ゴミに対する住民の意識の向上を目的とした活動に取り組んだ清水さん。活動のヒントを「外」に求めたところ、ペットボトルでピアスを製作し、マーケットの買い物客に販売する活動などへと幅を広げることができた。
【PROFILE】
1987年生まれ、静岡県出身。保険や雑誌広告の営業職を経て、2017年3月、青年海外協力隊員としてソロモンに赴任。19年3月に帰国。
【活動概要】
イザベル州政府の環境保全課(同州ブアラ)に配属され、ゴミに関する主に以下の活動に従事。
●3Rについて伝える講習の実施
●ペットボトルやプラスチックゴミを再利用した雑貨の製作・販売による3Rの啓発
清水さんの配属先は、首都からプロペラ機で40分ほどの距離にあるイザベル州の州政府環境保全課。自然環境の保護、ゴミの管理、環境に関する住民への啓発などを所管する部署だ。唯一の同僚の専門は、自然環境の保護など「グリーン系」と呼ばれる領域。同州はウミガメの産卵場所がある自然保護区を有しており、彼はその管理などで手一杯だった。そうしたなかで清水さんに期待されていたのは、3R(*)の推進など「ブラウン系」と呼ばれる領域に関する啓発活動の活性化だ。
* 3R…ゴミの減量(Reduce)、再利用(Reuse)、再資源化(Recycle)により、環境への負荷を抑えること。
配属先の庁舎や清水さんの住まいがあったのは、州都ブアラ。長さが150キロほどの細長いサンタイザベル島に位置していた。道路網の整備が進んでおらず、島内の他地域に行くのにもボートを使うのが通常だった。しかし、配属先には当時、ほとんど予算がなかったにもかかわらず、ガソリン代が他州に比べても高く、1リットルあたり300円近くにのぼった。そのため、ボートを利用するのは複数の職員で出張する際に限られ、啓発活動のために清水さんが単独で利用することなどはできなかった。
そうしたなかで清水さんは、任期の前半、「他部署が出張でボートを使う際に便乗させてもらう」という方法で州内各地を回り、ゴミに関する講習会を開いた。日頃から、休憩時間などを利用して他部署を訪ねては、「今、どのような仕事をしているのですか?」などと探りを入れる。「先週はうちの部署で●●に出張に行った」などと聞くと、「私も行きたかったです」とアピール。すると次第に、「来週、うちの部署で出張に行くけれど、一緒に行く?」と誘ってもらえるようになっていった。
例えば、女性支援を行う部署の出張に同行したら、集まった支援対象の女性たちを相手に、風呂敷包みの仕方やエコバッグのつくり方の講習を行う。観光に関する事業を行う部署によるクルーズ船の停泊予定地への出張に同行したら、「外国の人に良い印象を持ってもらえるよう、ゴミのポイ捨てやはめましょう」と呼びかける講習を行う。そんな「便乗商法」を続けたが、他部署の出張は頻繁にあるわけではなく、暇を持て余す時間も多かった。そんなときは、徒歩で行ける地域に出向いてゴミ拾いに勤しんだが、「協力隊らしい活動ができていない」との悩みは深まっていった。
状況が好転するきっかけとなったのは、「活動の滞りを打開したい」と藁にもすがる思いで「外」に目を向けたことだった。その1つが、環境教育隊員たちによる「分科会活動」である。当時、ソロモンでは複数の環境教育隊員が活動していたことから、情報やアイデアを交換し合うことを彼らに提案したところ、受け入れてもらえた。開いた分科会では、「任地」「配属先」「自分自身」「協力者」のそれぞれについて状況を整理する分析シートに各隊員が記入したうえで、それをもとに以後の活動に関する意見を交換。すると、シートの記載には1人だけ突出した違いがあった。「協力者」の欄に書かれた人や団体の数が、ずば抜けて多かったのだ。その隊員はゴミに関する啓発の一環として、プラスチックゴミを再利用してポーチをつくる活動に取り組んでおり、それがうまく回っていることは清水さんも知っていた。その成因は「協力者」の獲得にあったのだろうと考えた清水さんは、「便乗商法」を脱しようと決意。ボートを使わずに行ける近所のマーケットなどにこまめに足を運び、そこで住民とのつながりを広げ、何かしらの活動を展開しようと考えるようになった。
目を向けたもう1つの「外」は、「盗めるものがあれば盗んで帰りたい」という思いで訪れた隣国のバヌアツだ。同国で活動する環境教育隊員に依頼し、活動現場やゴミ処理場などを見学させてもらった。その滞在中に、ジュースの瓶の破片でつくったネックレスが土産物店で売られているのを目にする。デザインが魅力的で、「売れるはず」と直感した。
以上の2つの刺激から、清水さんが任期の半ば過ぎに新たに取り組むことにしたのは、ゴミを再利用したアクセサリーをつくり、徒歩で行けるマーケットなどで買い物客に販売する活動だ。素材として選択したのは「ペットボトル」。首都には資源ゴミとして有料で買い取る業者もあったが、アルミ缶やビンと比べて買い取り価格が低いため、分別回収は進んでおらず、ポイ捨てが多かった。
製作したのは「ピアス」だ。ペットボトルを同じサイズに切り分けて、アクリル絵の具で柄を描き、マニュキュアでコーティングする。そうして製作したピアスをマーケットに持ち込んでは、ひと休みしている買い物客などに勧めてみた。すると、すぐさま買い手は広がった。買った人はたいてい、その場で耳に付ける。するとそれが広告塔となり、「私もあのピアスを買いたい」と清水さんのもとを訪ねてくる人が次々に現れるようになったのだ。清水さんの任地で売られているのはシンプルな輸入品ばかりだったため、清水さんのデザインは目新しく、受け入れられたのだった。ピアスを売る際、清水さんは「これはペットボトルを再利用してつくったものです。ゴミは生まれ変わることができます」と伝えた。
そうして任期中に製作、販売したピアスは400個あまりにのぼる。価格は左右のぺアを70~150円程度に設定。その売り上げで啓発イベントを実施したほか、小さなゴミかごを約70個購入し、任地の小学校11校と幼稚園2園に寄贈した。従来、数百人の児童がいるような学校でも校内には大きなゴミ箱が1つしかなく、教室の窓から外にゴミをポイ捨てしているような状態だったからだ。この寄贈の話題は地元の新聞でも取り上げられた。
あるとき、清水さんがマーケットでいつものようにピアスを売っていると、常連客が友人を連れてやって来た。「このピアスの素材は何?」と尋ねる友人に対し、常連客は「ペットボトルよ。この日本人女性はゴミの問題を解決するための活動をしているの」と、清水さんが伝えたいことを代弁。ピアスの販売を通じて、住民に意識の変化を生むことができているのだと確認できた瞬間だった。
州都ブアラがある主島の船着場。同島から首都へはプロペラ機で約40分、船ならその規模により8~24時間ほどかかる
現地の祭りで古来の民族衣装をまとった住民と
イザベル州政府が出張で使うために持つモーターボート