私の引継書 〜未来の協力隊員へ〜

話=城間梓沙さん(サモア・理科教育・2017年度3次隊)

PROFILE





1989年生まれ、沖縄県出身。大学の理学部を卒業後、中高一貫校に理科教員として勤務。2018年1月、青年海外協力隊員としてサモアに赴任。20年1月に帰国。


配属先で毎朝8時半から行われていた朝礼

配属先の理科室。城間さんはその整備にも取り組んだ

活動の環境

配属先の基礎情報
名称:アアナ・ナンバーワン中高等学校
所在地:ウポル島ファレオロ
事業内容:公立の中高等学校(5年制=9〜13年生)
生徒数:約300人(1クラスは最大30人/1学年は1〜3クラス)
教員数:約30人(活動を共にする理科教員は3人、数学教員は5人)
学期数:4学期(年度開始は1月)
教育言語:英語(実際はサモア語が使われることも多い)
時間割:60分/コマ、8コマ/日
その他:教科書は教員だけが持ち、その板書を生徒が写す。11年生より上の学年では、そもそも国定の教科書がない科目もあり、図書室に置いてあるニュージーランドやオーストラリアの教科書を教員たちが適宜利用。

現地の主食のタロイモ

学習活動のアイデアを競う全国コンクールで、デンプン糊をつくるためにタロイモをすり下ろす理科部門の代表生徒

城間さんが授業で取り入れた、並べた紙コップの上の板に乗る「圧力」の実験に取り組む生徒たち

活動内容

 2018年度の授業開始の約1カ月後に着任。任期を通して、単独で理科と数学の授業を行うことが活動のメインでした。担当した学年と科目は以下のとおりで、いずれも週に3、4コマ。最大で週に20コマを担当しました。
【2018年度】
■9年生の数学(必修科目)=1クラス
■10年生の基礎理科(物理・化学・生物の基礎を教える科目、選択科目)=受講生徒は約30人
■11年生の物理(選択科目)=受講生徒は7、8人
【2019年度】
■10年生の数学(必修科目)=1クラス
■11年生の数学(必修科目)=1クラス
■11年生の物理(選択科目)=受講生徒は7、8人
 理科の授業では当初、「なぜこんなに理解してもらえないのか」と悩みました。解決の糸口が見えたのは、ホームステイ先での体験です。ホストファミリーは食器を洗う際、食器洗い用の洗剤は高価だからと、人体に害のある洗濯用の洗剤を使っていました。そこで私は、学校で教える化学の知識が「生活」に結び付けて捉えられていないと感じたため、授業では科学的知識を「生活」と結びつけて説明することにしました。すると、教えた知識の定着率が高まることが小テストの結果などからわかりました。
 例えば、「将来、黒い車を買うか、白い車を買うか」と尋ねた後、凸レンズで太陽光を屈折させて白と黒の紙に焦点を当て、黒い紙なら焼けることを確かめる「熱の吸収率」を学ぶ実験をし、「黒い車は熱くなること」を確認させました。そのように、実生活に結びつけた理科の授業を展開することで、生徒の関心が高まり、「もっと理科の実験をしたい」という自発性が生まれていきました。全国の学校の代表者が学習活動のアイデアを競うコンクールが開かれた際、理科部門の発表の指導を担当したのですが、現地の主食がサトイモ科の植物のタロイモであることに着目し、タロイモでデンプン糊をつくる実験を採用。すると、生活と結びつけた学習である点が評価され、優勝することができました。

未来の協力隊員へ

 任期の前半に苦労したのは「クラスコントロール」です。サモアの生徒は、筆記用具の貸し借りのための立ち歩きが後を絶たず、授業に集中できません。また、テストでのカンニングも常態化していました。現地の教員は体罰などで威圧的にクラスコントロールをするのが一般的で、それに慣れている生徒たちは、体罰をしない私の授業では好き放題になってしまうのでした。威圧的な授業で生徒たちは「勉強はやらされるもの」と感じてしまっており、私はそれに替わるクラスコントロールの方法が見つけ出せず、悩み続けました。任期の半ばになり、自分が考えていることをもっと明確に発信しなければいけないと思い立ってから、状況は好転。体罰に慣れ、私がそれをしない意図がわからなかった生徒に対して、「なぜ体罰をしないのか」「『生活を豊かにする』という勉学の目的」を伝え続けました。すると、生徒たちも私の言葉を1つずつ理解し、私が大切にしていることを大切にしてくれるようになりました。その結果、立ち歩きやカンニングが減り、私が描いていた授業に近づけることができました。異文化の人々とのコミュニケーションは、「私とはどんな人物なのか、何を考えているのか」を明確に発信し、「国や文化に関係なく、互いに理解し合うこと」が重要——。これが、協力隊経験で私が得た最大の学びです。

知られざるストーリー