JICA Volunteers’ before ⇒ after

宮 隆彰さん(エクアドル・環境教育・2014年度1次隊)

before:大学生
after:水処理施設の運転管理者

 水・大気・廃棄物……環境問題のどの分野を専門にしようか迷っていた大学時代の宮さんは、環境問題の現場を見るために協力隊に参加した。現地で水が直接飲めない辛さを味わったことで、帰国後は水処理分野に進み、現在は水処理施設で技術者として働いている。

現場で教えられた自身の進路

エクアドルで協力隊員として活動する宮さん。現地の人に対して高倉式コンポストの普及活動を行った

 新潟県小千谷市。山に囲まれた自然が溢れる街で宮さんは育った。キャンプや山遊びが好きだった少年は、木が伐採されたり、海に重油が流れたりするニュースを見て、環境問題に関心を持ち、それらを学ぶため大学に進学。大学卒業後は、環境問題にかかわる仕事に就きたいと思っていたが、環境問題には酸性雨や熱帯雨林減少、海洋汚染などの分野がある。どの分野に取り組んでも問題解決につながる一方、自分の専門を何にしたらよいのか悩んだ。「現場を見て、今後の進路を考えよう」。以前大学に協力隊OBが出前講座に来てくれたことがあり、環境教育の活動があることは知っていた。そこで、協力隊への参加を決め、受験。環境教育隊員としてエクアドルに派遣されることが決まった。
 活動地域は標高3000メートルの場所にあるエクアドルの街、グアモテ。同地は、廃棄物処理に問題があり、その改善が必要とされていた。廃棄物処理場にはゴミが溢れ、野犬やハエが発生し、公衆衛生の問題があった。廃棄物の8割は生ゴミと知った宮さんは「高倉式コンポスト(*)」の普及による生ゴミの削減と、環境教育活動に取り組むことになった。他地域の環境教育隊員との連携もあり、どちらの活動も2年間である程度まで形にすることができたという。そして活動を通して宮さんは技術の重要性を学んだ。
「実務経験のない私が現地でできることは少ない。現地のために何かできたのは高倉式コンポストの技術を日本から持っていったからでした。技術移転で状況の改善ができると実感できたので、帰国後は、技術を身につけられる仕事に就こうと決意しました」
 仕事選びのもうひとつのきっかけとなったのが水だ。現地の水道水は寄生虫が混入しているので、必ず煮沸して飲む。現地の人に「日本では蛇口から出る水はそのまま飲める」と伝えたとき「日本の技術はすごいね」と驚かれた。水道水をそのまま飲める国は世界でも少ない。日本の技術を獲得すれば、将来世界が抱える水分野の環境問題を解決する糸口になるかもしれない……帰国後、自分がやるべきことが見えてきた気がした。

* 高倉式コンポスト…J-POWERグループ株式会社ジェイペックの高倉弘二氏が開発したコンポスト化手法のひとつで、特定の発酵菌ではなく、現地で入手できる発酵菌を利用し、有機ゴミを分解する。

水分野から環境問題に取り組む

河川の水質をチェックする現在の宮さん。水の量や濁りなどを確認し、水処理を行う際の薬品の量や、水処理をする水量などを決める目安のひとつにする。たとえば、台風が来ると水が濁り、使う薬品の量が変わる

「『環境』『水』とネットで検索してヒットした企業のひとつが現在勤める会社でした。水処理の技術者になれると思い、応募しました」
 2016年の7月に帰国し、11月に総合水事業会社の水ing 株式会社に入社。同社は、国内外の水処理施設の設計・施工・運転管理などを行っており、海外でも様々な地域の水に関する課題を解決する水処理施設を建設に関し多くの実績がある。
 宮さんの仕事は、国内にある浄水場や下水処理場などの施設の運転管理。水処理の施設は24時間稼働させるため、勤務は日勤と夜勤の交替制だ。業務内容は、浄水場であれば、河川などの水源から取水し、水の量と状態に合わせて薬品を混ぜ、処理をしてきれいな水にした後、水道管に送る。施設ではポンプや送風機、発電機など多くの機械、また水の状態などを検査するために多くの計器を使い、水や施設の状態に、異常がないかを確認している。
 仕事を始めて4年。日々の業務に加え、水質、機械、電気に関する資格も取得し、技術者として着実にステップアップしている宮さん。自身も日常生活で使用する水というインフラを守れていることにやりがいを感じているという。運転管理の仕事は、施設と会社との契約で決まるため、契約によって勤務する施設が変わる。現在、宮さんは国内の浄水場に勤務しているが、これが4つ目の施設だ。
「人も、施設の特性も、水質も場所によって異なりますが、そのような環境で働くことに無理なく適応できるのは、協力隊の経験があったからだと感じています」
 エクアドルでは高地にいた影響で、消化不良になり、満足な睡眠がとれず、10キロ痩せたという。現地の人から食材の調理方法や高山病の対応法を聞き、生活に取り入れた。「半分くらいは効果がなかったんですけど」と笑って話すが、現地の人がやっていることを素直に取り入れることで、適応し、乗り越えられるものがあるということを体感できた。
「施設でも着任したての期間は、人の方法を学び、覚えることを大切にしています」
 いずれは水処理に関連する改善の提案もしたいきたいと宮さんは話す。例えば、浄水に使用するエネルギー量を減らせるポンプ稼働の方法が提案できれば、それはエネルギー問題の解決にもつながるからだ。
「水処理分野の一流の技術者になって、環境問題の解決に貢献したいと思っています」






宮さんのプロフィール

【before】
[1992]
新潟県出身。
[2014]
3月、鳥取環境大学環境情報学部環境マネジメント学科卒業。

【JICA Volunteer】
[2014]
7月、青年海外協力隊に参加(環境問題のどの分野で仕事をするのかを悩み、現場での経験が必要だと考える。そこで、現場で活動できる協力隊に参加を決めた)。エクアドルのグアモテ地域にある市役所に配属され、廃棄物処理の問題解決と、市民や小中学校の児童・生徒に対し環境教育を行う。
[2016]
7月、帰国。

【after】
[2016]
総合水事業会社「水ing株式会社」に入社(隊員として生活する中で、現地の水が直接飲めないことを非常に辛く感じた。いつか現地の水問題を解決したいと、水関連の企業に入社)。水処理施設の維持管理業務に携わる。

水ing(スイング)株式会社
設立:1912年
本社住所:東京都港区港南1-7-18 A-PLACE 品川東
従業員数:4700人(2019年4月) ※ 国内外子会社含む
事業内容:水処理施設の設計・施工・マネジメント など

知られざるストーリー