協力隊経験で自分の核と気づいた
「相手の立場に立って」という姿勢

田山美由紀さん(モンゴル・看護師・2015年度1次隊)
独立行政法人国立病院機構 仙台医療センター 看護師

病院の看護師としての籍を残しながら、協力隊に現職参加した田山さん。異文化社会での活動を通して、「自分は看護師として何を大切にしたいか」に気付いた経験が、帰国後の仕事のベースになっているという。






PROFILE

たやま・みゆき●1983年生まれ、青森県出身。大学卒業後、看護師として独立行政法人国立病院機構仙台医療センターに入職。集中治療室で8年間働いた後、2015年7月に青年海外協力隊員としてモンゴルに赴任(現職参加)。17年7月に帰国し、復職。復職時から現在まで外科病棟に勤務。

協力隊活動●2次医療機関であるドルノゴビ県総合病院に配属され、床ずれや誤嚥による肺炎など、入院患者に生じやすい合併症を防ぐ技術の指導、あるいは看護記録の運用改善の支援などに取り組んだ。右の写真は、現地の看護師を対象に開いた、入院患者の合併症を予防する技術に関するセミナーの様子。患者の体位変換の方法を指導している。

独立行政法人国立病院機構 仙台医療センター

創設:1937年
病床数:698床
所在地:宮城県仙台市
事業内容:宮城県の基幹病院


−−協力隊の任期を終えて復職した後、これまでに担当してきた業務をお教えください。

勤務する外科病棟にて

 当院は病床数が698床という大きな病院で、派遣前は集中治療室に勤務していたのですが、復職時から現在までは外科病棟に配属されています。入院されているのは、がんの治療を受けている方や手術前後の方が中心です。




−−派遣前とは異なる病棟で再スタートされたとのことですが、苦労はなかったのでしょうか。

 異文化社会での協力隊活動はうまくいかないことばかりでしたが、それでもがんばって任期をまっとうしたことで、「自信が付いた」と感じて帰国することができました。ところが、復職するとすぐ、仕事の忙しさで協力隊が遠い昔のことのように感じられるようになってしまいました。しかも、慣れない病棟の仕事で手際良く働けない日が続いたため、協力隊経験で得たはずの自信も失われていきました。自尊心をなんとか回復できたのは、JICA東北や職場からお声がけいただき、看護学生や高校生に協力隊経験をお話しする機会を得たからです。そのときに協力隊時代の経験を思い起こし、「2年間、活動も生活も必死にやってきた。そこで得たものを生かさなければ」と奮起することができました。

−−ご自身が協力隊経験で得たものは何だったと感じていらっしゃいますか。

 自分が看護師として何を大切にしたいのかを自覚できたことが、一番大きいと感じています。具体的には、単純なことなのですが、「患者の立場に立って」という姿勢です。派遣前は、それを自分が大切にしたいと思っているかどうかを考えたことはありませんでした。一緒に働く日本の看護師たちは、こうした姿勢が当たり前だからなのだろうと思います。ところが、モンゴルでは「相手の立場に立って」という姿勢が感じられない看護師が少なくありません。同国では日本と違って、患者の体を拭いたりする「日常生活援助」は看護師の役目ではないとされていることもあり、患者の体位を変えて床ずれを防ぐなど、入院患者の合併症を防ぐための看護が配属先ではなされていませんでした。患者の苦しみを考えればやって当然のことなので、その方法を教える勉強会などを開きたいと提案してみるものの、当初は「ここではそれは必要ない」などと言われ、なかなか受け入れてもらえませんでした。そうした態度を取られるたびに、強い憤りを感じました。やがて、自分はなぜこれほど強い憤りを感じるのかを考えてみたのですが、それは私の主張を聞き入れてもらえないからではなく、私は「患者の立場に立って」という姿勢で仕事をしたいと心底思っているからなのだとの結論に達しました。そうすべきだと大学で習っただけではなく、人間としてそうありたいと思っているからなのだと。
 現在勤務する外科病棟は、集中治療室よりお話ができる患者さんが多いので、「手術が不安だ」といった悩みを聞くなど、彼らとコミュニケーションをとる時間が多くなっています。そのなかで、ときに患者さんから「ほかの看護師さんと何か違うね」と言われることがあります。派遣前に患者さんからそう言われたことはありませんでした。それはもしかすると、「患者の立場に立って」という姿勢が派遣前より強まり、知らず知らずのうちに患者さんへの接し方に表れているのかもしれません。

−−看護師は「チーム」で働く仕事だと思いますが、協力隊経験によって同僚たちとの協働の仕方に変化はありましたか。

 看護師たちはそれぞれ異なる考えを持っているので、年齢やキャリアに関係なく、皆が対等な立場で意見を発信し合えるような職場にするため、ひと役買おうと心がけるようになりました。協力隊経験によって自分の信念に気づき、それを貫こうと思うようになった一方、自分とは違う意見の人の話にもしっかり耳を傾けようという意識も強まったと感じています。モンゴルの看護師たちとは意見が衝突することも少なくなかったのですが、いつでも私が正しいわけではありませんでした。例えば、人員や物の不足、文化や考え方など、私がよく理解できていなかった事情を踏まえれば、「あなたが主張する改善策の優先度は低い」という同僚の意見が正しいこともあり、それを踏まえた対策を一緒に考えるようになりました。そうした経験を重ねたことで、「異なる意見にはそれぞれ理由がある」と考えられるようになったのだと思います。

−−今後の抱負をお聞かせください。

 協力隊経験によって、看護の技術だけでなく、「職場のあり方」についても学ぶところがあり、帰国して3年経った今、興味が湧いてきました。そのため、さらに知識や経験を蓄え、いずれは管理職の立場に立ち、職場全体としてより良い看護サービスを提供できるようにしていく仕事にも携わりたいと考えています。

VOICE from the COMPANY
JICA海外協力隊経験をこう見る

独立行政法人国立病院機構 仙台医療センター 病棟看護師長
高橋奈美さん

「リーダーシップ」が向上

 田山さんとは彼女の新人時代にも共に働いていますが、当時から、疑問に感じたことは勉強し、患者さんのために努力をしていたことを覚えています。
 今年の4月からまた共に働くようになったのですが、協力隊に参加した影響ではないかと感じているのは、以前のように誰よりも患者さんのことを考え、丁寧なケアを行うだけでなく、「リーダーシップ」も増したということです。共に働く看護師たちに、自分が思ったことを言葉にしてしっかり伝える一方、彼女たちの意見にも耳を傾けながら、チームリーダーとして病棟を引っ張ってくれています。物資が不十分な途上国の病院で、なんとか患者さんのために改善できることはないかと懸命に考えた経験が、視野の広がりや行動力の高まりにつながっているのではないかと推察します。
 今後も変わらず、患者さんも同僚も共に慮る看護師であり続けてほしいと思います。

知られざるストーリー