“失敗”から学ぶ

良いと思って始めた活動が、現地職員の仕事を奪ってしまった

文=玉田健一さん(タイ・青少年活動・2017年度2次隊)

任期終盤に配属先で人身取引被害者支援対策の分科会を行い、その中のイベントの1つとして入所者対象の腕相撲大会を開催。レフェリーをしているのが玉田さん

 赴任から半年が経った頃、配属先の料理担当職員であるNさんと衝突してしまった。きっかけは、Nさんの仕事である入所者の食事準備を、ほとんど私が担当するようになったことだ。私が料理をするようになると、興味本意からか、入所者も手伝ってくれるようになり、お互いの国の料理をつくって一緒に食べるなど、入所者との信頼関係も深まっていった。当初はNさんも、「ケン(私の呼称)が来てから楽になった」と上機嫌だった。
 しかし、次第に入所者はNさんの料理を食べなくなっていった。私は他の活動もあり、毎日は食事準備ができなかった。そんな中、センター長が入所者に、「なぜNがつくった食事を食べないのか」と尋ねたところ、返答は「あいつの飯はまずい!」の一言。実際には食事以外の不満もあっての返答だったのだろうが、普段入所者と接する機会がないセンター長は、Nさんに問題があると判断し、Nさんにきつく当たるようになった。上下関係が非常に厳しいタイ社会において、この圧力はNさんを精神的に追い込むことになった。
 そして、ある日Nさんから唐突に「ケンはもう料理にはかかわらないで」と言われた。私はすんなり受け入れることができず、「かかわらないことは約束するが、入所者の健康のことを考えて料理をしてほしい」と言ったところ、Nさんも反発し、収拾がつかない状態になった。そこへ、仲介に入ってくれたカウンターパート(以下、CP)がこう言った。
「ケンの考えや活動はすごく良い。でも、それによって職員が困るなら、それはボランティアにはならないんじゃないか」
 その通りだった。もともと私が入所者の料理をつくるようになったのは、栄養面も味も考えていないNさんの料理が私にはあまりにも投げやりに見え、入所者のために改善しなければと思ったからである。しかし、当初うまくいったかに思えた活動が、結果としてNさんの仕事を奪ってしまったのだ。
 CPのこの言葉によって、私は素直に謝ることができ、その後の方針については、Nさんが食材を準備して、料理は入所者がつくり、私が料理の助言をするということに落ち着いた。たとえ歓迎されても、自分がやった方がうまくできても、現地の人の仕事を奪ってはいけない。私はこのとき、それを身をもって学んだ。

隊員自身の振り返り

全ては人間関係だと思います。Nさんとは、まだ人間関係を構築できていない時期に活動を始めたので、その後はNさんが主導の活動となるよう、積極的にコミュニケーションをとるべきでした。逆にCPとは、この時点ですでにお互い踏み込んで話せるくらいの人間関係ができていたと思います。赴任当日から毎晩の食事の誘いは体力的にきつかったですが、まずは人間関係からと考え、断りませんでした。共有した時間の長さというのは、かけがえのないものだと思います。その信頼関係があったからこそ、彼は私にはっきりと意見を言うことができ、私もそれを受け入れることができました。CPはその後も、良き友人として、良き兄貴分として、良きアドバイザーとして2年間、私を支えてくれました。

他隊員の分析

関係づくりに時間をかけることも活動のひとつ

 限られた期間の活動では勇み足になり、かえって配属先に混乱や衝突を生んでしまうことは良くあることだと思います。私も似たような経験がありました。2年間を振り返ってみると、ゆっくりと関係づくりに時間をかけるのも大切な活動のひとつだと感じました。そのため、何か新しい行動を起こす前には現場の状況をよく観察・分析し、自分がやるべきことを焦らずじっくり考え、その間に積極的に同僚との関係づくりの時間を取っていれば、衝突を生む可能性は低くなるのではないかと思います。
文=協力隊経験者
●アジア・青少年活動・2016年度派遣
●取り組んだ活動
子ども文化センターにて青少年向けの活動の提供として日本語や日本文化紹介のクラス、英語クラス、対外活動のコーディネーションなどを行った。また、施設運営の改善補助なども担当した。

自分は2年でいなくなる存在

 現地の職員を見て「私の方がうまくできる」「私の方が子どもたちと関係を築けている」と思ってしまうことは、誰にでもあるのではないでしょうか。私にも失敗があります。私はそんなとき、「自分は2年でいなくなる存在だ」と自分に言い聞かせるようにしました。将来子どもが困ったときに頼りにするのは、海外にいる自分ではなく、現地の職員や地域の人です。大切なのは何をするかではなく何を残せるか、そう考えると隊員は黒子として現地職員と子どもが良い関係性を築くためのサポートに徹するのもひとつの活動方法かもしれません。
文=協力隊経験者
●中南米・青少年活動・2016年度派遣
●取り組んだ活動
被虐待や非行などの経験を持つ10代少女のための自立支援施設にて、学習や課外活動の支援を行った。

玉田さん基礎情報





【PROFILE】
1989年生まれ、兵庫県出身。大学卒業後、警察官として勤務する中で、家庭環境に恵まれないがゆえに、非行に染まる少年の境遇に胸を打たれる。約3年間勤務したのちに退職し、フィリピンへの語学留学などを経て、2017年9月、青年海外協力隊員としてタイに赴任。19年9月に帰国し、現在は、JICA二本松訓練所に勤務。

【活動概要】
男性人身取引被害者のシェルターに配属され、主に以下の活動を行う。
●被害者のストレス緩和を目的とし、ボクシング、アートセラピー、料理、魚釣りなど、特技を生かした幅広いアクティビティ
●被害者の出所後の就職支援を目的とした英会話指導 など

知られざるストーリー