“失敗”から学ぶ

計画に対するリスク管理が不足し、予定していた活動を実施できなかった

文=村田真奈美さん(ソロモン・理学療法士・2017年度3次隊)

腰痛や膝関節痛で生活に制限を来たす人が多いことに気づいた村田さんは、他任地の理学療法士隊員と協働して現地の人に向けて「腰痛・膝関節痛予防のワークショップ」を実施した

 私の任地は僻地にあるテモツ州で、隊員の派遣は約20年振り、かつ日本人以外の外国人が住んでいない外国人慣れをしていない地域でした。赴任と同時に一瞬で州の有名人となり、活動でコミュニティを巡回するといつも周りに現地の人々が集まって来る状態でした。また、リハビリテーションの概念がほぼ根づいていない地域で一から活動を開始しました。
 このような背景もあり、要請内容の「(1)理学療法部門の運営、(2)CBR(*)部門の業務援助、(3)同僚への知識・技術の伝達」の実施だけでも手一杯だったのですが、赴任後約半年間で現地を観察する中で、腰痛や膝関節痛、生活習慣病に悩まされる人が多いことにも気付きました。2年という限られた時間の中で精一杯活動したいという気持ちもあり、この2点に対する予防のワークショップ(以下、 WS)も活動計画に組み込みました。
 2つのWSは、現地の人々の「日本人に対する興味の強さ=集客力」を生かして、同僚の協力も得ながら、同国の医療系隊員を私の任地に呼び寄せるかたちで協働して行う計画を立てました。同僚は医療専門職ではなかったため、企画は主に隊員同士で立てました。赴任から1年4カ月後に、1つ目の「腰痛・膝関節痛予防のWS」を開催。そして、「生活習慣病予防のWS」は、赴任から1年8カ月を目安に、首都で活動する看護師隊員と協働で開催することを計画していましたが、計画通りに開催できないまま、任期終了を迎えてしまいました。
 その理由の1つは、任地への移動手段の少なさにあります。首都から任地への主な移動手段は週2回の小型飛行機で、天候や燃料不足によって飛ばないこともあります。不運にもWSの時期に燃料が底を尽き、3週間程飛行機が飛ばない事態が起こってしまったのです。
 その結果、共同企画者である隊員が首都から私の任地に来られず、また計画を任期後半に設定していたため振り替えの日程も立てられず、計画した通りのWSは開催できないまま、任期を終えました。  移動のリスクを考え、計画を見直せたら、隊員を呼ぶことに注力しすぎず、企画の比重を同僚に置くことも考えたはずです。当時は活動目標の達成に意識が向き、それらを考える余裕がなかったことが失敗の原因だと思っています。

* CBR…「Community Based Rehabilitation (地域に根ざしたリハビリテーション)」の略。施設の中だけでなく、地域社会とのかかわりのなかで行われるリハビリ。

隊員自身の振り返り

 失敗の原因のひとつは、任期の途中で活動計画を見直す勇気がなかったことだと考えます。同僚や現地の人にとっては長い年月のうちのたった2年なので、現地の人の時間軸で物事を変えていこうとする心の余裕が必要だったと感じています。もうひとつは、日本人の集客力に重点を置きすぎたことだと考えています。成功すれば集客力も高く、現地への影響力はあったと思いますが、日本人を任地に呼び寄せて啓発をしても、私の帰国後にそれを続けて啓発していく人がいなければ、種を蒔いただけで芽は出ずに終わってしまいます。同僚が医療職ではなくてもワークショップ(WS)の共同企画者としての比重をもっと置き、他医療系隊員にはアイデアをもらう形にすれば、計画通りWSは実施でき、継続した活動になったかもしれません。

他隊員の分析

伝達方法の多様性

 ワークショップ(WS)などのイベント規模の集客が必要となる活動は、現地のインフラ状況や国民性など多くのリスクファクターが生じてしまいます。計画の段階で同じWS内容に対して、「(1)1人で開催パターン、(2)隊員同士協働パターン、(3)現地の方との協働パターン」を用意しておくのも1つの手だったのではないでしょうか。配信活動・啓蒙活動を目的としているのであれば、WSの動画などをFacebookなどのSNSや配属先のウェブサイトにアップすることや、ポスター作成をして活動していくことも組み込むことができたら良かったと考えます。
文=協力隊経験者
●アジア・作業療法士・2016年度派遣
●取り組んだ活動
リハビリテーション病院に配属され、主に脳卒中・整形疾患患者の治療、同僚への技術指導、体の模型や治療器具、自助具の製作などの活動に従事した。予防医療に対しての啓蒙活動としてSNS等を利用して配信活動も行った。

専門性を問わず同僚をどんどん巻き込む

 ご自身も振り返っているように、専門職でなくても企画の比重を同僚に置ければよかったと考えます。私は赴任8カ月後から主活動の他に地方への啓蒙活動を日本人主体で開始しました。同僚は同行できませんでしたが、必ず巻き込みました。「語学力不足」を利用して自作資料の修正を依頼するという手段を使い、同僚・助手・総務など専門性を問わず多くの人にかかわってもらいました。その結果「地方授業はどうだった?」など興味を持ってくれ、専門性がない人へも啓蒙でき、多視点からの意見ももらえ、新たな活動が開始。定着につながりました。
文=協力隊経験者
●中南米・理学療法士・2016年度派遣
●取り組んだ活動
診療所のリハビリテーション室で同僚への指導を実施した。また、側弯症が多かったため、同僚と原因を考え、乳児期からの正常発達の啓蒙活動を実施。診療所内や、医療機関が少ない地方でさまざまな職種の養成校で出張授業を行った。

村田さん基礎情報





【PROFILE】
1987年生まれ、北海道出身。2010年、北海道文教大学理学療法学科を卒業後、神奈川県の総合病院と東京都の訪問看護ステーションにて、理学療法士として合計7年半従事。18年1月、青年海外協力隊員としてソロモンに赴任。20年1月、帰国。現在は、東京都内の訪問看護ステーションにて在宅リハビリテーションに従事している。

【活動概要】
ソロモンのテモツ州のラタ病院CBR部門に配属され、以下の活動を行った。
●院内に理学療法部門を立ち上げ、入院・外来患者に対する理学療法を実施
●CBR部門の同僚と共に州内の村を巡回し、障がい者や高齢者に対するリハビリテーション支援の実施 など

知られざるストーリー