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サッカーを軸に子どもたちの未来をつくる

土屋雅人さん(サモア・サッカー・2015年度4次隊)
SOLTILO株式会社 AFRICA DREAM SOCCER TOUR コーチ

「サッカーを通じて夢を持つことの大切さを伝えたい」という想いのもと始まったSOLTILO FAMILIA SOCCER SCHOOL。青年海外協力隊経験者の土屋雅人さんは、このスクールのアフリカ地域を担当し、子どもたちにサッカー指導やサッカー以外の才能育成の機会の提供をしている。

ウガンダでサッカーの指導をする土屋さん。現地で提携しているクラブの手伝いやコーチとの意見・情報交換もしており、入団を勝ち取った子どもたちを見守り続ける。SOLTILOはウガンダでプロサッカークラブも経営しており、いつかサッカースクールからプロ選手を輩出することも目標のひとつだ

海を見るのが初めてで、ペットボトルに海水を入れて、家族へのお土産とする子どもたち

 サッカー選手の本田圭佑氏がプロデュースするサッカースクールを始め、国内のスポーツ施設運営事業や、海外プロサッカークラブ運営事業を行うSOLTILO(ソルティーロ)株式会社。サッカースクールは、日本国内に61校、海外に8校あり、アフリカの3カ国では社会貢献活動として無償で子どもたちにサッカーを教えている。このアフリカでの活動を担当するのが、サモアでサッカー隊員として活動した土屋さんだ。

「家庭の事情でスクールにお金を払えないなど、サッカーをする機会に恵まれない子どもたちを対象にサッカーを教えています」

 無償でのサッカー教室以外に、現地のエリートサッカーアカデミーに入団できた子どもには、月謝や交通費を一部負担し、サッカー選手を本気で目指す機会の創出に加え、サッカー以外の才能を育成する機会も提供している。「スラムで生まれた子はスラムで死ぬ」という言葉を土屋さんは以前聞いたという。生まれた場所から出られず、職業の選択肢があることを知らないまま一生を終えてしまうのだ。

「サッカー教室に来る子は、みんなサッカーが大好き。将来の夢は?と聞けばサッカー選手と答える子が多い。でも職業体験に行った後に聞くと『プログラマーになりたい』と言うこともありますし、夢の選択肢が増えると人生の幅が広がるのではないかと思います」

 現在はスポーツを通した社会貢献活動に携わっているが、隊員時代は「スポーツと国際協力」について考えたことはなかったという。

「どうしたらサモアでサッカーを普及できるのか、ということばかりを考えていました」

 学校におけるサッカー教室の実施を協力隊活動の柱にしていた土屋さんは、任期満了時には週に10校でサッカー教室を実施できるほど普及に成功した。挫折を味わったのは帰国1カ月後。現地に連絡すると実施しているのは2校だけだと伝えられる。

「私がやりたいことに現地の人が協力してくれただけで、何の役にも立てなかったのです」

 その後、JICAの国際協力推進員(*)として働き、協力隊事業のことを話すことが増え、初めて「スポーツと国際協力」の勉強をした。そこで知ったのは、スポーツが持つ人と人をつなぐ力を活用することで、女性や障がい者など弱い立場の人たちが社会に出るきっかけとなったり、対立する民族同士が融和する潤滑油となったりするかもしれないということ。サッカーと国際協力、この2つで再チャレンジしたいと思い、次の仕事に選んだのがSOLTILOだ。

「サッカーをツールに社会課題にどうインパクトを与えられるか、協力隊時代はその視点が欠けていたということを学びました」

 以前、SOLTILOで海の仕事を知る社会科見学として、ケニアの子どもたちを港湾に連れて行ったときのこと。初めて海を見る子も多く、両親のお土産にと海水を入れたペットボトルを抱えて目をキラキラさせる子や、海を見て「海の力強さに感動した、大きなコンテナ船を支える海の力に」という少年がいた。

「そんな発想ができる子どもたちと接していると、私自身が知らぬ間に忘れてしまった大切なものを思い出させてもらっているような感覚になります。彼らの世界が広がる瞬間に出会うと、私にも発見があるんです」

 アフリカでの活動はパートナー企業から資金などのサポートがあって成り立つ。支援をいただいて終わりではなく、今後は可能な限りパートナー企業の方に子どもたちの世界が広がる様子を「自分ゴト」として捉えてもらえる機会をつくり、一緒に子どもたちの背中を押していきたい、土屋さんはそう考えている。

* 国際協力推進員…「地域のJICA窓口」として、JICAの国際協力事業の支援や広報啓発活動事業の推進、地方自治体が行う国際協力事業との連携促進などを担当する。

[プロフィール]

1989年生まれ、埼玉県出身。日本大学卒業後、メーカー勤務を経て、2016年に青年海外協力隊員としてサモアに赴任。サモアサッカー協会の一員として強化・普及活動を行う。帰国後は、埼玉県国際協力推進員、ラグビーワールドカップ2019サモア代表リエゾンオフィサーを務めた後、現職。ケニア・ルワンダ・ウガンダの3カ国でサッカーを通じた社会貢献活動に従事している。

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