現地のコンサルティング会社で、
日本企業の進出などをサポート

福嶋祐子さん(バングラデシュ・小学校教育・2014年度2次隊)
NewVision Solutions Ltd. 社員

協力隊時代、初等教育の質向上の支援に取り組んだ福嶋さん。任期終了後は再び派遣国に赴き、現地のコンサルティング会社の社員として、日本の企業や公的機関を派遣国につなぐ事業に携わっている。






PROFILE

ふくしま・ゆうこ●1990年生まれ、東京都出身。大学卒業後、小学校で教員として勤務。2014年10月、青年海外協力隊員としてバングラデシュに赴任。16年7月に帰国。17年1月、同国にあるコンサルティング会社「NewVision Solutions Ltd.」に就職。

協力隊活動●福嶋さんは協力隊時代、政情不安により任期半ばで任地を変更。後半の活動先は、幼稚園から高校までを擁するNGO校で、初等教育部門の質向上に向けた活動に取り組んだ。写真は、活動先の学校で算数の授業を実践する福嶋さん。授業実践のほか、校内の美化の推進などにも取り組んだ。

NewVision Solutions Ltd.

設立:2008年
社員数:23人
本社所在地:バングラデシュの首都ダッカ
事業内容:国内外の企業、公的機関などへのコンサルティング


ニュービジョン社の同僚たちと。前列右端が福嶋さん

日系企業が実施する現地市場調査をサポートする福嶋さん

福嶋さんはニュービジョン社の仕事のかたわら、バングラデシュ人がつくった「わらじ」を日本で販売する日本の学生団体の活動にも協力している


−−NewVision Solutions Ltd. (以下、ニュービジョン社)の事業の概要をお教えください。

 バングラデシュの首都ダッカにあるコンサルティング会社で、国内外の企業や公的機関から市場調査やビジネスサポートなどを請け負っています。二十数人いる社員のなかで日本人は私だけなのですが、当社を立ち上げた現会長が以前、日系企業の合弁会社の社長を務めていたことから、日本の企業や公的機関からいただく仕事が多くを占めています。

−−福嶋さんは主にどのような業務を担当しているのでしょうか。

 ビジネスサポートを行う部署に配属され、日本のクライアントの案件を担当しています。例えば、民間企業が自社製品を売るためにバングラデシュに法人を設立する場合には、事前の市場調査、現地で法人をつくるための法的な手続き、パートナーとする現地企業の信用調査などをお手伝いすることになります。市場調査や信用調査などはその専門性を持った社員に依頼することになるのですが、そこから上がってきた結果をもとに、バングラデシュに進出するとなった場合の可能性や課題を整理し、伝えるのが私の役割です。

−−派遣前の仕事も協力隊時代の活動も「教育分野」ですが、なぜコンサルティングの仕事を選んだのでしょうか。

 協力隊の任期終盤、当時当社で働いていた日本人の方(以下、Aさん)に「入社しないか」と誘われたのがきっかけでした。私はそれまでの自分の協力隊活動について、「何でもしてあげたい」という思いが強いあまり、現地の人たちがこちらに依存するような関係性を築いてしまったという反省がありました。その償いの気持ちも込めて、帰国後は「支援する側とされる側」ではない「対等の立場」でかかわりたいと考えるようになっていました。そのことをAさんにお話ししたところ、任期終了後にニュービジョン社で働くことを勧められました。幼い頃からの夢を叶えたいとの思いから、日本でまた教員として働くことも考えたのですが、母校の大学の理事長に「日本で教員になる人はいくらでもいるけれども、バングラデシュで思いを持って働けるのはあなたしかいない」と背中を押され、就職を決意するに至りました。

−−現地の人との関係性について、協力隊時代と異なると感じる点は?

 同僚たちと私は、ニュービジョン社の事業を継続・発展させるという同じ目標に向け、同じ一社員として働く対等な立場です。そのため、互いに「こうすべきではないか?」という意見をぶつけ合い、それに応え合うことができます。例えば、自社製の食品をバングラデシュで売ることを考えている日系企業から「ヒットする可能性を知りたい」といった依頼を受けた際に、調査を依頼した同僚が「ほかの企業の同種の食品はこんなふうに売れている」という結果を出してきた。そこで私は、「市場の新たな可能性がわかるよう、現地の人たちがどんな食品をどんな理由で選んでいるのか、具体的な消費行動を調査すべきではないか」と提案しました。それに対し、同僚はがんばって応えようとする。そうした双方向のやり取りは、協力隊時代の同僚とはなかなか経験できなかったものであり、対等の立場にあるからこそ見せてもらえる素敵な姿だろうと感じています。

−−協力隊経験が現在の仕事の糧になっていると感じている点は?

「現地の人が見ている世界」を見ようとする姿勢が協力隊時代にできていたことが、今の仕事で私の強みの1つになっている気がします。例えば、彼らは「この日までにこれをやる」といった「約束」を守らないことが多い。私は協力隊員として赴任した当初、「怠惰だ」と感じたのですが、彼らの話を聞くうちに、そうではないことがわかってきた。約束をした後に舞い込んできたより優先すべき仕事に時間を割くなどしているのであり、「約束をした後に状況は変わるもの」「約束に必ずしも縛られるべきでない」と考えていることもあったのです。今の仕事で日系企業の方から「彼らは楽をしたいのですか?」と尋ねられることがあります。そうした場面で私は、「楽をしたいわけではなく、一生懸命働いているうちに納期を過ぎてしまうことが一般的にあるのです」と説明する。その一方で、日系企業の方が迷惑することもわかるので、現地の人に約束の遵守を促す働きかけもする。そうして両者の「橋渡し」ができるのは、協力隊経験があるからだろうと思います。

−−今後の抱負をお聞かせください。

 バングラデシュは人口が日本よりも多く、その半分が25歳以下という若い国です。消費の面でも労働力の面でも、潜在力が高い。しかも、インドと中華人民共和国の間にあるという地理的条件から、両国と共に経済が発展することも期待されており、過去10年間の経済成長率は7パーセントを記録しています。また、独学で技術を身に付け、米国などからオフショア開発の仕事を受けているIT部門のフリーランサーが非常に多いなど、「たくましさ」も持っています。そうした国と日本を対等につなぐのは素敵だなと感じながら、コンサルティングの技術をさらに磨き、自分の業務の質を高めていきたいと考えています。

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