専門学校の通信科に進学し、
ソーシャルワーカーの道へ

佐藤 歩さん(モンゴル・青少年活動・2013年度3次隊)

「いずれは『専門』と呼べるものを持ちたい」とのビジョンを抱いて協力隊に参加した佐藤さん。派遣中に米国など他国のソーシャルワーカーと出会った経験により興味が深まったことから、帰国後、専門学校の通信科でソーシャルワーカーとしての専門性を身につけた。






佐藤さんのキャリアパス

1979年生まれ、北海道出身
[大学生]
文学部で心理学を専攻。
[病院職員]
病院の精神科で、患者の社会復帰に向けたリハビリプログラムの支援に従事(1年間)。
[日本語教師]
日本語教師養成講座を修了した後、日本語学校に教員として勤務。
[民間企業社員]
事務とカスタマーサービスに従事。
[協力隊員]
2014年1月に青年海外協力隊員としてモンゴルに赴任。2016年1月に帰国。
[専門学校生]
2016年5月から18カ月間、学校法人日本医療大学の生涯学習センター社会福祉士通信科に、2019年5月から9カ月間、同センターの精神保健福祉士通信科に在籍。
[ソーシャルワーカー]
2016年8月から特定非営利活動法人コミュネット楽創(らくそう)に勤務。

佐藤さんの進学概要

■ 進学先
学校法人日本医療大学 生涯学習センター
※社会福祉士通信科(A)、精神保健福祉士通信科(B)
■ 在学期間
A:2016年5月から18カ月間
B:2019年5月から9カ月間
■ 入学金・授業料
A:約33万円、B:約40万円
■ 学習/研究の内容
A:社会福祉学、B:精神保健福祉学


【協力隊時代】小・中・高一貫のメルゲド統合学校(ウブルハンガイ県アルバイヘール)に配属され、日本語授業や課外活動などを担当した。写真は、日本語授業の中で児童に折り紙を教える佐藤さん

【現職】所属先のコミュネット楽創は、北海道札幌市で就労移行支援の事業所の運営などを行う団体。写真は、同団体が運営する事業所で精神障害や発達障害がある人への就職に向けた訓練を行う佐藤さん

−−帰国後、専門学校の通信科に入学した動機をお教えください。

 社会人になってまもない頃から、何か「専門」と呼べるものを持ちたいと思うようになり、働きながら日本語教師養成講座を受講したのですが、実際に日本語教師として働いてみると、生計を立てるのが容易ではない職業だと感じました。そこで視野に入れたのが、ソーシャルワーカーの専門性を認定する「社会福祉士(*1)」や「精神保健福祉士(*2)」などの国家資格を取ることです。ソーシャルワーカーというのは、障害者など日常生活に支障がある方々へ助言や指導などを行う職種であり、大学で心理学を勉強した経験や、病院の精神科でソーシャルワーカーに近い仕事に携わった経験が生かせると考えました。海外にも興味があったので、先に協力隊に参加したのですが、任期中、ボランティアとしてモンゴルで活動していた米国とオーストラリアのソーシャルワーカーに、両国では修士号が必要とされる重要な専門職であるといった話を聞き、ソーシャルワーカーの仕事に対する興味がさらに高まりました。そうして帰国の3カ月前に、まずは社会福祉士の国家資格を取ることを決意しました。

*1 社会福祉士…日常生活に支障がある人の福祉に関する相談に応じ、助言や指導などを行う人の国家資格。
*2 精神保健福祉士…精神障害者の社会生活に関する相談に応じ、助言や指導などを行う人の国家資格。

−−進学先はどのように決めたのでしょうか。

 職業訓練を受ける費用の一部を補助してもらえる「専門実践教育訓練制度」というハローワークの制度を利用したのですが、私が受講した学校法人日本医療大学の生涯学習センターは、制度が適用される学校の1つでした。入学は帰国の4カ月後です。「就労移行支援(*3)」の事業所を運営する今の勤務先にはその3カ月後に就職し、働きながら学校の勉強を進めました。採用面接の際、社会福祉士の勉強をしており、学校の実習で仕事を休まなければならなくなる旨を伝え、了承していただきました。社会福祉士や精神保健福祉士は、国家資格を持つ人だけにその業務への従事が認められる医師や弁護士のような「業務独占資格」ではありませんので、国家資格を取得していなくてもその業務に携わることができます。私は就職した当初からソーシャルワーカーに近い仕事を担当していたのですが、「ソーシャルワーカー」という肩書を使い始めたのは、社会福祉士の国家資格を取ってからです。

*3 就労移行支援…障害者総合支援法にもとづいて障害や難病がある人を対象に行われる、就職のために必要な知識や能力を高めるための支援。

−−仕事と勉強を両立させる苦労はありましたか。

 通信科の履修はレポートの提出が中心なのですが、仕事が終わった後、自習室へ行って2、3時間勉強してから帰宅するというような生活でしたので、やはり大変でした。社会福祉士の国家資格を取得した後、同じ学校で精神保健福祉士の通信科を受講し、その国家資格も取ることができたのですが、社会福祉士は国家資格を取るのに予定より1年長くかかってしまいました。

−−国家資格を取得できるだけの勉強をしたことで、より質の高い仕事ができるようになりましたでしょうか。

 私が現在携わっているのは、主に精神障害や発達障害がある人の就職を支援する仕事で、具体的には、就職の方向性を決めるための相談を受けること、就職に向けた技能の訓練を行うこと、就職活動や就職後の問題をフォローすることなどです。そうした仕事をするうえで、学校で勉強した「障害」「福祉制度」「相談を受ける際の面接技術」などの知識は、より適切な支援をするために役立っていると思います。しかし、支援の対象はひとりひとり違いがある「人間」ですから、「機械」のように「このボタンを押せば、必ずこれが出てくる」というわけにはいきません。そのため、「面接技術」などは、常に磨き続けていかなければならないと感じています。

−−仕事に関する今後の抱負をお聞かせください。

「今晩はラーメンが食べたい」といったささやかなものであれ、人間はいつも何かしらの「希望」を持っているものだと思います。精神障害や発達障害がある人も、その点に変わりはないのですが、彼らのなかには、自分が持つ希望に気づけなかったり、実現可能な希望とそうでないものを整理できなかったりする人もいらっしゃいます。そうした方々の「実現可能な希望」を明確にするためのお手伝いが、ソーシャルワーカーとしてもっとも重要な役目だと感じています。
 私がこれまでに対応した方のなかに、勉強は得意だけれども、発達障害があるために就職を諦めかけていた方がいらっしゃいました。当初は、単純な事務作業など障害者向けの仕事に応募しては不合格になるということを繰り返していたのですが、あるときご本人が「プログラミングのような仕事に興味がある」と「希望」を口にしたのをきっかけに支援の方針を変えたところ、適性が判明し、通常の正社員として活躍するまでになりました。このように人の人生を左右するような局面にかかわることができる点で、ソーシャルワーカーはとてもやりがいのある仕事だと感じているので、今後もこの道を極めるための努力を続けていきたいと考えています。

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