高齢者への健康支援に取り組む
国際協力活動をスタート

國谷昇平さん(タイ・作業療法士・2015年度1次隊)
NPO法人 Rehab-Care for ASIA 理事長

協力隊時代、高齢者の介護予防を目的としたデイケアセンターの設立に尽力した國谷さん。その支援を継続し、かつアジアの他の国にも同種の活動を展開すべく、帰国後、保健・医療分野の専門性を持つ仲間と共にNPO法人を立ち上げた。






PROFILE

くにや・しょうへい●1982年生まれ、埼玉県出身。大学と専門学校を卒業した後、作業療法士として病院に6年間勤務。2015年6月、青年海外協力隊員としてタイに赴任。17年6月に帰国。日本で非常勤職員や個人事業主として訪問リハビリなどの仕事を掛け持つかたわら、18年4月、アジアの国々で高齢者への健康支援を行うNPO法人「Rehab-Care for ASIA」を設立し、理事長に就任。

協力隊活動●配属先は、タイ・ラーチャブリー県ポータラーム郡の総合病院。リハビリを受けるために入院できる期間は1カ月程度に限られていたため、脳卒中などで四肢に障害を負った高齢者が、「座る」「歩く」などの機能を回復する前に自宅に戻らざるを得ず、結果、寝たきりになってしまうケースが多かった。國谷さんはそうした患者の自宅を回り、家族に支援の方法をアドバイスする一方、リハビリが必要な高齢者が通って機能回復に向けた運動ができるデイケアセンターの立ち上げに奔走した。写真は、寝たきりになっている高齢者の家を訪問する協力隊時代の國谷さん。

NPO法人 Rehab-Care for ASIA

設立:2018年
会員数:10人
事務所所在地:京都府
事業対象国:インドネシア、タイ、マレーシア、ミャンマー
事業内容:高齢者の健康支援


ReCAの活動として、タイのデイケアセンターでボランティアスタッフたちにリハビリ技術の研修をする國谷さん(中央)

タイの活動サイトの保健行政機関やボランティア団体とMOUを結んだ際の調印式の様子

新たなデイケアセンターの設立に向け、タイの首都バンコクの保健所で聞き取りを行う國谷さん(右から2人目)


−−「Rehab - Care for ASIA」(以下、ReCA〈レカ〉)の事業の概要をお教えください。

 アジアの国々で高齢者の健康支援に取り組んでいる団体です。タイでの活動からスタートし、マレーシア、インドネシア、ミャンマーへと対象国を広げてきました。これらの国々では高齢化が進みつつあるのですが、リハビリや介護の仕組みがまだ整っておらず、四肢に障害を負った高齢者が自宅で寝たきりとなり、家族が介護に大変な苦労をしなければならないというような状況にあります。そうしたなか、高齢者を対象としたデイケアや訪問リハビリの拡充を目指し、リハビリの専門性を持たない現地の方々にリハビリや介護、栄養に関する研修を行うなどの活動を進めています。

−−事業の実施体制は?

 設立時に団体のコンセプトの1つとしたのは、アジアで高齢者の健康支援に取り組みたい人たちの「プラットフォーム」となることでした。ある国のことを良く知るメンバー(※)がそれぞれ主体となり、その国における問題を分析し、解決に向けたプロジェクトの計画を立て、実行していく。そのうえで、メンバーが各国の情報を交換し、知識を深め合ったり、助成金申請の作成で協力し合ったりする。そうした形で活動を進めており、前述の4カ国のプロジェクトのうちの3つは、それぞれの国で作業療法士隊員や看護師隊員として活動した協力隊経験者がリーダーを務めています。
 ReCAのもう1つのコンセプトとしているのは、メンバーはみなほかに本業を持ちながら、「2枚目の名刺」として活動に携わるというものです。そのなかで、徹底して現地の人が求めていることだけを厳選し、実行する。実際、各プロジェクトのリーダーはみな、日本でほかの仕事を持ちながら、年に数回程度の現場訪問とSNSの活用によって、可能な範囲で活動を進めています。

※ ReCAのメンバーの詳細はウェブサイト内で紹介されています。

−−設立のきっかけは?

 私は協力隊時代、リハビリが必要だけれども、リハビリが受けられる病院が遠く、通うのが困難な高齢者のお宅を500軒ほど回り、家族に対して支援のアドバイスなどを行いました。そうした活動を通してわかったのは、リハビリが受けられないばかりに容易に寝たきりになってしまうケースが多いことです。そこで行政と掛け合うなどしたところ、任期の終盤、役所の空室を「デイケアセンター」とし、高齢者が介護予防のために体を動かす機会をつくるプログラムが始まりました。そこで働くのは、リハビリや介護の専門性を持たないボランティアなのですが、彼らに技術を十分に伝えられないまま、任期が終了となってしまいました。必死に動き、設立が実現したそのデイケアセンターの持続に、帰国後もなんとか力になりたいと思ったのが、ReCA設立の端緒です。最初の活動は、そのデイケアセンターのスタッフを対象に研修を行うことでした。
 自ら地域の高齢者の問題を探り出し、デイケアセンター設立という解決策を考案、実行するという、「自分で考え、自分で行動する」経験を協力隊時代にできたからこそ、既存の団体に所属するのではなく、自ら団体を立ち上げて国際協力活動を続けるという発想ができたのだろうと感じています。

−−帰国後にデイケアセンターを支援する方法には、「個人として行う」「ビジネスとして行う」などさまざまな選択肢があったかと思います。「NPO法人」として取り組むことを選択したのは、どのような理由からでしょうか。

 帰国後に協力隊活動から一歩先に踏み出すならば、自分の派遣国であるタイ以外でも行いたいという思いがありました。そうして手を広げるとなると、私1人の力では無理なので、仲間を集めて団体として取り組むしかない。しかし、「株式会社」などを立ち上げ、ビジネスとして実践するのは難しいと判断しました。第一に、私自身にビジネスのノウハウがなかったからです。また、アジアの国々では「介護保険」の制度などはまだなく、リハビリや介護が必要な高齢者は経済的な余裕がある人ばかりではないので、運営資金は寄付や助成金に頼らざるを得ないからです。NPOの法人格を取ることにしたのは、日本で寄付や助成金を得るうえでも、現地の関係者から信用を得るうえでも、有益だと考えたからです。実際、これまで日本国内でプロジェクトごとに助成金をいただくことができていますし、タイのプロジェクトでは対象サイトの保健行政機関と公式のMOU(合意書)を結び、新たなデイケアセンターの場所の確保や、ReCAの活動に必要な実費の負担などの確約を取り付けることができています。

−−今後、ReCAをどのような方向に進めていきたいとお考えですか。

 タイでReCAがかかわっているデイケアセンターのボランティアスタッフたちは、「給料が払われることになったら、お金のために動くようになるから嫌だ」とおっしゃいます。私の協力隊の2年間は、そうした「地域の困っている人のために役に立ちたい」という方々と巡り合うための旅だったと感じています。アジアの各国に必ずやいるそうした方々をさらに発掘し、そのサポートをしていきたいと考えています。

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