協力隊経験で身に付いた
「先入観にとらわれない姿勢」

松田孔佑さん(タンザニア ・コミュニティ開発・2014年度1次隊)
ダイキンHVACソリューション北海道株式会社 社員

エアコンメーカーのダイキン工業(株)に籍を置きながら協力隊に現職参加した松田さん。異文化社会の人々と付き合うなかで身に付いた「先入観にとらわれない姿勢」が、帰国後の仕事の武器になっていると語る。






PROFILE

まつだ・こうすけ●1984年生まれ、千葉県出身。大学卒業後、空調機器メーカーのダイキン工業(株)に入社。営業職を7年間務めた後、2014年7月に青年海外協力隊員としてタンザニアに赴任(現職参加)。16年6月に帰国し、復職。18年10月、ダイキン工業が全額出資する地域販売会社のダイキンHVACソリューション北海道(株)に主任として出向し、現在に至る。

協力隊活動●マサシ県庁(ムトワラ州)の地方出先機関であるルクレディ郡事務所に配属され、ヒラタケ栽培や養鶏による住民の収入向上の支援に取り組んだ。右の写真は、ヒラタケの菌床(人工の培地)をつくる女性グループと、出荷できる状態になったヒラタケ。種菌を植え付けた菌床をビニール袋に詰め、湿度が高くて暗い部屋の中で育てる。

ダイキンHVACソリューション北海道株式会社

設立:1985年
従業員数:38人(2020年8月現在)
本社所在地:北海道札幌市
事業内容:空調機器等の販売・設備工事など


−−ダイキンHVACソリューション北海道株式会社(以下、「ダイキン北海道」)の概要についてお教えください。

ダイキンHVACソリューション北海道のショールームで

 エアコンメーカーのダイキン工業株式会社が持つ地域販売会社の1つです。ユーザーへの直接の販売ではなく、建設会社や設備会社、あるいはそれらに卸売をする商社への販売が主な事業です。私は2007年に新卒でダイキン工業に入社し、協力隊の任期を終えた2年後に「ダイキン北海道」に出向となりました。北海道は従来、エアコンの普及率が全国平均のわずか3分の1程度だったのですが、昨年あたりから急速に市場が拡大し始めており、「ダイキン北海道」はそうしたチャンスにどれだけシェアを伸ばせるか、踏ん張りどころとなっています。

−−現在担当されている業務は?

 エアコンの販売や設置工事を行う設備会社へのルート営業を担当しています。また、一般社員と管理職の中間にあたる「主任」という職責を与えられており、後輩社員たちをフォローすることも業務の1つとなっています。

−−協力隊に参加する以前はどのような業務を担当されていたのでしょうか。

 もっとも長く配属されていたのは、「ダイキン北海道」と同じダイキン工業の地域販売会社であるダイキンHVACソリューション東京の営業部門です。主に担当していたのは、エアコンの卸売りをする商社へのルート営業です。ユーザーではない顧客へのルート営業である点で、現在担当しているのと同種の業務です。

−−協力隊に参加する前と同種の業務に携わるなかで、協力隊の経験によってご自身の仕事の力に成長を感じることはありますか。

 私は協力隊経験によって、「先入観にとらわれてはいけない」と自戒する意識を強く持つようになりました。協力隊活動の1つとして、任地の市場で売られているのを見たことがなかった「きのこ」の生産・販売を、同僚のアイデアで農村部の女性グループに勧めることになったのですが、私は「商売として成り立つわけがないだろう」という先入観を持っていました。ところが、実際は大変な売り上げを出せるまでになった。そうした経験により、「先入観にとらわれていると、可能性を見誤る」と自戒するようになったのですが、それが帰国後の仕事にも生きていると感じています。例えば、もっぱら家庭用エアコンの小売りをしている会社に対し、業務用エアコンの販売にも手を広げてみたらどうかと「ダメ元」で提案してみたところ、「実はそういうニーズのあるお客さんがいる」と話が進んだこともあります。協力隊に参加する前なら、「この顧客が買ってくれるのは家庭用エアコン」という先入観に囚われて、「競合他社の製品と比べると、ダイキン工業の家庭用エアコンはここが優れている」「競合他社よりこれだけお安くご提供できる」といった営業トークに終始していたことだろうと思います。
 相手の背景に目を配る「視野の広さ」も、協力隊時代に養われ、今の仕事に生きているものだと感じています。協力隊時代に付き合うのは異文化社会の人たちですから、当初は彼らの行動に面食らう。例えば、特に親しくもない人からよく「お金をくれ」とせがまれたのですが、日本ではあり得ない行動であり、最初は嫌悪感ばかりでした。やがて、そう言ってくる人がたまたまお金を持ち合わせていなくて困っているのか、それとも解決できない経済的な事情からそう言ってくるのか、私は何もわかっていないことに気づく。そうして、「お金をくれ」とせがむ人の背景について、ほかのタンザニア人に尋ねるなどして正しい事情を探るようになりました。そうした経験を重ねたことで、今の仕事のなかでも、顧客の先にいる「ユーザー」にまで目を配り、多少のコストアップになってもユーザーのニーズに合致する製品の購入を提案するなどして、新たな取引が叶うといったこともあります。

−−今後の抱負をお聞かせください。

 北海道のエアコンの普及が急速に伸びているという「変化」の時期にあって、「ダイキン北海道」として重要なのは、先が読みきれないなかで果敢に手を打っていくことです。そうしたなかで私に果たし得る役目は、タンザニア人に学んだ「行動力」を発揮することだと考えています。きのこ栽培の着手をはじめ、彼らには「後先を考え過ぎず、果敢に行動する」という力があった。私は協力隊に参加する前は、「この仕事を提案しても、うまくいかなかったら上司に怒られるだろう。ならば提案は止めよう」と逃げることが多かった。しかし、協力隊経験によって「やってみてだめだったなら、怒られれば良い」と開き直る覚悟ができるようになりました。それを武器に、「前例」に頼らずに進まなければならない北海道での販売拡大に、果敢に挑む声がけ役になれればと思っています。

VOICE from the COMPANY
JICA海外協力隊経験をこう見る

ダイキンHVACソリューション北海道株式会社 取締役社長
中村明成さん

「話を聞く力」が仕事のベースに

「営業」の仕事は、商品の良さを流暢に語れる人が向いているように見えるかもしれませんが、実際は「話を聞く力」のほうが重要です。相手の言葉に耳を傾け、相手が言葉にしきれないニーズまで見極めたうえで、それに合った商品やサービスを提案する。そうすることで初めて相手の信頼を得ることができるからです。松田の営業成績が優れているのは、「話を聞く力」があることの証ですが、それが鍛えられたのは、協力隊の経験を通じてではないでしょうか。文化や考え方が日本人と異なる方々と共に働くためには、相手を理解することが何より重要になるはずだからです。
 松田は「主任」としての仕事でも、「話を聞く力」を発揮して若手社員との信頼関係を築き、積極的に彼らの面倒を見てくれています。いずれ管理職を務めるようになったときにも、やはり「話を聞く力」を武器に活躍してくれるだろうと期待しています。

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