私の引継書 〜未来の協力隊員へ〜

話=原 さつきさん(エチオピア・コミュニティ開発・2017年度3次隊)

PROFILE





1991年生まれ、埼玉県出身。埼玉大学教養学部卒。インターネット広告の営業に4年間携わった後、2018年1月に青年海外協力隊員としてエチオピアに赴任。20年1月に帰国。


エチオピアで普及が進められているタイプのロープポンプ

アレタウォンド郡では、衛生面での保護をされていない湧水を飲料水に使っている世帯がまだ多かった

同郡では、写真のような悪路を行かなければ水場に辿り着けないエリアも多い

活動の環境

【配属先の基礎情報】
名称:アレタウォンド郡 水・鉱物・エネルギー事務所(南部諸民族州水資源局の地方出先機関)
所在地:南部諸民族州シダマ県
管轄地域:アレタウォンド郡(人口約20万人)
職員数:約20人(所属した水部門は7人で、うち2人が給水ポンプの技術者)
所属した水部門の所管事業:灌漑用水や村落部の給水に関する事業

【「安全な水へのアクセス」の状況】
エチオピアにおける給水事業:エチオピア政府は、村落部の安全な水へのアクセスの改善を目的に、住民が自己負担で給水施設を設置・維持管理する「セルフサプライ」の拡大を進めており、南部諸民族州では水資源局がその所管部局となっていた。
ロープポンプとは?:ロープ、ピストン、ハンドルなどでつくる簡素で安価な浅井戸用の揚水装置。エチオピアでは、「セルフサプライ」の1つの方策としてその普及が進められていた。井戸の上部を塞ぐため、釣瓶で水を汲み上げる浅井戸と異なり、異物による井戸水の汚染を防ぐことができる。

ロープポンプを設置するために、既存の浅井戸にコンクリートの覆いをつくる様子

ロープポンプを設置した住民にロープポンプの使い方を説明する原さん(左端)

活動内容

 私に求められていた活動は、配属先の所管事業となっていた「ロープポンプの普及と維持管理支援」などをフォローすることでした。ロープポンプに関して配属先が担うことになっていたのは、具体的には主に次のような役目です。
(1)ロープポンプの新設を促すプロモーションを行う。
(2)設置を望む住民がいたら、民間の製造業者を手配する。普及促進のための特別措置として、配属先が部品の無償提供や、製造業者に払う料金の補助を行う。
(3)修理を望む住民がいたら、配属先の技術者が赴いて修理をする。ここでも普及促進のための特別措置として、必要な部品は配属先の提供、作業代は無料となっていた。
 私の着任当時、(1)〜(3)のいずれもが活発には行われていませんでした。しかも、そもそも管轄地域にどれくらいロープポンプのニーズがあるのかについて、配属先にはまとまったデータがありませんでした。そこで私は、管轄地域の村々を回り、次のような質問で給水状況の聞き取り調査を行いました。対象としたのは、約100人の住民です。
■「飲料水」をどのようなタイプの水場(湧水、井戸、水道など)から得ているか。
■水汲みの頻度、量、料金(水場の使用が有料の場合)。
■ポンプが付いていない浅井戸が家にあるか。
■いくらならロープポンプを買うか。
 この調査により、井戸や水道の水より安全性が低い湧水を飲料水に使っていると答えた人が5割に上るなど、郡内にロープポンプを普及させる必要性が確認できたほか、安全な水へのアクセスが特に悪く、ロープポンプを普及させる必要性が高いエリアがどこなのかも判明しました。そうした調査結果を配属先に示し、その了承を得ながらエリアを絞ったプロモーションに力を入れたところ、任期中に30台のロープポンプを新設することが叶いました。
 ロープポンプを新設した住民にその後、話を聞くと、「多少時間がかかっても、飲料水はやはり水道まで汲みに行っている」という人も多く、安全性についての理解を広めることが、ロープポンプ普及の課題なのだと感じました。

未来の協力隊員へ

 私の経験から協力隊員にとっての教訓だと感じていることの1つは、活動でかかわる人の自尊心を傷つけるような衝突は、できる限り避けたほうが良いということです。私は、ロープポンプのメンテナンスを担当していた配属先の技術者とそのような衝突をしてしまい、以後、共に活動することが難しくなるという経験をしました。彼は配属先にストックしてあるロープポンプの部品を管理する立場にあったのですが、おそらく管理がずさんなのだろうと見た私は、在庫を確認させてほしいと依頼しました。かたくなに断るため、何か不正があるのだろうと思ってきつい言い方で責め寄ったところ、関係が悪化。その後、修復を試みたものの、共にメンテナンスに赴くことなどは難しくなってしまいました。
 協力隊員にとっての教訓だと感じているもう1つのことは、「広い視野で協力者を探すことが重要」ということです。私は配属先の技術者との協働が難しくなったとき、一時は途方に暮れたのですが、やがて、配属先外の人や、ロープポンプにはかかわりのない配属先の同僚のなかに助っ人を見つけることができました。例えば、私の着任後に新卒で配属先にやってきた女性がその1人です。「私はまだ仕事がないから、一緒に何かやらせてほしい」と言う彼女に、給水状況に関する聞き取り調査や、学校を回って行った水衛生に関する啓発活動などに協力してもらうことができました。

知られざるストーリー