水揚げ量をまとめる作業を手伝いつつ、
配属先の業務改善に尽力

野中香里さん(︎ベナン・コミュニティ開発・2016年度2次隊)の事例

零細漁港を運営する政府の出先機関に配属された野中さん。日々の水揚げ量をデータベースに入力する作業を手伝いつつ、配属先の業務改善に貢献できることを探っていった。

野中さん基礎情報





【PROFILE】
1987年生まれ、佐賀県出身。大学卒業後、石油卸売会社社員、東日本大震災の被災地自治体の任期付職員を経て、2016年9月に青年海外協力隊員としてベナンに赴任。18年9月に帰国。現在は在ギニア日本国大使館の「草の根・人間の安全保障無償資金協力」を担当する外部委嘱員。

【活動概要】
農業畜産水産省水産局海洋漁業部(リトラル県コトヌー市)に配属され、零細漁港の運営に関する主に以下の活動に従事。
●水揚げ量の統計を出す業務の支援
●仲買人などを対象とした衛生啓発


漁港の岸壁に集まる小型漁船。船籍を示す国旗はさまざまだ

漁港で行われるセリの様子

仕入れた魚を漁港内の市場で小売りする仲買人たち

 ギニア湾に面しつつ、内陸国のニジェールやブルキナファソを含む4カ国と接するベナンは、貨物船で運ばれてきた商品を隣国に再輸出する中継貿易が主要産業の1つとなっている。貨物船が発着する同国唯一の商業港を擁するのは、首都のウェメ県ポルトノボ市の南西約25キロに位置するリトラル県コトヌー市。同国の経済の中心地であるだけでなく、政府の庁舎や各国大使館、国際空港などが集まる事実上の首都と言える大都市だ。
 同市の商業港の傍らには、小型漁船が水揚げする零細漁港もあり、ベナンの漁業者だけでなく、ガーナやトーゴなど他国の漁業者も多く利用している。漁業者の組合員は約1000人、仲買人の組合員は約800人という規模だ。1日に平均で約50隻の漁船が水揚げし、年間の水揚げ量は約3000トン。水揚げされる魚は、カツオやサバ、トビウオ、スズキなど約50種類にのぼる。仲買人は漁港近くのホテルやレストラン、市場の小売店などを主な卸先とするほか、漁港内にある市場で住民への小売りもしている。そうした漁港を運営する農業畜産水産省水産局の海洋漁業部が、野中さんの配属先だ。同局の庁舎はコトヌー市の市街地にあるが、海洋漁業部の事務所は漁港の中にある。
 海洋漁業部の主な業務の1つは「氷の製造・販売」。仲買人はそれぞれ、買い付けた魚の鮮度を保つため、氷を入れて魚を冷やす大型の保冷容器を持つ。同部が製造・販売するのは、そこに入れる砕いた氷である。同部のもう1つの主な業務は、水揚げされた魚を計量し、水揚げ量の統計を出すことだ。
 野中さんのメインの活動の1つとなったのは、水揚げ量の統計を出す次のようなフローの業務を支援することだった。
(1)水揚げされた魚を計量する。
(2)決められたフォーマットのシートに、「日付」「漁船登録番号」「漁業者名」「魚種」「水揚げ量」などを記入する。
(3)シートに記入された情報を、海洋漁業部のパソコンに格納してある専用のデータベースファイルに入力する。
(4)月ごとに各魚種の水揚げ量を集計し、その結果を水産局に提出する。
 (1)と(2)は海洋漁業部が雇う2人のスタッフが専従で担当。一方、(3)と(4)は野中さんの着任当時、統計担当の職員(以下、Aさん)が1人でこなさなければならない状態だった。しかし、Aさんはほかの部の仕事も兼務しており、手が回っていなかった。そうしたなかでAさんは、着任したばかりの野中さんに対し、(3)を手伝ってほしいと依頼。野中さんはマンパワーとしての活動に時間を取られることへの抵抗も感じたが、漁港の状況を把握する手段になると思い、引き受けることにした。

漁港のセリの会場で地域の小学校の社会科見学に対応するAさん(左端)

衛生啓発を目的に、仲買人が持つ保冷容器の中の魚の温度を同僚(左)と共に確認する野中さん

データ入力の新アプリが誕生

 野中さんは日々、(3)の作業を手伝いつつ、水揚げ量の統計を出す業務にある課題を探っていった。そうして任期中、いくつかの改善を実現することができた。その1つは、(2)のシートの管理方法に関するものだ。野中さんの着任当時、海洋漁業部の事務所の棚には、統計を出すことを始めた2010年以降のすべての記入済みシートが山積みの状態で保管されていた。事務所の整理整頓を進めたいと考えた野中さんは、Aさんに「過去のものは破棄しませんか?」と提案。するとAさんは、「シートはすべて保存するというルールがある」と言った後、「実は、一部のシートの束は、古いものだけれどまだデータベースへの入力が済んでいない分なのです」と打ち明けてくれた。人手が足りないため、(4)の集計は未処理のシートを残した不正確なものとなっている月もあったのだ。
 以上のような状況を踏まえ、野中さんが最初に行ったのは、保管されているシートをファイリングし直すこと。年ごとに別々のバインダーを用意し、シートを月ごとに分け、サムネイルを挟んで綴じていった。一次データが記録されたシートを適切に管理することが、正しい統計データを出すうえでの大前提になるとの考えで取り組んだ改善である。
 次に行ったのは、水揚げ量のデータベースが格納されている海洋漁業部のパソコン以外の端末からでも、(3)の作業ができるようにするための働きかけだ。ベナンでは、コトヌー市以外にある漁港や、内陸の川や湖でも魚の水揚げがある。海洋漁業部のデータベースは、ゆくゆくは国内全体の水揚げ量を集約するものとすべきであり、そのためにはデータの入力ができる端末を広げるべきだとの考えに立っての取り組みだった。
 野中さんの働きかけが1つのきっかけとなり、スマートフォンからインターネット経由で海洋漁業部のデータベースに入力できるアプリが水産局の予算でつくられたのは、野中さんの任期が後半に入ってからだ。それにより、同局が常時数人ずつ受け入れているインターンにも、(3)の作業を分担してもらえることになった。そうして海洋漁業部の負担が減ったことで、Aさんはそれまでできなかった事業に取り組めるようになった。その1つは、小・中学校の児童・生徒の社会科見学を受け入れること。漁港の水揚げやセリの様子を見てもらうことは、児童・生徒の視野が広がるだけでなく、漁港にとっても、彼らが大人になったときに漁港で氷を買ったり、漁港の魚を仲買人から買ったりしてもらえる可能性が高まる「営業活動」でもあった。

任地ひと口メモ 〈コトヌー〉

ベナン最大の都市コトヌーの街中はバイクで溢れかえるが、下水処理施設が整備されておらず、頻繁に道路が冠水する




現地の人々は種類が豊富なプリント布「パーニュ」を買い、写真のようなクチュリエ(テーラー)に服を仕立ててもらう




イニャム(ヤムイモ)をふかしてついた「イニャムピレ」(左)と、付け合わせの魚のスープ。現地でポピュラーな料理の1つだ



知られざるストーリー