服を仕立ててお届けする「セミオーダーメイド」も始めました。デザインに関しては、どんなに布の色や柄が派手であっても、日本で着て違和感が出ないよう、フリルなどの装飾を付けず、形を極力シンプルにするなどの工夫をしています。端切れ布のパッチワークでつくるバッグやポーチなどの雑貨も、どの布を組み合わせるかはテーラー自身に自分のセンスで決めてもらうようにしているため、やはり「一点物」となっています。

−−事業を始めたきっかけは?

 協力隊に参加する時点では、帰国後は国際協力の道に進みたいと考えていました。しかし、現地の友人が増えるにつれ、現地の方々を「支援の対象」とする仕事ではなく、対等な関係に立ち、共にがんばれる「ビジネス」でのつながりが理想なのではと思うようになりました。現地のテーラーをパートナーにし、セネガルの布を使った品物を製造・販売する事業を選んだ理由の1つは、協力隊時代、現地のテーラーと共に端切れ布をリユースしてバッグやポーチを製造、販売する活動に取り組んでいたからです。彼らとのつながりを活用すれば、事業の立ち上げも難しくないと考えました。
 もう1つの理由は、セネガルの布の製品を日本に広めれば、その鮮やかさやにぎやかさによって、日本の方々にアフリカについてポジティブなイメージを持ってもらうことができるのではと考えたからです。帰国後、日本の友人にセネガルの話をすると、アフリカについて「貧困」や「紛争」などネガティブなイメージばかりを持っていることがわかり、それを払拭したいと思いました。「ジャムタン」という言葉は、縫製を委託しているテーラーたちが住む地域で話されているプラール語のあいさつで、直訳すると「平和だけ」という意味です。これを屋号に選んだのは、「アフリカのポジティブな面を知ってほしい」という思いを込めてのことです。最近は、セネガルの布をより広く日本の方々に知ってもらえるよう、それを使った「日傘」の製造を日本の就労継続支援A型(*)の事業所に委託し、販売するといった事業も始めています。

* 就労継続支援A型…障害や難病のある人が、雇用契約を結んで働けるよう支援する制度。

−−ジャムタンの商品を購入するのはどのような層の方が多いのでしょうか。

 もっとも多いのは、三十〜四十代の女性で、リピーターとなってくださっているのは、ジャムタンの商品で初めてセネガルの布を知り、そのファンになったという方々です。高齢の方でも、「明るい布だから元気がもらえそう」と言って買ってくださる方もいらっしゃいます。

−−服などの製造を委託しているテーラーは、みな協力隊時代に付き合いのあった方々でしょうか。

 協力隊時代に端切れ布をリユースする活動を始める際、何十人ものテーラーとコンタクトをとり、そのなかで意欲を感じた4、5人と共に活動を行いました。ジャンムタンの立ち上げにあたって声をかけたのは、そのなかでもっとも信頼していた1人の男性(以下、Aさん)です。ジャムタンの売り上げが増えるのに従い、Aさんが選んだ周囲のテーラーにも製造を委託するようになり、現在はAさんがリーダーとなって6人、7人ほどで製造してもらう体制となっています。

−−テーラーとのやりとりの方法は?

 年に1、2回はセネガルに数日間滞在し、テーラーたちと会って打ち合わせをしますが、普段のやりとりはもっぱらSNSを使っています。たとえば、歪みやほつれなど、送られてきた製品のどこかにミスがあったら、スマートフォンで写真に撮り、細かな説明をするボイスメッセージを付けてSNSで送り、次回の改善につなげてもらう。また、お買い上げいただいたお客様に、商品を身に付けた姿を写真に撮っていただき、SNSでAさんに送るということもしています。
 製造の現場が離れているなかで、いかに品質を維持するかというのは、やはりこの事業の難しい点です。当初は、返し縫いを忘れてほつれそうになっていたり、縫い目が歪んでいたりと、日本で買ってもらえる製品の質に達していないものも多く、「アフリカっぽい。もう少し真っ直ぐ縫えるかもしれないわね」などと言われてしまうこともあって、価格を低く設定してどうにか買っていただけるという状態でした。しかし、日本で買ってもらうために必要な品質についてAさんに繰り返し伝え続けたところ、テーラーたちの技術も向上し、高値で販売することができるようになりました。最近は、日本でつくられているアフリカの布の服などを、彼ら自身でインターネットを使って調べ、さらなる品質向上への意欲を高めているようです。

−−セネガルから日本への商品の送付や、テーラーへの委託料の支払いは、どのような方法で行っているのでしょうか。

 テーラーたちが働いている地域から車で40分ほどのところに国際便も受け付ける郵便局があるので、国際スピード郵便を使って商品を送ってもらっています。一方、委託料の支払いは、テーラーたちが銀行口座を持っていないため、国際送金サービスを利用して行っています。

−−今後の抱負をお聞かせください。

 これまでも、どのようなテーラーがつくったのかをSNSで投稿していたのですが、今後は、テーラーの生活や現地の様子を詳しく紹介するウェブサイトをつくり、商品にQRコードを付けてそこに飛べるようにしたいと考えています。現在のお客様の中心である岡山県の方々は、普段、アフリカとつながる機会がほとんどありませんので、ジャムタンの商品を通じてより具体的に現地のことを想像していただけたらと思うからです。

知られざるストーリー