ツアーコーディネートなどを行う会社を現地に設立

浅野拳史さん(ルワンダ・理科教育・2015年度1次隊)
YAMBI CONNECT LLC. CEO

協力隊時代、理科教育隊員としての活動のかたわら、他隊員の任地を精力的に回り、国内各地の情報や人脈を蓄えた浅野さん。任期終了後、それらを生かして日本人相手にツアーのコーディネートなどを行う会社を現地に設立。協力隊時代の教え子などと共に働いている。






PROFILE

あさの・けんし●1990年生まれ。静岡県出身。大学卒業後、2015年7月に青年海外協力隊員としてルワンダに赴任。17年6月に帰国。18年、日本人を対象としたツアーコーディネートや、現地の人を対象とした日本語教室の運営などを行う「YAMBI CONNECT LLC.」をルワンダに設立。

協力隊活動●首都キガリ市にあるブサンザ小・中等学校に配属され、物理実験のサポート、英語教育、日本と交流するプログラムの実施などに取り組んだ。村落部には学校に通っていない子どもも多かったことから、そうした子どもたちに理科実験を体験してもらうため、配属先の教え子や他の協力隊員と共に村落部に赴くこともあった。写真は、配属先で静電気の実験を行ったときの様子。

YAMBI CONNECT LLC.

設立:2018年
社員数:4人
本社所在地:ルワンダ
事業内容:スタディツアーや視察ツアーなどのコーディネート、日本語教室の運営


スタディツアーに参加した日本の高校生たちと、視察の受け入れ先の1つとなった幼稚園の園児や教員たち

日本語教室の様子。留学や仕事で日本語を使うために学びに来るケースが多いが、なかには「アニメおたく」もいる

日本語教室の生徒たちを集めて開いたカレーパーティー。普段は別々のコマで受講している生徒たちが交流できる機会として、こうしたイベントを時折催している


−−YAMBI CONNECT LLC.(以下、ヤンビー社)の事業の概要をお教えください。

 売り上げの面で事業の柱となっているのは、観光以外の目的でルワンダに来る日本人を対象としたツアーのコーディネートです。具体的には、高校生や大学生のスタディツアー、大学や企業による現地調査、CM撮影などについて、訪問先の選択、受け入れに関する訪問先との交渉や調整などを請け負っています。2018年の設立以来、およそ延べ100人の訪問客の受け入れをお手伝いしました。もう1つの事業として、規模は小さいのですが「日本語教室」の運営も行っています。コロナ禍以前は現地に物件を借りて10人ほどの生徒を対象に教室を開いていたのですが、コロナ禍に入ってからは、日本からオンラインで生徒への授業を継続しています。

−−事業の実施体制は?

 どのような事業を行うかは私自身が決め、その実務はルワンダ人と日本人のスタッフにお願いしています。ヤンビー社の立ち上げ以来、戦力となってもらっているルワンダ人は、協力隊時代に縁があった2人です。1人は私の教え子だった青年で、私の協力隊活動を何かと手伝ってくれ、信頼を置いていたことから、ツアーのコーディネートを請け負う際に、お客様のアテンドなどを担当してもらっています。もう1人は、世界銀行の奨学金で日本に留学し、修士号も取得しているITエンジニア(以下、Aさん)です。協力隊時代に偶然の縁で友人となったのですが、ほかにITエンジニアとしての仕事をこなすかたわら、ヤンビー社でツアーの企画、訪問先とのやりとり、会計などを担ってもらっています。
 日本語教室に関しては、コロナ禍以前はヤンビー社の趣旨に賛同してくれた協力隊経験者の女性に教員を務めてもらっていました。コロナ禍以降、彼女は日本で就職したので、替わって日本で日本語教育に携わっている男性にオンラインでの授業をお願いしています。スタッフには、それぞれの業務量に応じた賃金をお支払いしています。
 私は当初、現地に張り付いていたのですが、静岡県の企業から「地域づくりの仕事を手伝ってほしい」と依頼を受けたため、19年からは両国に住まいを持ち、行き来しながら兼業しています。

−−ヤンビー社設立に至った経緯をお教えください。

 帰国を迎える時期になり、Aさんを含め、「一緒に仕事をしよう」と言ってくれるルワンダ人の仲間がいたのが大きかったです。自分の力でお金を稼げるのは誰にとってもうれしいことだと思いますが、そんなうれしいことをルワンダの人たちとチームを組んでやっていくのは楽しそうだと思い、現地で起業することにしました。私は協力隊時代にかなり精力的に他隊員の任地を回り、ルワンダ各地の情報やルワンダ人との人脈を蓄えていたうえ、現地語の勉強も相当力を入れてきたので、そうした財産を活用できるものとして、まずはツアーのコーディネートから事業をスタートさせました。

−−語学力や人脈以外に、協力隊経験で得たものが生きていると感じる点は?

 高校生のスタディツアーでは、ルワンダの良い面も悪い面も両方知ってもらえるプログラムになるよう努めているのですが、それは協力隊経験があるからこその発想ではないかと思います。私は協力隊員として赴任した当初、人の目など気にせず自分がやりたいことを楽しむルワンダ人の姿に「自分も見習いたい」と感銘することが多かったのですが、やがて活動や生活でかかわりが密になるのに伴い、「約束を守らない」など、彼らに腹が立つことも多くなっていきました。そうしてルワンダ人の良い面も悪い面も両方知ったことで、それらと比較しながら日本を振り返ったときに、やはり日本の良い面と悪い面の両方を再認識することができた。そういう経験を日本の子どもたちにもさせてあげたいとの思いで、ツアーを企画しています。
 具体的には、5日ほどかけて現地の高校生たちと共に「劇」や「大きな絵」を制作するアクティビティをツアーに取り入れています。そうした「協働」を通して、「集合時間に遅れる」「『これを準備しておく』という約束を破る」「ボールペンを盗む」といったルワンダの高校生たちの「悪い面」が見えてくる。しかしその一方で、悩んでいるときに底抜けの明るさで「大丈夫だ」と励ましてくれるなど、彼らの「良い面」も実感できる。そのため、参加する日本の高校生たちにとっては、心が震えるような経験になっているようです。

−−今後、ビジネスをどのような方向に展開していきたいと考えていますか。

 ツアーのコーディネートに関しては、ルワンダはアフリカのなかでも比較的安全な国なので、言わば「アフリカの入門編」として、日本の中学生や小学生などにもスタディツアーに参加してもらえるようになればという思いがあります。一方、教育に関しては、「日本語」だけに留まらず、公用語だけれども苦手なルワンダ人も多い「英語」、さらには「プログラミング」など職につながる技能などへと、内容の幅を広げていければと考えています。

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